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第26話 「植物系魔物とお話」の能力が判明する。

ササリナ先生の薬師工房の床に散乱するトマトから、青臭い匂いが漂う。

食べ物を粗末にするのは、俺のポリシーに反するので拾い集める。

一つ一つが鉛の様に重く感じる。

僅かの間に、知らない方が幸せだった真実を、色々知ってしまった!


その時、打ちひしがれた俺に、誰かの声が聞えた――


⦅……わたしの…ねもと……にきて……で…がな……⦆


「…………!? また声が聞こえた!……?」


さっきは分からなかったが、声と言うより脳内に直接語り掛けられた感じだ。

ノイズが酷くてハッキリとは聞き取れないが、俺を呼んでいるのは確かだ。


ここで俺は一つの可能性にたどり着く。


リビングのテーブルの上を見る。

俺の従属魔物である喋るセクシー大根ことゴラコが、自分の予想が当たったのが嬉しいらしく、いまだ勝利の舞を舞っている。


(試してみるか……)


脳内でゴラコをイメージし、言葉に出さずに語りかけてみる。


⦅おいっ! ゴラコ!⦆


「なっ!? なんぢゃああっ!!???」


ビックリするゴラコ! キョロキョロしている。


⦅主人《あるじ》が落ち込んでいる時に、いつまでも喜んでいるんじゃない!⦆


「こ、これは脳に直接、主殿《あるじどの》の声が聞こえてくる!

もしや念話のたぐいか!?」


セクシー大根に脳と呼べる器官があるのかは、甚だ疑わしいが。

事態の飲み込みは速い。


⦅心の中で俺をイメージして語りかけてみろ⦆


「わ、わかったのぢゃ……」


ポク・ポク・ポク・チーン―― と聞こえてきそうな一休さんポーズで、眉間にしわを寄せるセクシー大根。


⦅あーあー、テステス、感度はどうぢゃ? オーバー⦆


俺の脳内にゴラコの唯一の長所である、可愛い声が聞こえてきた!


⦅おおっ! バッチリだ! 感度良好!!⦆


これで決定した!


【植物おせわ係】の新たな能力「植物系魔物とお話」は、口から発する言葉ではなく、念話で植物系魔物とコミュニケーションをとる能力だ。

ゴラコの様に人語を話す植物系魔物など、ほとんど存在しないと思われるので、当たり前ちゃ、当たり前か。


つまり、先ほど俺に語りかけてきたのは、ゴラコ以外の植物系魔物という事になる……

ノイズが酷いのは距離の問題か、もしくは俺の従属魔物ではないからだろう。


鈍感力《どんかんりょく》での大失敗を繰り返さないために、これからは敏感力《びんかんりょく》をフル活用し行動するしかあるまい。



⦅しかし主殿はそんなに落ち込んでおるのか?⦆


ゴラコが俺の心情を念話で聞いてくる。


細かい縦線が顔に入る漫画の表現めいた、ブルーな顔色でぼそりと答える。


⦅まあな……もろちん……おちんこでる……⦆


⦅??? なんぢゃ? もろチン?? おチンコ出る???⦆


⦅しっ! しまったああ~~~っ!!

「もちろん……おちこんでる」を 「もろちん……おちんこでる」と間違えてしまったああ~~~っ!!!⦆


両ひざを突き、頭を抱える俺。


⦅しかも~~! 一つの文章に「もろチンと」「おチンコ出る」と言う同じ意味の言葉が入る重複表現のミスも同時に犯している~!! 自作小説の書籍化を目指していた俺としたことが~なんたる初歩的不手際~~~!!⦆


苦悩していると、ゴラコが俺の目の前にズイっと近づいてきた。


⦅わざとぢゃな……⦆


⦅はて? 何の事でしょうか……?⦆


目をそらす俺……。


⦅他の者は騙せても! わしの目はごまかせんぞ! 「勿論《もちろん》落ち込んでる」をわざと「もろチンおチンコ出る」と間違えたぢゃろうっ!!!!⦆


俺のほっぺをぐりぐりしてくるセクシー大根が畳掛ける。


⦅隙あらば下ネタをぶっこみおってからに! オラ! オラ! 大人しくゲロせんかっ!!

オラオラオラオラオラオラァアアアアアアアッ⦆


クソ~! 勘の良い大根は嫌いだ~~!!


⦅……若さゆえの過ちと言うやつで御座います!―― すんませんしたっ!⦆


引っ張ってもしょうが無いので、大人しく非を認め土下座した。




「あなた達 さっきから無言で何やってるの?」


振り向くとササリナ先生が、大きな木箱を載せた台車を押してリビングの入口に立っていた。


「その、あのう……従属魔物との親ぼくを深めるべく、心の交流をちょっと……」


念話での会話で良かった!

俺の心の中の小学生が暴走してしまった今の会話を聞かれたら、せっかく上がった評価値が落ちる所であった。


あ、いや……下がって未熟者と思われた方が良かったのか!?

複雑な心境である。


「草太《そうた》君にはボンノとミミカを助けて貰った、お礼をまだしていなかったわね」


ササリナ先生は台車をテーブルの横に置き、木箱の蓋を開けた。

途端に消毒薬めいた、独特の香りが広がる。


「私の作った魔法薬よ、受け取ってちょうだい。

草太君が希少薬草を沢山育ててくれたから、長い薬師人生の中でも最高品質の魔法薬ができたわ」


「おおっ! すっげえ!! これが魔法薬か!!!」


木箱の中には更に箱が入っていた。

細かい仕切りのある箱が積み重なっていて、その中に親指大の小瓶が詰まっている。

先ほどの青ビョウタン君との出来事もあり、先生が本当に高名な薬師なのかちょっと疑念を抱いていたのだが、どうやら取り越し苦労だった様である。


先生が小瓶を手に取り説明してくれる。


「青色の小瓶は “回復ポーション”

自己免疫能力と細胞の再生能力を一時的に100倍以上に上げるわ、出血を伴う外傷の場合は塗った方が効果が高いわ」


「緑のは “マナポーション”

高濃度の魔素を腸から素早く吸収出来る様に調合した薬。

体内の魔素が減っていない時は飲んでも意味がないからね」


「茶色は “解毒ポーション”

血管内に入った毒などの異物を、汗や尿として排出してくれる。

食中毒にも効くわよ」


「この赤い一回り大きい瓶は私が最近開発に成功した “戦闘用複合ポーション”

回復ポーションとマナポーションの両方の効果を合わせ持つ薬よ。

あえてゆっくりと効果が出る様に調合しているわ、戦闘中の怪我や消費した魔素を少しずつ回復してくれる。

効果時間は2時間ぐらいね」


「全て100本ずつ、計400本あるわ」


鼻掛けメガネを指で押上げ、ササリナ先生の表情が厳しくなった。


「一番大事なこと! 薬には当然副作用があるわ!

回復ポーションを外傷に塗付する場合は、何も気にせず使っても構わない。

だけど、服用する場合は別よ!

ポーションの種類に限らず、一度に複数本飲んじゃダメ! 

最低でも6時間は間隔を開けて飲んでね!

守らないと、腹痛、下痢、発熱、嘔吐、幻覚を引き起こし……

最悪そのまま全てを垂れ流しながら意識を失うわ!」


最後に注意事項を告げられた。


やっぱ薬は副作用があって当然だよな、ゲームのようには行かないか……

あれ? まだ説明されていない薬が一つある!?


黒い一升瓶《いっしょうびん》大の薬瓶が一本だけあるのだ。


するとテーブルに上がり、箱を覗いていたゴラコが黒い瓶を持ち上げ、

言った――


「ほう気前がいいのう! エ(・)リ(・)ク(・)サ(・)ー(・)もあるではないか!」


「あらあら、驚かそうと思ったのに、大根ちゃん詳しいのね。そう、エリクサーよ」

先生が肯定する。


「エ、エ、エ、エリクサー~~~~でえすう~とううううっ!!!!」


充分驚く俺! ファンタジー世界でエリクサーと言えば、四肢の欠損をも直してしまうと言われる万能薬ではないか!


ゴラコに持たせておくのは、超危険な気がするのでひったくる。

ずっしりと伝わる価値の重さに、手がわななく。


「こ、この薬で、失った手とか足とか生えて来るんすか!?」


「もちろん元に戻るわよ、但し時間は掛かるわ。

蓋のキャップで測り、毎日一杯ずつ飲むの。すると欠損部位がちょっとずつ再生される。

栄養が充分取れていれば、手首から先の欠損ぐらいなら一ヶ月で指まで生えそろうわね」


ファンタジー映画やアニメの様に、瞬く間に手足が再生される訳ではなさそうだが。

それでも凄い!

再生治療では地球の数百年先を行っている!


「これって、お、お高いんじゃないですか? 先生!?」


「うふふ♥ 遠慮しないで貰ってちょうだい♥

草太君が助けた、ひ孫たちの命に比べれば安いものよ♥」


お言葉に甘えて有難く頂戴する事にする。

手に入れたばかりの魔法鞄《まほうかばん》に全て収納した。



そこで俺は思いつく。


明日セラフィーちゃんに会ったら、お願いしようと思ったけど、最長老であるササリナ先生にも分かることかもしれない。

アノことを取りあえず聞いてみるか……


「先生 神樹《しんじゅ》様の根元に行って、出来れば触ってみたいんです。

可能ですかね?」


俺の質問に先生が答える。


「急にどうしたの? 神樹様に触りたいなんて。

勝手に触ると処罰されるわ、女王陛下の許可が絶対必要よ」


う~~む……やはりセラフィーちゃんに頼みこんで、陛下の許可を取ってもらうしかないか……


思案顔の俺を見ていた先生のメガネ奥の瞳がキラリと光る。


「何か訳ありのようね……いいわ私が陛下に頼んであげるわ!」

「えっ? ササリナ先生が!?」

「早速 今から王宮に行くわよ!」

「今から!? アポ無しで女王様に会えるんすか?」

「大丈夫よ! 色々あって、陛下とも親しい間柄なのよ、私の頼みなら聞いてくれると思うわ」


何やら自信ありげな先生。

さすが最長老様だけあって、女王陛下ともツーカーの仲のようである!



お読みいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


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