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第19話 とある植物系魔物の物語


魔物の中にもスキルを持つモノは多い。

そして、ごく稀に固有スキルという、唯一無二のスキルを持つ魔物が発生する。


土の中で育ち、葉を茂らせ、引き抜かれると絶叫を放つ。

その叫び声を聞いた者は最悪、死に至る。

後に人属《ひとぞく》から「マンドラゴラ」と名付けられる、最も一般的な植物系魔物。


彼女も最初はそんな「マンドラゴラ」の一株に過ぎなかった。

――ただし、固有スキルを持っていた、という事以外は。


スキル名を付けるとするなら【記憶種化《きおくしゅか》】

寿命を迎えると、自分の記憶を全て宿した種「記憶種《きおくしゅ》」を作る能力。

記憶種が芽吹き成長することで、新たな身体を得る。

それを繰り返す。

永遠の命を持つ事と同等の能力であった。


魔物は本能でスキルを使う。

彼女も初めの頃は、ただ本能のまま【記憶種化】を繰り返すだけだった。


大地が太陽を百周するごとに新たな身体を育て、記憶だけを積み上げていく。


身体を新たにすること、数万回―― やがて自我が生まれた。


【記憶種化】を繰り返し積み上がった記憶。

 

それにより、知恵なき植物系魔物だった彼女が、自身の存在を認識できる様になったのだ。



さらに数万回の時が流れる間に、しなびた根の様な身体が、変化していく。


茶色だった皮が白くなり、しわが消え、張りが出る。

音を認識し、叫び声しか上げられなかった口からは、様々な声が出るようになった。

光を受容し、物の色、形、位置、運動を判別する、目に類似する器官も発達した。

最終的に土から這い出て、二足で歩くことすらできる様になった。


悠久の時をかけた【記憶種化】の果てに、彼女は「特殊上位種」へと進化したのだ。


特殊上位種に進化したことにより、新たなスキルも得た。


名付けるなら【感覚飛種《かんかくひしゅ》】


視覚、聴覚、嗅覚を共有する綿毛種子を生み、

風に乗せて遠くの様子も観察できる能力。

【感覚飛種】により、彼女はさらに多くの知識を得ていった。


 *


上位種となった彼女が、時折その雄を捕まえて、栄養としていた動物がいた。

自分と形が似ていることから、歩く姿を真似た動物でもある。


やがて人属《ひとぞく》と呼ばれるその動物は、体毛が少なく、二足歩行で歩く。

言葉を話すが、裸で文字も持たず、野原に住み石を道具として使う。

魔物に脅え、集団で暮らすひ弱な動物。

特殊上位種に進化した彼女にとっては、取るに足らない下等生物であった。



だがある時、彼女は不思議な光景を目撃する。

 

その動物の一匹が、指先から炎を発生させ、集めた枝に火をつけていた。

初めて見る光景だった。


「魔法」と呼ばれる力を使い始めたのだ。


それからは早かった。


彼らは繁栄して数を増やし、自分達を人属と名乗る様になる。


魔物の領域に進出し、弱い魔物を狩るようにもなった。


服を着て作物を栽培し、土で器を、木や石で家を作り、武器も発達させた。

文字を生み、爆発的に繁殖し、千万人を超える巨大集団を、無数に作っていく。

時にその集団同士で争いながら、文明を発達させていった。


彼女が僅か数千回の【記憶種化】を繰り返す間の出来事だった。

 

そして彼女は【記憶種化】の際、その種からも綿毛を伸ばし、風に乗り世界中を旅するようになる。

 

十数万回の繰り返しの中で、まったく変化の無かった世界、それが人属により劇的に変わったのだ。

彼らが作り上げた様々な文化を、見て知るのが刺激的であり、彼女の知識欲を満たしてくれた。



だが、魔法によって花開いた人属の文明も衰退し始める。

世界的な気候変動に見舞われたのだ。


食料は枯渇し、それと共に世が乱れ、戦乱が頻発するようになっていった。

栄華を誇った数多くの国が滅び、都市が消え人口も減っていく。

実に数百回以上の期間、衰退期は続いた。


ある日再び、不思議な光景を目撃する。

空中に黒い空間が開き、そこから人種《ひとしゅ》が落ちてきたのだ。

彼女が見たのは一回だけだったが、何人も落ちてきているようだ。


衰退していた文明が、彼らのもたらす知識や理念によって再び発展していった……。

  

 *


彼女は古い身体を捨て【記憶種化】により、記憶種となっていた。

綿毛を伸ばし、風に乗り大空を飛んでいる。


この世に並ぶ者のない程、膨大な知識を有する彼女だが、世界の全てを知るわけではない。

記憶種の移動は風任せである。

未だ訪れたことのない土地も無数にあるのだ。


彼女の乗る秋の偏西風が、そんな未知の地へと彼女を運んでいた。


中央大陸の北西から突き出た半島――

国土のほとんどが魔物が跋扈する広大な樹海。

「神樹《しんじゅ》エルナヴィア」によって守られた円環の大地のみ、居住地となるエルフの国。


知識としては知っていたが、訪れることは初めてであった。

そのナヴィア王国中心地に差し掛かると……


彼女は脅えていた。

巨大な神樹に近づくにつれ、恐怖が増していく。

世界中を巡る中で、強大な力を持つ化物を何体も見てきたが――


神樹は別格であった。

神と呼ばれるにふさわしい、膨大な力を感じる。

 

もし記憶種のまま円環の内側である、アイツの縄張りに落ちれば、悠久の時を生きた彼女も、そこで終わる。


自由自在にという訳にはいかないが、記憶種から伸びた綿毛の角度を変えることで、飛ぶ方向をある程度は操作できる。

彼女は必死に綿毛を操り、そして祈った。

風よ、どうか円環の外へ――。


祈りが通じたのか、円環の外、尖った棒状岩の近くに落ちる。

彼女は安堵し、そこで芽吹き、新たな身体を育てることにした……。


                

  *


数年が過ぎ、成体となる頃合いのことだった。

人属からオオノコギリ角《づの》と名付けられた魔物が棒状岩に激突した。

その後、岩の周りを駆けずり回っている。


何事かと感覚飛種を飛ばした彼女に衝撃が走る。

人属の男が、オオノコギリ角に追いかけられていた。


その男を見た途端――

身体が熱くなり、震える程の興奮を覚えた。


黒髪の男から目が離せない……

その男のそばにいたい……

その男のモノになりたい……


そんな熱情が身体を支配していく。

彼女に心臓があったなら、早鐘まがいに打ち鳴らしていたに違いない。


いったいどういうことなのか!?

人属の作り上げた文明は、確かに興味深いものであったが。

彼女にとって人属そのものは、裸の動物の頃から知る、取るに足らない生物である。


特に人属の男などは、たまに捕まえる養分でしかない。

なのに恋心に似た感情……


誇り高い彼女にとって、到底受け入れがたい屈辱的感情であった。


観察するうち原因が判明する。

オオノコギリ角は気付いていない様だが、男は蔓《つる》を伸ばす植物を操っていた。


男は植物に関係する、強力なスキルを持っているに違いなかった。

その影響で植物系魔物の彼女は魅了されているのだ。


そうと分かれば問題ない。

男はすぐさま、オオノコギリ角に八つ裂きにされる。

そうすればこの切ない感情の支配から逃れられるのだ。


しかし想定外のことが起こる。

男が蔓でオオノコギリ角を拘束したのだ。


なんと勇ましく凛々しい。

彼女の心はいっそう男に魅了されてしまった。


その反面、オオノコギリ角のふがいなさに怒り心頭に発していると――

今度は無数のゴブリンがやって来て、一斉に男に石を投げつけ出した。


男がじりじりと彼女の方に近づいてくる。

彼女をまたぐ様に男が立った瞬間―― その血液が彼女に滴った。


――! 


正に甘露!


何という快感!!


何という幸福!!!


爆発的な多幸感に思考が真っ白になる。

男に身を委ねること以外、考えられない。


悠久の時に培われたプライドが、消し飛んだ瞬間であった。


彼女は無意識のうちに男に言葉を語りかけていた――



「助かりたくば、わしを抜くのぢゃっ!」






お読みいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


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