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第20話 防衛兵団 第2大隊 第5小隊長の謎解き

ナヴィア王国居住地外縁、大縁《おおふち》の外に位置する通称、鉛筆岩《えんぴついわ》。


高さ100メートルを超える大岩の周囲に、オオノコギリ角と呼ばれる凶暴な魔物一体と、ゴブリンと呼ばれる人型の魔物、八十三体の死体が転がっている。


その場で第2大隊所属、第5小隊の兵士25人が慌ただしく作業をしていた。


最大警戒態勢発令の報を受け、緊急待機番となっていた第五大隊に所属する三個小隊が、即座に駆けつけたのだが……


現場に到着した時には、魔物との戦闘に決着が付いた後であった。

第5小隊にはその後処理が任されたのだ。



第5小隊の小隊長は、荷竜車《にりゅうしや》の何倍も大きい怪物の前に立っていた。

頭部が半分吹き飛んでいるが、紛れもなく立派なオオノコギリ角《づの》の成体であった。


兵士達は訓練の一環として定期的に樹海へ入り、魔物を狩る。

人の背丈ほどの幼体なら、年に一、二体は討伐されるが、ここまでの大物は小隊長にとっても初めてだった。


だが、どうしても腑に落ちない。


戦闘を見ていない以上断言はできないが――

セラフィー姫様と、第3大隊所属のモブフとコピフ。

その三名だけで、この怪物を仕留めたというのだ。


モブフとコピフは、弓術の達人と名高い第3大隊長の子息。

幼い頃から鍛えられ、弓の腕は父に匹敵する。

セラフィー姫様に至っては、魔法の天才であることは疑いようがない。


だが、それでも三人だけでこの大物を倒せるとは到底思えない。

どんなに考えても納得できる答えは見つからない。謎は深まるばかりだ。



小隊長は周りを見渡し、一人の兵士に目をとめる。

第5小隊第4班の新兵が、魔石袋《ませきぶくろ》を取り出すためゴブリンの腹をナイフで裂いていた。

途端に鼻につく不快な臭いが広がる。


人面虫《じんめんむし》という背中に人面の模様がある害虫。

その虫が尻から発する悪臭を、さらに煮詰めたような酷い臭気だ。


「ゲホ、ゲホ、オエップッ」

作業中の新兵が咳き込みえづく。


その様子を見ていた小隊長は、新兵に声をかけた。

「貴様! ゴブリンの腹の中で魔石袋を破くなよ!」


「は……はい! 充分心得ております! 小隊長殿!」

声だけは元気な新兵が答えた。



魔物からは、色々と有用な素材が入手できるが、ゴブリン素材で価値があるのは、魔石袋とその中身だけである。


魔石袋の価値は三つの部類に分けられる。


まずは当然、袋の中の魔結晶《まけっしょう》だ。

大きさも数もまちまちだが、ゴブリンの場合は爪の先ほどの小さな魔結晶が一、二個入っているのが常だ。


次に結晶と共に袋に入っている魔液《まえき》と称される液体だ。

魔液は高濃度の魔素を含み、魔法薬の主原料になる。


最後は魔石袋そのものだ。

魔法鞄《まほうかばん》や魔法袋《まほうぶくろ》といった、魔道具の内張りとして使われるのだ。


魔石袋は、魔物が死んで時間がたつと、その体内で破裂する。

結晶は大丈夫だが、魔石袋と魔液は使い物にならなくなってしまう。

そのため現場で兵士が採取し、処置することになっていた。


新兵は無事に切りとった袋を、二本の指でつまんで取り出した。

丸い魔石袋の表面は紫色で、細かい網目状の血管が周りを覆っていた。


水魔法で表面をきれいに洗い、収集用の樽の上でナイフを入れ、袋を三分の一ほど裂く。

指でつまめる程の袋の中から、明らかにその容量を遥かに超える大量の液体が、とろとろと樽に落ちる。

最後に小さな虹色の結晶が一個、樽の中に落ちた。

空になった魔石袋を別の樽に投げ込む。


魔石袋の現場での処理はこれで終了だ。後は街に持ち帰り、専門の業者に渡すのだ。



新兵の手際を見て頷いた小隊長の顔は、再び大物の元に向いた。

 

「小隊長殿! 魔石袋を割る準備ができました!」

「ご自分で刃をお入れになりますか?」

オオノコギリ角の魔石袋を取り出し、表面を洗う作業をしていた二人の中堅兵士が彼に報告する。


「無論だ。小隊長の最大の特権だからな!」


折り畳み台の上に、網目状の血管で覆われている、紫色の塊が鎮座していた。

オオノコギリ角の魔石袋だ、人の頭部ほどの大きさがある。

台の前には魔液を溜めるための複数の樽が用意されていた。


左手で魔石袋の上部をつかみ、右手に持ったナイフを一気に突き立てる。

大物魔物の袋を裂く、この瞬間の高揚感は別格だ。


ひときわ大きい、オオノコギリ角の成体の魔石袋!

どんな巨大な魔結晶、あるいは大量の結晶が出てくるのか――

正に宝箱を開ける気分である!


白く半透明で、ときおり虹色を帯びる魔液が次々と樽を満たしていく。

だが一向に結晶が出てこない。


最後の一滴が落ちた瞬間、樽の中に転がり落ちたのは――

ゴブリンのものより小さな結晶が一粒だけだった。


「何だこれは!? たったこれだけか??」

 

期待を大いに裏切られる結果であった。

肩透かしを食らった小隊長ではあるが、同時に全てが納得いった。


この魔物は病気かあるいは、同格の魔物と死闘を繰り広げた直後だったのだ。

それならば、僅か三人で討伐出来たことも頷ける。


オオノコギリ角討伐の謎が全て解けたところで、小隊長は檄を飛ばす。


「一班、二班、三班は角と外殻の解体に移れ。赫月が夕半月になる前に完了させろ!」



お読みいただきありがとうございます!

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