第33話 プランB発動!!!
俺は雑草が所どころ生える鍛錬場を全速力で走る。
右手にショートソード、左手は丸盾装備だ。
セラフィーちゃんに肉薄し、上段から剣を振り下ろした。
剣先は彼女に僅かに届かず、風切り音だけ残す。
その間、姫騎士様は両手を下げた自然体の姿勢のままだった。
俺はわざと外した。
彼女の力量を測るためだ。
くっころの前に剣で勝負を付けるわけにはいかない。
彼女は俺の繰り出した剣の間合いを、完璧に見切っていたようだ。
だとしても、恐怖で少しは避ける動作をすると思うのだが……
姫騎士様は微動だにしないどころか、眉一つ動かさない。
「ふざけているのか? 草太殿」
彼女は無表情のまま掌を俺に向け、唱えた――『風撃』
俺は咄嗟に盾を構える。
「くっ!」
巨大な風の塊に全身を殴られ、後ろに吹き飛び宙に浮く。
身体が回転しないように盾の角度を調整し、足から着地。
勢いの収まらない風の塊に押される。
短い雑草の生えた地面をズザザーと滑り、元居た地点で止まった。
『風撃』は俺がこの世界に転移した初日に、セラフィーちゃんから3発喰らった魔法だ。
風に身体が吹き飛ばされる、この感覚!
(懐かしいっ!)
若干の郷愁を感じつつ、スキルで急成長させたウネピュン草を見る。
そこには俺のイメージ通りに、無数の蔓を成長させた姿があった。
数本の蔓が地面を這い、それ以外のほとんどの蔓は数十メートル上に伸び、噴水状態に広がっている。
(姫騎士様のお手並み拝見だ!)
俺はウネピュン草をコントロール。
上空に伸ばした蔓を、一気に突進させた。
空中から迫りくる蔓に向かい、姫騎士様が腕を伸ばす。
「これが草太殿が以前口を滑らせた、蔓操作か」
焦った様子もなく、人差し指と中指、二本の指を立てる。
拳銃を撃つ構えで、呪文を唱えた――
『風刃』
バシュゥゥン! と鳴る破裂音!
指先から三日月状の白刃が放たれ、瞬時に蔓を切断した!
(ちっ! やっぱ、鎌いたち系の魔法あるんだ!)
俺の蔓操作は、この風で切断する定番魔法と、明らかに相性が良くない。
そして無言のままの彼女の指先から、連続して白刃が放たれる。
風刃は次々と蔓と交差して切断し、霧散して消えていく。
蔓の切れ端がボトボトと草地の地面に落ちる。
綺麗に斬られた断面がみずみずしく、風刃の切れ味を物語る。
同じ魔法を繰り返す時は、詠唱の必要が無いのか――!?
さらに厄介だ!
唯一の救いは目に見える事ぐらいか――
風撃は目に見えないが、風刃は見える。
風は本来、当然見えない。
風刃の先端で発生する、大気との凄まじい気圧差。
それが雲を発生させ、風刃の形状を浮かび上がらせているのだろう。
俺は攻撃の手を休めず、追加で蔓を伸ばし繰り出す。
しかし姫騎士様に届く前に、全て切り落とされてしまう。
彼女相手には蔓だけでは火力不足だ。
俺は上空に伸ばした蔓達と同時に、突進した。
今度は剣先が確実に当たる距離で剣を振るう。
姫騎士様は風刃で上空の蔓を切断しながら、半歩動いて俺の剣をかわす。
俺が間髪を入れずに攻撃し続けるが、全く当たらない。
彼女は最小限の動きで剣をかわし、同時に風刃を連射。
優雅に舞うような動きだった。
「その様な腑抜けた剣筋では、到底私には届かないぞ」―― 『風撃』
再び風撃が俺を吹き飛ばす。
剣を振るっていたために、盾を構えるのが遅れ、空中での姿勢が崩れる。
足から着地できず、ボールのように草地を転がった。
雑草の切れ端が口に入り、不快な味が広がる。
途中で倒れ、風撃の軌道からそれたことで、前回ほど後ろに下がらなかったが――
それでも10数メートル離された。
間髪を入れず、セラフィーちゃんが唱える。
『風刃』
慌てて膝立ちになり、盾を前に出した直後、鋭い音と共に衝撃が腕に伝わる。
風刃が盾を貫通することはなかったが、投げナイフより遥かに威力がありそうだ。
姫騎士様が両腕を俺に向け、二丁拳銃を撃つ仕草で、風刃を上下に乱射する。
盾では全身を隠せない。
攻撃に使っていた蔓を盾代わりに俺の前に伸ばす。
絶え間なく盾に衝撃が伝わり、蔓が斬り落とされる。
身動きが取れない。
俺が防戦一方に追い込まれた――
様に見える。
が、そうではない。
プランBは着々と進行中だ。
既にウネピュン草の地下茎を、彼女を囲むように張り巡らせた。
後は一斉に複数のウネピュン草を成長させ、蔓を伸ばし、四方八方から姫騎士様を襲わせる。
対処不可能な物量の蔓で拘束する計画。
問題は時間だ。
俺のスキルが【植物師】に昇格したとはいえ、芽吹かせてから成長させるまで数秒はかかる。
それは姫騎士様がウネピュン草の包囲を抜け出すには、十分な時間だ。
数秒間、彼女をその場に釘付にする必要がある。
「草太殿、亀のように縮こまっていても、私には勝てないぞ」
(今は我慢、もう少しの辛抱だ!)
時間稼ぎに会話する。
「セラフィーちゃん、そろそろ魔力切れになるんじゃないの!? 連射しすぎだろう!」
「残念だが、低威力の魔法なら私は一日中でも撃てる」
(えっ!? そうなの!?)
魔力切れをちょっとは期待してたんだけど――
しゃーない! 精神攻撃で切り抜けるしかない!
「ここは勝ちを譲って俺を同行させると、凄~~~く! いいことあるよ!」
「凄く良いことだと!?」
「旅先でも、セラフィーちゃんの大好きな、完熟トマトを毎日食べられる!」
「……………………………………そ、草太殿!
お……王族たる私を、トトト、トマトで!……ば! 買収するつもりか~~~~っ!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーッ!
マシンガンを連想させる風音が轟き渡る!
お姫様が風刃を鬼の様に撃ってきやがった!
構えた盾が衝撃で激しく振動し押し込まれる!
(やべぇ~っ!! 盾が削れる!!)
セラフィーちゃんの弱みを突くつもりが、逆効果だった。
(だが、機は熟した!!)
張り巡らせた地下茎に思いっきり念を送る!
彼女を取り囲むように、複数のウネピュン草が一斉に成長する。
「むっ!? 数で攻めてきたか!」
状況を察知した姫騎士様。素早くその場から離脱――
出来なかった!
彼女が動こうとした瞬間。
両足首に蔓が絡みつき、その場にとどめた。
「蔓が!? いつの間に!??」
事前に数本の蔓をセラフィーちゃんの足元まで伸ばした。
地面を這うように伸びた蔓に、彼女は気付かなかったのだ。
土の上を、緑色の蔓が自分に向かって伸びていたら、普通は気付く。
だが今、鍛錬場に土がむき出しの地面は一切見えない。
足首まで埋まる高さの雑草に、一面が覆われている。
通常、1平方メートルあたり数百から数千。
土の地面に休眠状態で埋まっている雑草種の数だ。
眠っていたその種を、スキルを使って目覚し成長させた。
それも出来るだけゆっくりと。
景色が徐々に変化した場合、人はその変化に気付きにくい。
専門用語は知らないが、アハ体験映像ってやつと同じだ。
さらに俺は彼女の注意が地面に向かないよう、上空から攻撃していた。
彼女が気付かないうちに成長した雑草。
その葉の下をくぐらせ、気付かれないように蔓を伸ばした。
「これがプランBだ!!!」
数百本の触手(蔓)が、一斉に姫騎士様を襲う。|
彼女は風刃を連射し切断しまくる。
しかし数に押され防ぎきれない。
蔓は次々と姫騎士様に到達。
手首、足首、二の腕、膝、肘、太腿、腹部、そして首。
蛇の様に絡みつき、拘束する。
(もはや抵抗は出来まい!)
俺は蔓を操作し、彼女を宙に浮かせた。
「やったあぁぁ! ぜえぇぇぇぇえぇ!」
姫騎士様の全身に、俺の蔓が巻きつき、磔ポーズで浮いている。
夢に見た光景である!
だが本当の見せ場はここからだ!
俺は全ての蔓を拘束に使ってはいない。
当然だ。
蔓を服の隙間から侵入させ、その若く美しい肉体を、あくまでも優~~~しく、マッサージするために必要なのだ。
俺はビジュアル的に見栄えがするように、彼女の目の前で蔓をウネウネと踊らせた。
実に眼福な景色だ。
しかし不満な点が一つある。
姫騎士様の反応がいまいちなのだ。
蔓から逃れようと身体を悶えさせ、かつ苦悶の表情で――
「くっ! き、きさま~~っ! 私をどうするつもりだ~~!」とか、のたまって欲しいのだが。
セラフィーちゃんは落ち着き払った様子で言った。
「やるな草太殿。だがとどめが遅い!」
嫌な予感がした。
俺は咄嗟に盾を構えた。
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