第31話 戦い前夜【植物おせわ係】が消失する
満月となった赫月が辺りを照らす深夜。
俺とゴラコは、アカネスギが立ち並ぶ第二環状防風林にいた。
セラフィーちゃんは毎朝、防衛兵団の鍛錬場で戦闘訓練をしているらしく、模擬戦もその時間に鍛錬場で行う事になった。
それまで宮中でやることも無い、何より湧き上がる衝動に身体がうずいて仕方がない。
結局ゴラコを伴い、いつもの場所で特訓することにしたのだ。
「おっ! パルクール向きの場所発見!」
二本の根元がくっつき、狭いV字型に生えているアカネスギの大木を見つけた。
ノコギリ化物から逃げる時に、見よう見まねで行ったパルクール技が役に立った。
なので、あれ以来練習している。
こういう樹間が狭く、幹を交互に蹴り上がって登っていける場所は、大好物である!
その近くにウネピュン草の種を撒き、念を送る。
即座に成長し、シュシュシュシュと音を立て、無数の蔓をピュンピュン、ウネウネし始める。
「うおぉっ! なんか凄げえ~っ!!」
自分でもビビるぐらい、凄まじい成長速度だ。
同時に地下茎を横に伸ばし、根の先端から発芽させて株数を増やす。
V字スギの周りを、成長したウネピュン草がぐるりと囲んだ。
しかも以前より、株は大きく、蔓は太くて本数も多い。
「今日はやけに調子がいいな! やっぱ睡眠を充分取ったせいか?」
背中に垂らしたパーカーのフード。そこに納まるゴラコが発言する。
「ふ~む…… いくら何でもおかしい……。
主殿、スキルに変化があるやもしれん、確認するのぢゃ」
「確かに、調子が良いレベルを超えている気がするな……」
自分のスキルを確認すべく、真価の指輪 に念じた。
直後、驚き叫ぶ――
「なっ―― なぬうぅぅぅぅんっ!! お、俺の【植物おせわ係】が無くなってるうぅぅぅ~っ!!!」
「何ぢゃと!? 慌てるでない! わしに念話でスキルのイメージを見せるのぢゃ!」
「わ…わかった」
真価の指輪で見えたスキルイメージをゴラコに送る。
――――――――――――――
【植物師】
・植物の成長促進
・うま味成分爆増
・蔓操作・改
・植物系魔物とお話
――――――――――――――
「なるほど、【植物のおせわ係】が消えて【植物師】に変わっておるな。
安心せい! これはスキルの位階が上がったのぢゃ!」
「位階が上がった!?
つまりこれは、みんな大好きな、クラスチェンジしたってこと……!?
うおおおぉぉぉ~~っ! やったあぁぁ~~っ!!」
俺は両手を上げ、赫月に向かい雄叫びを上げた。
「しかし何故ぢゃ? 何故急に主殿のスキルが……。今日あった出来事といえば……神樹が何かしたのか……?」
ゴラコは思案しているが、スキルが向上したのなら理由などどうでもよい。
何よりも心踊るのが「蔓操作」が「蔓操作・改」に変わっていることだ。
「早速検証だ!」
*
結果は直ぐに解った。
俺はウネピュン草に接触せずに、蔓が踊るイメージを送る。
すると全ての株の蔓が、全く同じ動きで踊り出した。
蔓操作はウネピュン草の一部が、肌に直接触れている必要があった。
蔓操作・改になり、蔓を完全遠隔操作できるようになったのだ。
これは大きい。戦闘のバリエーションが一気に広がる。
「んじゃ、やってみるか!」
V字の幹を交互に蹴り、パルクールの壁登りの要領で駆け上がる。
横枝まで登り、そのまま高所から飛び降りた。
「ヒャッホ~~ッ!」
限界まで上に伸ばしたウネピュン草の蔓を遠隔操作。
自分の身体に巻きつけ、落下の速度を利用してグルンと振り回し、斜め上空に放り投げさせた。
「ウリャアア~~ッ! 飛べぇぇ!」
勢いよく飛ばされ、グングン上昇。隣のアカネスギの先端に取り付いた!
ウネピュン草の蔓を敵に使うのではなく自分に使う逆転の発想――
みんな大好き!『立体起動!』が成功した!
蔓で身体を受け止め、投げ、加速させる。
高い木や建物を利用し、縦軸方向の動きを可能にする。
パルクールと組み合わせ、空間を立体的に使い、相手を翻弄するのだ!
「お~~っ! いい眺め!」
俺の重さで、ゆったりと揺れ続けるアカネスギの先端。
そこから赫月に照らされた下界を見下ろし、宣言する!
「ぐはははっ! この立体起動! 姫騎士様も初見で対処できまい!
くっころ 成功間違いなしであろうっ!!」
後頭部のフードの中に話しかけた。
「ゴラコ、気分はどうだ?」
「うむ平気ぢゃ! 主殿の動きにも慣れてしもうたわい!」
初日はゲロっていたセクシー大根も、めでたく順応できたようだ。
V字スギの幹を蹴って登ったり降りたり、伸ばした蔓に向かって飛び降りたり飛ばされたりしながら、ゴラコと念話で話す。
⦅そういや基本的なことを聞くのを忘れていたんだけど、植物系魔物って、挿し芽や挿し木で増やせないの?⦆
挿し芽、挿し木とは植物の生きた茎や枝を切り取り、土に挿して発根、発芽させて増やす方法である。
クローンとなるため、子孫を残すのとは意味合いが違うが、増やすだけなら簡単だ。
⦅無理ぢゃな、我ら植物系魔物は植物とは似て非なる物ぢゃ。
挿し芽や挿し木はむろん、ウネピュン草の様に地下茎で増やすことも出来ん。
そんなことで増やせたら、この世界は植物系魔物だらけに、なってしまうぞ!⦆
確かに、歩き喋るセクシー大根と、普通の植物では根本から異なる。
植物系魔物だらけになっても困るしな。
⦅やっぱり花粉を取ってきて他家受粉させるしかないか…⦆
⦅う、うむ……そ……そうぢゃな……。その……じ、じ、受粉をして、種を……実らせしかあるまい⦆
宮中の貴賓室でも感じたが、
受粉の話題になると、ゴラコは途端に歯切れが悪くなる。
俺は首を目いっぱいねじ曲げ、横目でフードを覗く。
ゴラコの頬っぺたにあたる部分の渦巻模様。
その周りがほんのり赤くなっている。
恥ずかしがっているようにも見えるのだが……? まさかな……
試しに、ちょっと突っ込んだ質問をしてみるか……
俺は地面に降り立ち、ゴラコをフードから取り出して両手で持ち上げた。
きらめくガラス玉の様な目を覗き込み、語りかける。
「ところでゴラコはどうなんだ? 自家受粉と他家受粉、両方出来るのか?」
「な、なんぢゃ!? いきなり…… なっ、なぜそんなことを聞くんぢゃ!?」
ゴラコのほっぺが、更に赤みを増した。
面白そうなので、からかってみることにする。
「主として従属魔物の特性は知っておくべきだろ?」
と、建前を述べてから―― 露骨に聞く!
「ゴラコはさ、自分で自家受粉とかしたことあるの?」
「き、き、きさま~~~っ! レ、レディーに対して! な、何という破廉恥なことを聞くんぢゃ~~!
いくら主でも許される事ではない~~っ! この変態が~~~~っ!!!」
全身を赤くして、抗議するセクシー大根。
人間の俺にはさっぱり理解できないが、ゴラコにとって自家受粉は破廉恥なことらしい。
そして自家受粉の経験があるのか、めっちゃ恥ずかしがっている。
調子に乗って更に聞く。
「じゃあ他家受粉は経験済みなのか? 経験回数教えろよ」
「そ、そんな事教えるわけなかろう~~~っ! セクハラぢゃ! セクハラ~~!!」
「雌しべって言ってみろ」
「い、言えるか~~変態~~~!!」
「でっかい雄しべ」
「い、いや~~~んっ! いやらしい~~っ!!」
手足をバタバタさせ暴れるセクシー大根。
汗のような液体が表面から滲み、俺の手をじっとりと湿らせる。
「マンドラゴラの花粉で満杯にした、たらいに入れてコロコロ転がし、
全身花粉まみれにしてやろうか~!?」
「鬼畜~~~~! 変態!! このド変態~~~~~!!!」
普段暴言しか吐かないゴラコだが、予想外に乙女の部分があるのか、言葉攻めに弱いらしい。
少々悪乗りしすぎた感もあるので、謝っておく。
ゴラコを地面に置き、両手を擦り合わせた。
「悪い悪いゴラコ、冗談だよ! 冗談!」
「主殿とは二度と口をきかんっ!!」
プイっとそっぽを向いたゴラコ。
完全に怒ってしまった。
ここはご機嫌を取っておくことにする。
「お詫びに、お前の大好きな 植物の成長促進 をかけてやっからさ」
セクシー大根の上部に手をかざし、スキルを発動させる。
「そ、そんなことで、わしはほだされ……んぞ……あっ、あっ、ああっ! す、凄いぃ~っ! きっ、気持ちいい~っ!」
「ほら、ほら、口では嫌がっても身体は喜んでるぜ! 天国に連れてってやっからさ!」
ゴラコの頭部に生えている、三枚の葉っぱが大きくなっていく。
「ダッ、ダメ~~~~ンッ! へっ、変に、変になっちゃう~~~~~っ!
こんな変態男の従属魔物になったばっかりに~っ! わしのピュアな魂が汚されていくう~~~~~~~~んっ!!」
「オラオラ~~! 俺のスキル無しでは生きられない身体にしてやるぜえ~~っ!!
俺の事が好きって言え~っ!!!」
「くっ、悔しい~~~っ! あっ、あああ~~んっ!
主殿~! すっ すきいいぃぃぃぃ~~っ!!」
植物系魔物からすれば、おそらくは相当下品極まりない下ネタコントを挟み、俺は夜明け前まで特訓を続けた――。
*
明らみ掛けた空が、赫月の光を薄める頃。
俺は待ち望んだ模擬戦をすべく、防衛兵団の鍛錬場に到着した。
「主殿~~♡ もう一回~~♡ して♡ ほしいのぢゃ~~っ♡」
背中のフードに入っている、植物系魔物のゴラコが快楽堕ち声で甘える。
成長しすぎた葉っぱが俺の頭上から目の前に垂れて、前が見づらい。
視界を確保すべく、ぶら下がる葉を手で持ち上げながら、辺りを見まわした。
土塁と木壁に囲まれた鍛錬場。
丸太の的や魔物の絵が描かれた板が、壁沿いに並ぶ。
サッカー場四面ほどの広さだが、高い建物も大木もなく、ほぼ平坦だ。
むき出しの土には踏みしめられた足跡が残り、まばらに生えた雑草が、風が吹くたびかすかに揺れる。
鍛錬場の入口にたたずんだ俺は、率直な感想を漏らした――
「あ…… ここ、立体起動に向いてねーわ……」
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




