第22話 草太、セクシー大根に命名する。(後書き挿絵、セクシー大根)
見渡すと、夕日に照らされたアカネスギが、整然と立ち並んでいる。
俺はいつもの如く、第二環状暴風林の中にいた。
もちろん、【植物おせわ係】の、蔓操作を特訓するためだ。
まだ姫騎士の くっころ を諦めた訳ではない!
要は、セラフィー姫ちゃんの対処が追い付かない高次元まで、蔓操作を昇華させれば良いのだ。
当然、今回も明日の朝日を拝むまで、特訓する所存だ。
チェンソー怪物との戦いで、俺は奴から学んだのだ。
執念という、諦めない心を!
BIGになることが目標の俺。
人として以前より大きくなれた気がする。
俺の後頭部がぺしぺしと叩かれた。
「なんぢゃ? この様な所で何をする気ぢゃ?」
背中に垂らしたパーカーのフードの中から、俺の従属魔物である セクシー大根。
―― 正確には、セクシー大根型植物系魔物 が問いかけてきた。
「スキルを成長させる為に特訓すんだよ。
でも、その前に試してみたい事がある」
俺はセクシー大根を地面に降ろした。
三枚あるはずの葉っぱ一枚と、左手先の根っこが無い。
薬師のササリナ先生に実験素材として捧げたためである。
【植物おせわ係】の 植物の成長促進 が、果たして植物系魔物にも効くのか?
セクシー大根型植物系魔物で試すのだ。
大根の頭に手をかざしスキルを発動、念を送った!
「伸びろ~~伸びろ~~、育て~~育て~~」
「お、おおおうっ! な、なんぢゃこれは!?」
セクシー大根が反応する。
「き、気持ちいいっ! 癒される! と、整ってしまううう~!
ダメ!ダメぢゃあっ! それ以上されるとぉ~! わしいっちゃうう~っ!
いっちゃうううぅ~~~~ん! ウホォ!ヴホォオオオ~~~~~~~んっ!!」
かなり気持ちが良いようで、セクシー大根がオホ声で盛大に喘ぐ。
見た目と性格はアレだが、声だけは女の子の様にに可愛い。
他人が聞いたら誤解されるので、止めて欲しい。
そして見る見るうちに、葉っぱと根っこが生えそろった。
成功だ!【植物おせわ係】は植物系魔物に効果があるのだ。
良好な結果に満足していると、生え揃ったばかりの左手根っこを指のように使い、俺のズボンをツンツン引っ張る大根。
右手を自分の下唇に当て、ガラス玉の様な目が、物欲しそうに俺を見上げた。
「も、もっと♡ もっと~~~~~♡ して欲しいのぢゃあ~~~~~♡」
「さてと、次はウネビュン草の実験すっかな」
声以外は全く可愛くないのでスルーする。
「なんぢゃあ! ケチ! ケチンボ!
お前の可愛い従属魔物が、お願いしとるんぢゃぞ~~っ! 普通は喜んで100回ぐらいしてくれるもんぢゃ~~~~~っ!」
一切無視して、ウネビュン草の種を一粒地面に置き、指を当て念じる。
成長して蔓が出始めた所で、出来るだけ根が横に大きく広がるイメージで念を送る。
最後に根の先端から新しい芽が出るように、成長させる!
すると離れた地面の、あちらこちらから、ウネビュン草が芽を出しグングン伸びる。
瞬く間にウネウネ ビュンビュンしだした。
「よっしゃ~~っ! 成功だ~! 上手くいった~~!!」
ウネビュン草を地下茎で増やす事に成功した!
竹林が大きくなるのと同じ原理だ。
これの良い所は地下で、ウネビュン草が全て繋がっていることだ。
つまり一株のどこかに触っていれば、全てのウネビュン草を操れる!
しかもどの株を使用してもよいのだ!
くっころへの道に早くも一歩近づいたのだ!!!!
「ほほう!昨日の戦闘を見た時から分かってはいたが、主殿の能力は、とんでもなく魔力の効率がよいのう。
普通これだけの植物を植物魔法で急成長させる事は、人種には無理ぢゃ! 体内に蓄積した魔素が持たん!」
セクシー大根が無い顎に手を当て、感心している。
「え? そうなの? 普通じゃないの……?
それに俺は 出産の呼吸 という、特別な呼吸法を編み出したし……」
「阿呆が! そんな呼吸で増やせる魔素の量など、たかが知れとるわい!
主殿も含め、人属は魔素の事を何も分かっとらん!
まったく年がら年中、盛る事ばっかり考えとるから阿呆になるのぢゃ!!」
俺を含めた人類を批判して、セクシー大根は続けた。
「良いか、魔素は大気にだけ含まれている訳ではない。
むしろ大気に含まれる魔素の濃度は薄いのぢゃ!
人属は魔素の大半を、大気からしか取り込まんから、それが解らんのぢゃ」
これは興味深い――
「確かに、気体が高濃度の魔素を含むのは無理があるか……」
「大気より魔素を多く含むのは水ぢゃ、特に海水は多い。
さらに海水よりも多いのが―― 土ぢゃ!」
大根が地面をビシッと指してつづけた。
「同じ体積に含まれる魔素の量を比較するとぢゃな……
大気を1とすると、おおよそ淡水で10、海水で100、土では――
最大1000ぢゃ!」
「土が大気の1000倍! 桁、間違ってない!?」
「間違っとらん! わしは、大気、水、土、の全てから魔素を取り込むことができる。実体験に基づいた結論ぢゃ!
もっとも、土は場所によってバラツキが多いでな、正しくは500から1000の間ぢゃ」
「濃度が一番低い土でも大気の500倍か……その土の中に含まれる魔素を活用できれば―― そういうことか!?」
「ふふん、気付いたようぢゃな!」
セクシー大根がふんぞり返り、その知識を自慢気に披露する。
「植物系魔物と違い、普通の植物は魔素をほんの僅かしか吸い上げられぬ!
それを主殿はスキルの力によって、大量に吸い上げられるようにし、活用させているのぢゃ!」
俺を指さして、大根が続ける。
「植物の成長促進 は言い換えれば “地中の魔素を使い植物を成長促進させる” 能力ということぢゃ!
普通の植物魔法とくらべて、主殿が使う自分の魔力は圧倒的に少ない!」
確かにそれならば、色々腑に落ちる。
俺の従属魔物は口の悪い、ろくでもない大根だと思っていたが、意外と賢いようだ。
「お前、見た目や性格と違って、頭はいいんだな」
「見た目も性格もプリティーぢゃ! わしを誰ぢゃと思うとる!
わしはな! わしは、わしは……? ……?」
腕を組み空を見上げ、考え込むセクシー大根。
「そう言えば…… わしは名前が無かったわい!
主殿! わしに名前を付けるのぢゃ!」
「え? 俺が付けんの!?」
「当たり前ぢゃ! 従属魔物の名前ぢゃ、主が付けるに決まっておろう!
さあ! 早う! 早う! 名前 щ(゜Д゜щ)カモーン」
めっちゃ、さいそくしてくるセクシー大根。
「う~ん名前か……どうすっかなあ……」
マンドラゴラの一種らしいし、見た目は女体だし、声も女の子っぽいので、普通は――
「×××」だよな!
アレコレ考えるの、面倒臭いし「×××」でいいか! よしっ「×××」に――
いや…… ちょっと待てよ…… 俺はこの異世界でBIGになる予定だ。
否! 必ずBIGになる!
BIGな俺の伝記が出版される事は必至!
その時に従属魔物の名前が「×××」では、思春期の男子にはバカ受けだろうが、女性読者の評判はあまり良くないかも知れない……。
俺の伝記は全年齢対象向けとして、老若男女あまねくすべての人に楽しんで貰いたい。
どうする!? 俺の心の中では「×××」にほぼ決めかかっていた。
ほかの名前が頭に浮かばない! どうする!? どうしたらいいのだ!?
腕を組み天を仰ぐ。
「う~~~~~~む! 悩ましい~~~~~~~~っ!」
「何を悩んでおる! とっとと名前を付けんか!
第一印象でパパッと決めたらええんぢゃ!
ほれ主殿! ファイナルアンサー! ファイナルアンサー!!」
セクシー大根にせかされる。
俺は眉間に深いしわを寄せる。
脳内にドラム音が鳴り響いた――
ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド!――
ババンッ!!
俺はくわっと目を見開き宣言する!
「ファイナルアンサーは!」 ―― 「ゴラコだっ!!!」
「お前の名前は ゴラコ と命名する!!!」
フ~~と息を吐き、額の汗を拭う。
何故か、一生分の脳みそを使った気がする。
「ゴラコか、実に安直な名前ぢゃのう。
主殿に名前を付けるセンスがあると思えんからな。
ゴラコで我慢してやるわい!」
もっとごねられるかと思いきや、あっさり「ゴラコ」で納得したようだ。
「お前ウエイト(重し)に丁度よさそうだな!」
俺はセクシー大根改めゴラコをひっつかんで、背中のフードに押し込む。
「な、何をするつもりぢゃ!?」
「特訓だよ特訓!」
俺は全力でアカネスギの林の中を走り出した――
辺りにウネビュン草の種をばらまく。
林の中を縫うように走り――
アカネスギの周りをグルグル回り――
猿の様に木に登り、枝から枝へと飛び移る――
動き回りながら、ウネビュン草に念を送り成長させる。
蔓を操作するには、ウネビュン草に触っていなければならないが、成長は離れた所から念を送ってもできる。
いくら直接触った方が成長が速いとはいえ、
ウネビュン草が成長するまで、突っ立っていては格好の的である。
俺は、空手の猛者であった母ちゃんの運動神経を引き継いでいるが、身体を鍛えていなければ宝の持ち腐れだ。
【植物おせわ係】の能力と同時に肉体の鍛錬もする。
今までもこうやって、実践的な特訓をしてきたのだ。
そうでなければ俺は今頃、チェンソー怪物の大腸の中だ。
間違いなくウンコになっている!
「目が回る~~~! 気持ち悪い~~~~! 吐きそうぢゃ~~~!
主殿~~~~!降ろしてくれい~~~~~!」
植物系魔物でも目を回すようだ。だが慣れてくれないと困る。
「我慢しろ! 吐くなよ、ゴラコ!
これからは、そこが俺の従属魔物の特等席になるんだからな!」
「ダメぢゃあああ! 吐く、吐く! ぐえええおおおお~~~~」
アカネスギ林にセクシー大根の嘔吐音がこだまする。
朝日が赤い樹皮の間を抜けて差し込むまで、それは続いた――。




