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第17話 草太、糞シナリオに憤慨する(後書き挿絵、ゴブリン)


直径十数キロほどの円環を描くナヴィア国居住地の外周に、ぐるりと築かれた高さ十メートルの土手、通称 大縁《おおふち》。

その外側は凶悪な魔物が跋扈《ばっこ》する大樹海となっている。


樹海内にそびえ立つ高さ100メートル余りの棒状の巨岩、鉛筆岩《えんぴついわ》。

俺はその先端を仰向けのまま見上げている。


「ぜ~ ぜ~ ぜ~」


息切れを整える音が流れる。


「ぜ~ ぜ~ ぜ~」


ぜ~も草太《そうた》です~~~~~ぜ~~ぜ~


【植物おせわ係《がかり》】の能力 蔓操作《つるそうさ》を駆使して、やっとこさ、なんとこさ。

巨大チェンソー怪物を鉛筆岩に拘束することに成功したが。


精も根も尽き果てました……!

クタクタですよ……!



息が整い上半身を起こす。

横目で鉛筆岩に蔓ロープで縛り付けられている、魔物を見る。

今、チェンソーは動いていない。


だが奴は観念したわけじゃない。

太くヤスデめいた環節胴体《かんせつどうたい》を、ふいごの如くフゴフゴさせている。

速く呼吸をして力を蓄えている感じだ。

時折、巨体が小刻みに震え、ギョギョイイイイイン! と鎖鋸《くさりのこぎり》が唸る。

ありったけの力で、蔓ロープを引き千切ろうともがいているのだ。

 

その度、ブチッ ブチッ っと蔓が切れる嫌な音がして、蔓ロープがけば立つ。

魔物ではあるが、執念と諦めの悪さは見習うべきなのかもしれない。


残念ながら俺には奴にとどめを刺す能力はない、拘束で精一杯だ。

「くっころ」に例えると「くっ」までしか出来ないのだ。


怪物が拘束から抜け出すのも時間の問題だろう。

その前に樹海からお暇《いとま》するとしよう。


俺はやっとこさ立ちあがり、脱いだ靴を拾うべくヨタヨタと歩く。

かがんで靴を手に取った時だ――


鋭い衝撃が額を襲った!

小石がコロンと足元に落ちる。

地面に生えた雑草の上に、ポタリ ポタリ と赤い血が垂れる。


気付けば俺の周りを、無数の人影が囲んでいる。


身長は子供並み、ぎょろついた目に鉤鼻《かぎばな》、口は割け汚れた乱杭《らんぐい》いの牙が覗く。

手足は細く肋骨も浮き出ているが、お腹だけはボッコリ膨らんでいる。

餓鬼《がき》という地獄の亡者に似た体型だが、肌の色は自衛隊車両の様な深い緑色だ。

服は着ておらず、まだら模様の剛毛が後頭部と股間に生えている。

言葉なのか? 鳴き声なのか? グヒャグヒャと笑い音を出していた。


実に醜悪な見た目だ。

ボンノ君とミミカちゃんが待ち焦がれていた魔物。


そう―― ゴ(・)ブ(・)リ(・)ン(・)である!


「なんでえ………

何でえ……ここでえゴブリン登場なんだよ~~?」 


ちょっと待ってくださいよ! だからおかしいでしょ! 順序が!

ボスモンスターと決着が付いた後っすよ!

今更ゴブリンはないでしょうがあ!


俺が映画プロデューサーなら、この糞台本を書いたシナリオライターを即刻首にする!


よく観察するとゴブリン共の身体のあちこちに、石でもぶつけられたような、赤い傷や痣がある。

俺を怨嗟《えんさ》のまなざしで睨んでいる。

皆その手に石を持っていた。

ゴブリンが投げた石が俺の頭部に当たったのだ。


うん……だいたいの想像は付いた……。


「言っておくけど君たちに “石投げボコリ” をしたのは俺じゃないからね!

ガキんちょ共だからな!」


訴えるが――言葉は通じないようだ。

まあ、通じたとしても見逃してくれるとは思わんが。


そうこうしているうちに、ワラワラと追加ゴブリンが樹海から現れる。

さっきまで一匹も見なかったのに、いったい何処に隠れていたのだろうか。


俺は鉛筆岩に後ずさる。

縛り付けられている怪物が、直ぐ後ろで唸りをあげた。


チェンソー怪物が怖いのか、ゴブリン共は遠巻きにするだけで近寄ってはこない。


ゴブリン共が一斉に喚きだす。


「グヒャグヒャヒャ~~~!!」


次の瞬間、無数の石が俺めがけて飛んできた。

奴らの恨みが骨髄《こつずい》となって “石投げボコリ返し” をしてきたのだ。


幸い奴らのコントロールは悪く、ほとんどが的外れのボール球だ。

たまにストライクゾーンに石が飛んで来る。

額から流れる血が片目に入り、距離感がつかみ辛い。

俺はフラフラになりながらも、手にした靴で石を撃ち落とす。


体力が残っていればゴブリンどもを蹴散らして脱出するのだが、今の俺にはそんな力は残っていない。

ウネビュン草の蔓《つる》は怪物の拘束にすべて使っている。


後ろから ブチッ ブチッ と蔓が切れる音がする……。



 完全に詰《つ》んだ――!




「た…………わしを…………け」


!? なんだ?? 直ぐ近くで声が聞こえた……だが誰もいない……。


「たす…………わしを抜くの……ぢゃ――!」


俺の足元から声がしている、可愛らしい声だ。


下を見ると大根の様な植物が生えている。

葉っぱの形は大根とはだいぶ違うし、三枚しか出ていない。

だが地面から覗いている根元の部分は、青首《あおくび》大根そっくりだ。


その大根に俺の額から流れた血が垂れていた。


「助かりたくば、わしを抜くのぢゃっ!」


今度はハッキリ聞こえた、明らかにその大根から声が出ている。


大根が「助(・)か(・)り(・)た(・)い(・)の(・)な(・)ら(・)抜(・)け(・)」と訴えているのだ。


ファンタジー世界の不思議現象をまた一つ目撃してしまった。


そこでピコンときた!

俺の脳内コンピュータが結論をはじき出す!


ファンタジー世界で「抜(・)く(・)」と言えば決まっている――


「聖(・)剣(・)」である!!!


誰も抜けない聖剣を抜くことが、勇者の証となるアレだ。

聖剣を手にする事によって、魔王をも倒す力を得るのだ。

ここに来て起死回生の、勇者イベント発生である。


今までの出来事は全てこのイベントのための、布石だったと言うのか――!!?


抜くのが剣ではなく、大根であることに少々疑問が残るが……。

アレだ……剣の柄の部分だけ大根型に偽装した聖剣だ。 

地中には光輝く聖なる刀身が埋まっているに違いない!


俺は聖剣の葉っぱに手をかける。


「ち、ちょっと待つのぢゃ! その前に “血の盟約《ちのめいやく》” を交わさねばならん」


聖剣が待ったをかける。儀式的なものが必要らしい、本格的な仕様だ。


「幸いおぬしの血は既にわしに掛かっておる。後は誓いの言葉を交わすだけぢゃ、わしの言う通りに復唱せい! よいな?………………

――返事はどうしたのぢゃ! 返事は!」


返事を催促された。聖剣だけあって気位が高そうだ、取りあえず大人しく従うことにする。


「分かった、復唱すればいいんだろ」


「うむ! ではいくぞ。

我は健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も」


俺はゴブリン共が投げる石を叩きかわしながら、聖剣の後に続ける。


「我はっ 健やかなる時もっ 病める時もっ、富める時も貧しい時もっ」


「愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を汝に尽くすことをここに誓う!」

「愛し、敬いっ、慰め、助けっ、その命ある限り、真心を汝にっ 尽くすことをここにっ 誓う!」


「汝も同じく誓うか!?」

「汝もっ 同じくっ 誓うかっ!?」


「うむ! わしも誓おう! これで血の盟約が成立ぢゃ!」


聖剣が高らかに宣言する。


身体がピカーッと光る演出とか、ちょっと期待したのだが、そんなエフェクトは組み込まれていないらしい。 

しかし言葉では言い表せないが、パスが繋がった感覚がハッキリ分かった。


「今のお主ならわしの力に十分耐えられる!

さあ! 今こそわしを抜くのじゃ!!」


聖剣に促され葉っぱを掴んだ俺は、なけなしの力を引き絞って、地面から引き抜き――


叫んだ。


「エクスゥゥゥゥー!カリヴワーアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


俺はそれを天に突き立てんばかりに高々と掲げた――


地中から引き抜かれたのは、白く輝く、それはそれは見事な――大根だった!!!


聖剣のセの字も感じられない。


何故か土も付いておらず、白磁のような白く滑らかな見た目だ。

しかもその大根は頭部の無い人型をしている。


完璧なる―― セ(・)ク(・)シ(・)ー(・)大(・)根(・)だ!!



次の瞬間――


「ギゥウ~ギャギャギァギャギャギァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!」


頭上に伸ばした腕の先から、この世のものとは思えない叫び声が轟く。

脳髄をかき乱すような不快音が、大樹海の隅々まで突き抜ける。

飛びそうになる意識を保ち、必死でこらえる。


奇声が止む…… 一瞬の静寂が支配した後に……


ズザ…… ズザ…… ズザザ…… ズザザザ…… 樹海にくぐもった音が湧く。

 

周囲にいる無数のゴブリンがバタバタと地面に崩れていく。

口や鼻から泡立った緑色の液体を吹き出し、痙攣している。

気付けば、蟻の群れの様にワラワラと居た奴らが、全て倒れ伏していた。


何がどうなっているのか解らないが、ゴブリン共の方は決着が付いたようだ。



と、思う間もなく―― ブチブチブチブチ!!!


聞きたくない音が鳴り響く――


怪物の立てた音だ。

巨大な頭部を拘束していた、数本の蔓ロープを引きちぎったのだ。

残念ながら、奴は倒れてくれないらしい。


少し自由になったと見るや、二本のチェンソーが生えた頭が振り回される。

高速で振動する牙によって蔓ロープが次々切断され、先端がヒュンヒュンと宙に踊る。

蔓ロープの切れ端がバラバラと飛び散った。


怪物が「どうだ!」とばかりに、こっちを向いた。

その複眼からは俺に対する並々ならぬ殺意を感じる。

本当にしつこい! ウンザリする……。


しかしその思いとは裏腹に、俺は奴を気に入り始めてもいた。

何としてでも俺を殺す! というその執念。

初志貫徹《しょしかんてつ》を貫くその姿勢は尊敬にすら値する。


その精神を見習って、俺もしつこくやるしかない。

奴が切断した蔓ロープは、ウネビュン草の根元から切られた訳ではない。


体力お化けの怪物とて限界はあるはずだ。

わずかだが、まだ俺に勝機はある!


「もうお腹いっぱいなんスけど……ゴブリンを挟んでの……

第三ラウンドやりますか!」


お読みいただきありがとうございます!

今回の挿絵は、石投げボコリ返しをする「ゴブリン」です。


挿絵(By みてみん) 


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次回もよろしくお願いします!


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