第34話 模擬戦決着!
俺の蔓に拘束された姫騎士様ことセラフィーちゃん。
その桃色の唇が呪文を発する――『風刃大輪咲!』
彼女の全身が、霧を纏い一瞬白くかすむ――
と同時に轟く破裂音!
千は下らない無数の白刃が、彼女の全身から一気に飛び出した。
三日月型の花びらに覆われた大輪花が、打ち上げ花火さながらに丸く咲く。
その美しい光景と同時に、全身を拘束していた蔓が一斉に切断、飛び散った。
俺の盾にも、勢い余った数発の白刃が突き刺さる。
拘束を解かれたセラフィーちゃんは、しなやかに着地した。
「魔法って全身から出せるのかよぉぉ~~っ!!?
そもそも、今の魔法は低級じゃないだろ~~っ!!?」
抗議する俺に、姫騎士様は至って真面目に答えた。
「低級だ。数が多いだけで個々の風刃の威力は低い」
納得がいかないが、魔法の知識に乏しい俺では判断できない。
まあセラフィーちゃんがズルをするとも思えんが。
プランBが通用しない以上、俺にはもうくっころを行使する手立てがない。
(万策が尽きた――! 諦めるしかない――!)
「もう一つ行くぞ!」
と、セラフィーちゃんが草地に片膝と片腕をついた。
直後唱える――
『風刃渦波咲!』
片膝をついた彼女の周りに白霧が吹きあがる――
と同時に吠える暴風音!
呪文により開花した千の三日月刃が大地を這い回る。
草を刈り幾何学模様を描きながら、螺旋状に広がっていく。
その鋭利な白刃が、彼女を取り囲んでいるウネピュン草の根元を襲った。
風刃の波状攻撃にさらされ、次々と倒れ粉砕されるウネピュン草。
そこから滲む青い匂いが鍛錬場にむせていく。
ほどなく、片膝をついたセラフィーちゃんの周囲に、巨大なサークルを残して風刃音は消えた――
無事なウネピュン草は、俺の後ろに生えている一株だけだ。
「くそっ! 残る手段は!?」
躊躇する時間はない!
俺は最後の賭けに出る。
立体機動の練習をしている時に、思いついた方法がある。
平地で役に立つか分からないが、とりあえず事前に仕込んでおいた。
あらかじめ地面で渦巻き状にしてある蔓。
その真ん中に乗る。
「一か八かだ!!」
跳躍の予備動作なし――
盾を突き出した形で、セラフィーちゃんに向かって飛んだ!
渦巻いた蔓を、前方に向かって勢いよくバネ状に伸ばし、自分を射出したのだ。
片膝をついたままのセラフィーちゃん。
いきなり飛んでくる俺に対処する方法は限られる。
彼女は即座に俺に掌を向け唱える――『風撃!』
俺は盾を投げ捨て――
襲い来る風撃に頭から突っ込んだ!
風撃と衝突!
“俺の飛ぶ勢いは殺され、その場で地面に落ちる”
セラフィーちゃんはそう計算したはずだ。
だが、違った!
俺の身体は風撃という空気の塊を通り抜け、勢いを維持したまま飛び続けた。
「!!!」―― 彼女の瞳が見開かれる!
予測とは違う俺の動きに、わずかに回避が遅れる。
その脇をすり抜けざま、剣を振るった!
剣を持つ手に軽い衝撃が伝わる。
左手を地面につき、身体を丸め前転、即座に立ち上がり振り向く。
甲高い金属音が鳴り、姫騎士様の身体が虹色に輝いている。
俺の剣先が彼女の太腿をかすったのだ。
ほどなくして光が収まる。
同時に、彼女が身に着けている身代護符のペンダントが、済んだ音色を発しガラスの様に砕け散った。
「それまで! 勝負あり!」
鍛練場に野太い声が響く。
模擬戦の見届け人である、セラフィーちゃんのお父さん、バルグ兵団長だ。
「勝者! 虚穴人、草太殿!」
つかの間の静寂をともない、鍛錬場に朝日が差し込んでくる。
その日差しに銀髪を輝かせた姫騎士様が、俺に歩み寄ってきた。
「見事だ! 草太殿がこれほど闘えるとは思わなかったぞ!」
彼女は微笑み、勝者に言葉を掛けた後、疑問を口にした。
「それにしても最後、風撃を突破したのは驚いた。どうやったのだ?
確かに勢いよく飛んでいたが。
だが風撃と真正面から衝突して、突破できる勢いではなかったはずだぞ?」
俺はうなだれ、力なく答えた。
「あれは…… 風撃の形を予想しただけだ。それが当たったんだ」
「形? ただの空気の塊であろう?」
セラフィーちゃんは風撃が空気の塊だと思っているようだ。
視認できないし、無自覚に魔法を行使しているのだろう。
俺は風撃を喰らっているうちに、気付いた。
風撃は身体に当たった後もしばらく減衰せずに押してくる。ただの空気の塊ではあり得ない。
導き出した答えは「渦」だ。
空気がドーナツ状に渦巻いて、飛んでいるのだ。
科学実験の定番の空気砲。
段ボールの一面に穴を開け、叩いた時に空気がドーナツ状の渦になり、遠くまで飛んでいく。
風撃はそれの物凄い版だ。中心に空洞があるのだ。
だがその空洞は決して大きくはない。
予想では、少々小柄な俺が頭から飛び込んで、ギリギリくぐれるかどうか。
盾を投げ捨てたのもそのためだ。
僅かでも中心を外れていたら、吹っ飛ばされたはずだ。
俺は一か八かに賭けたのだ。
「風撃はリング状に渦巻く風なんだよ。中心に穴があいてる」
「リング状だと!?
風撃の形など今まで考えてもみなかった…… やはり虚穴人は面白い発想をするものだな。
しかし実際に通り抜けたのだ、草太殿を信じよう!」
セラフィーちゃんは顎に手を当て、素直に納得した後。
浮かない顔の俺を覗き込んだ。
「ところで、私との模擬戦に勝ったのに、嬉しそうではないな、草太殿」
「もちろん勝てて良かったさ…… だけど俺が真に目指していた結果じゃない」
そう……俺は最後、諦めてしまったのだ、くっころを……。
初志貫徹を貫き通すことができなかったのだ。
己の力量不足と、そして何よりも己の心の弱さを痛感していた……。
そこに大きな影が近づいてくる。筋肉達磨さんことバルグ団長だ。
「セラフィー姫。草太殿は見かけによらず、武人としての矜持を持っておるようだ。
ハンデ付きの勝負に勝ったことに浮かれず、平手で勝ってこそ真の勝利と、己を戒めているのだ」
「そうでしょうか?―― いえ、父上が言うなら間違いなく、そうなのでしょう!」
父娘が俺の心中を勘違いした会話をしているが。
正す気力も湧かなかった。
朝日が背中から俺を照らす。
目の前には細長く弱々しい漢の影が伸びる。
(俺は……まだまだだ…… BIGとは程遠い漢なのだ……)
しかし済んだことを、いつまでも悔やんでいてもBIGにはなれない。
超絶美少女様と共にする、冒険の旅は勝ち取ったのだ。それを喜ぶべきだろう。
こんな時、日本には気持ちを切り替える便利な言葉がある。
俺は空を見上げ声に出す。
「やれるだけのことは―― やった!」
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