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第1話 田畑草太16歳 超自然現象にあう(後書き押絵、草太)

※後書きに作者が描いたキャラ紹介の押絵がある時があります。(苦手な方は挿絵OFFで読めます)

――二か月前――


「うっそだろおぉうぅぅぅぅーーーーーっ!?」


大量の壊れた管楽器が、いっせいに鳴らされたような風音。

ゲロのリバース必至な絶叫マシンに、乗ったかの如く回る視界。

俺の後頭部に高速ビンタを放ち続ける、パーカーのフード。

半尻で脱げそうになるカーゴパンツ。

見る間に遠ざかる地面。

  

俺は今空を飛んでいる。

正確には飛ばされている。


――だ。


なんと! 竜巻に巻き込まれているのだ!

こんな日本のド田舎にも、地球温暖化による異常気象の影響があるのかは知らんが。

とにかく非常事態なのは間違いない。


俺は 田畑草太《たばたそうた》 16歳。

15分前から家出中の青少年だ。


 

***



俺の家は専業農家だ。

飲んだくれのクソ親父と二人暮らしをしている。

3年前に母ちゃんが病気で亡くなって、親父はますます飲んだくれるようになってしまった。


おかげでここ何年かは、畑仕事はほとんど俺が行っている。

耕運機や田植え機などの扱いも今じゃお手の物だ。

都会の人は知らないと思うが。

子供が農耕機械で畑仕事をするのは、専業農家あるあるだ。


とはいえ、やはり学校に通いながらだとすべての畑を管理するのは難しい。

それで半分以上の畑は、近所の大規模專業農家に貸し出していたのだが。

それをあのクソ親父が酒代欲しさに全部売り払ってしまった。

もちろんド田舎の土地なんてタダ同然の二束三文の価値だが。

酒代ぐらいにはなるらしい。

ったく先祖伝来の土地を手放すなんて、爺ちゃん婆ちゃんが草葉の陰で泣いてるぞ。


で、俺はブチ切れた、ほとほと愛想が尽きた。

それで家を出ることにしたのだ。

まあ親父がアレなもんで、以前から家を出る計画はしていた。

それが何年か早まっただけだ。

 

農業にさほど未練はない。

畑仕事は必要に迫られて行っていただけだ。

情熱を注いでいたわけでもない。

ハッキリいって専業農家の実態は、スローライフじゃなく苦労ライフだしな。


それに俺には夢がある。それは “BIG《ビッグ》”になること。


背が高くなりたいとか、そういうことではない!

俺は確かに中学時代から引き続き、全校集会で最前列をキープし続けてきた実力者だ。

もう少し身長が欲しいとか、特に足が長くなりたいとか。

思わなくもなくはないが……

とにかく違うのだ!

 

都会に出て、何でもいいから出世して、有名になって、ガバガバ稼ぐ。

そして、一般住宅よりも値の張る高級車を乗り回し、プール付きの豪邸に住み、何人もの美女と浮き世を流す。


そっちのBIGだ!


馬鹿な事を……と思う人もいるだろう――

俺は失敗し、何の挑戦もしてこなかった人達に、見下されるかもしれない。


だが、根拠の無い自信で、無茶ができるのは若さの特権! 

自分の人生だ、好きに賭けさせてもらう!



仏壇の前に正座し線香を立てる。

母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃんに別れを告げてから。


「じゃあな、クソ親父!」

俺がいなくなることで少しは改心する事を願いつつ。

座敷で昼間っから酔いつぶれている親父の顔面に、置き手紙を叩きつける。


ぱんぱんに膨らんだスポーツバッグを肩に担ぎ。


「こんなド田舎では俺の覇業は成せないのだ、都会に出てBIGになる!」


と宣言し、二度と戻らぬ決意で玄関を出た。


それから、10分ちょっと。

小川がチャコチャコとBGMを奏でる中、東西南北に田んぼと畑と木々しか見えない農道を歩く。

遠くの山々が僅かに雪を残し、蒼く空に溶け込んでいた。


「景色だけ……は好きなんだけどなあ」


見納めとなる風景の感想を呟いた時だった。

佐藤さん家のトマト畑の方から、笛が鳴るような風の音が聞こえた。

見ると、ビニールハウスの脇で土ぼこりが回転している。


「おっ、つむじ風。そこそこでかいな」


すると、ビニールハウスに風が吹き込み、端が少し浮き上がりかけた。


「ヤバい!」


俺はスポーツバッグを放り投げ、畑の中に猛ダッシュ。

ビニールハウスが飛ばされないように端を押さえたのだが……。


それがまずかった。人の家の畑などほうっておけばよかったのだ。

つむじ風は1分もたたない間に巨大な竜巻に発達しやがった。

俺は強風と轟音に飲み込まれ、最前列キープの実力者体型はあっさり宙を舞った。


 


で、絶体絶命の今に至る。

畑の遥か上空、洗濯機で洗われてる洗濯物状態で、現状を冷静に分析する。


(――ヤバイ! 地面に叩きつけられたら、下手をしなくても死ぬりゃあ)


(木に引っかかるとか、ため池に落ちるとかしたりや、ワンチャンあるのきゃあ?)


(りゃっ、俺ん家のトタン屋根が見えち、錆が……塗装しないとダメりゃあ~)


(やった~っ♪ この状況りぁ録画して、ネットに流出すりゃ~♪ 100%バズるにょ♪ ガハハハッハハハハハ~)


(ズボンがああ~~んっ、脱げちゃうううっ!脱げちゃううううん♡♡)


―― ダメだあ!

脳が揺さぶられ過ぎたせいか思考が終わってる、フワフワ気持ちよくなってきたし。

 


唐突に激しい風と音が止んだ。

替わりにキーンと耳鳴りが響く。


「何ら? でっかい風船きゃ??」

ろれつの回らない声が出た。


目の前に、直径十数メートルの漆黒《しっこく》のボールが浮かんでいた。

「違う……穴りゃ! 空にボールじゃなくて、ホ~ルが開いちょる!」


それはボールではなく、真っ暗で円状の底がまったく見えない空間だった。

穴の周囲は歪んで渦を巻き、波紋のように揺らめいてる。


「ひやっとして、ちょ~~う自然現象的なあっ、やつう??」


俺の身体は黒空間に引き寄せられ。

文字どおりその暗闇に吸い込まれたのだった。



***



身体が移動している感覚はあったが、どれだけ穴の中にいたのか分からない。

数時間のような気もするし、一瞬のような気もする。 


まぶしい光が見えた。出口? と思った瞬間、俺は勢いよく、穴から吐き出されていた。


「どぅか、ため池の上に落下ちますように~いいっ!」


人生最初で最後のスカイダイビングにならないように祈る。


「ありゃっ? リャッキーッ、地面が近い~~っ」


幸運にも出口は地面からそう高くなかった。俺の背丈ぐらいだ。

草地のような場所に落ちて、地面をコロコロ転がり仰向けになって止まった。



桃色でドリル形をしている、奇妙な果物を実らせた木々が見える。

どうやら林か森の中にある開けた草地のようだ。

仰向けのまま上を見上げる。黒空間は消えてしまい、もう何処にもなかった。

 

「夢とかじゃなさそうりゃな……」


次第に頭がさえてくる。

雲が流れ、木々をザワワと揺らした風が頬をなでる。

洋梨のような甘い匂いが鼻孔に広がる。桃色の果実が放っているようだ。

遠くで発する動物の甲高い鳴き声が、わずかに聞こえていた。


そしてジーンズとパンツが脱げかけ、半尻が出た俺のケツ。

柔肌に草地が直接触れて、めっちゃチクチク! チクチクする!


五感が現実だと訴えている……。


「うげえーっ!?」 


完全に脳が復活した俺は、雲の向こうに見える景色に思わずうめく。


「ここ、日本じゃねえぞ! それどころか地球ですらないかも?」


実は俺は、理系科目が得意だ。

科学や生物の成績だけなら常に学年トップだ…………


嘘じゃないよ……ホントだよ、本当だからね!お願い信じて下さい!


とにかく、その理系脳がここが地球ではないと告げているのだ。


青空に三日月が浮かんでる。

昼間でも月が見えることは、もちろん地球でも普通にある。

だがその大きさと色が問題だ。右腕を伸ばし手のひらを月に向ける。


「でかい……そして赤い」


手のひらの両側から赤い三日月の端がはみ出ていた。とんでもない大きさだ。

地球の月なら小指の先でも隠れてしまう。


さらに、その月をかすめるように、四枚の翼を持った翼竜のような生物が数羽飛んでいる。明らかに地球上の生き物ではない。

桃色の果物もドリルみたいな変な形をしてるし……



その時だ――


「#$%&&!%$、#&&&#――?」


頭の向いている方向から人の声がした。


「&%#%&、……$&&%%&、#&%$##……!」

「#、####。%&&%$#&??」


何語か分からないが、確かに人の会話が聞こえる。

俺は上体を起こして「えーと、どちら様で?」後ろを振り返った。



三人の人影が見えた。


中心と右側の人物はミニスカート、左側の一人はズボン姿だ。

皆、上半身に皮鎧を着ており、両側の二人は弓矢を携えている。

一目で美男美女なのが分かるほど、整った顔立ちだ。


特にまん中の女性は、すげえ美女だ。

多少幼い雰囲気もあるので、すげえ美少女と言ったほうが正解か。


正に人間離れした美貌。


実際に人類「ホモサピエンス」ではないのかもしれない。 

三人には共通している特徴があった。耳が尖っているのだ。

そう……服装も含めて、ファンタジー・ゲームやアニメに出てくる。

あの「エルフ」そのものだった。

 


ひょっとして、ひょっとすると、ひょっとしなくても――


ここって『異世界』!?

  



お読みいただきありがとうございます!

押絵も自分で描いています、キャラ紹介的な感じで時々入れる予定です。

主人公の草太くんです。


挿絵(By みてみん)


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