第16話 死闘の果て
破裂音に似た騒音が連続し、大木の間を突き抜けていく。
驚き、一斉に飛び立った赤月虫の群れが、黒い帯を描き空をうねる
まるで何かを追いかける様に、蛇行しながら次々と倒壊する木々。
その後を土煙がもうもうと追い、腐葉土臭を巻き上げる。
何かではない……
何者かを追いかけているのだ。
それは人間だ……
そうです……俺です……草太 DEATH〈デスッ〉!
巨大チェンソーの怪物に、執拗に追いかけ回されてる真っ最中だ。
ったく、しつこすぎだろ! どんな性格してんだよ!
奴との間に可能な限り大きな木を挟む様に逃げているが――
なんでその速さで木を倒せるんだYOoou!!
後ろをチラリと見る。
実際のチェンソーは木を切り倒すが……
奴は二枚の角を使い、大木を根元から粉砕してなぎ倒している。
生木が砕け引き裂かれる嫌な音が、俺を追いかけ続けているのだ。
あのパワーはいったいどこからくるのか?
エネルギー切れとかに、なっても良いと思うのだが――
その気配はまったくない!
俺はあの場所に向かって、ひたすらジグザグに駆け逃げる。
目的の場所が樹間から僅かに見えた。
――「見えた! あれだっ!」
少し開けた草地に俺は飛び出た。
奴をできるだけ引き付けなければならない!
俺はソ《・》レに駆け寄り、クルリと振り返る。
背中をピッタリ当てて、怪物を待ち構えた。
落雷に似た派手な破裂音。
目前のでかい大木の根元が爆砕する。
俺を狙う魔物が全容を現した。
ヴォンヴォンと唸りを上げる、畳二畳大の二本のチェンソー。
それらが生えている軽トラックよりデカい頭部。
バレーボール大の昆虫めいた複数の複眼。
太ったヤスデ形状の巨大な環節胴体。
わらわらと動く、電柱より太い無数の足。
全体的にとげとげしていて、触ったら痛そうである。
俺は奴をにらみつける――
タイミングが命だ。
怒り心頭の魔物は減速しない。
突進してきた――
「1! 2! 3!
ダアアアアアアアッ!!!」
ギリギリまで待って横にすっ飛ぶ――
グワワアアアアオオオオウオオオオウオオオオオオオオン――!!!
生木を粉砕する音とは、明らかに違う轟音が樹海に響き渡る。
怪物が巨大岩と激突した音だ。
俺が目指した場所はそう――
――鉛筆岩だ。
奴がモロに巨大な鉛筆岩に激突したのだ!
凄まじい衝撃で巨大な岩が振動する。
震える鉛筆岩から内臓を揺さぶる重低音が響き渡る。
立ち込める小石混じりの土煙が魔物の姿を覆い隠していた。
やがてゆっくりと反響音が止み、静寂があたりを支配する。
視界を遮っていた土煙が風に流され少しずつ晴れていく。
だんだんと奴の姿が鮮明に見えてくる。
鉛筆岩に激突した怪物は、頭を上に向け……
くの字に折れ曲がっていた――!
チェンソーも振動をやめている。
「ヨッシャアアアアアアアアアアっ!」
俺は天を仰いで歓喜の声を上げた。
「ぜい…フ~~~ぜい~ぜいぜいぜい……
手間を……ぜい……かけさせや……がって~~ぜい……」
ぜいぜいと息が切れる。
汗でびしょびしょである。
靴の中まで汗だくでヌルヌルだ。
さすがにきつかった。
停止した巨大チェンソー。
二列に並んだ、ギザギザの牙がハッキリ見える。
巨大鮫の歯に似ており、凶悪そのものを形にしたようだ。
えげつない形状。恐ろしすぎる……
――ズズッ……
怪物がのそっと動いた――
「!」――「うそ……だろ……まさ…か…」
ジ……
ジ……ジジ……ジ…ジ…………
ジヴォン…………
ジヴォン……
ジヴォン……
ジヴォン…ジヴォン
ジヴォン…ジヴォン――ジヴォン
ジヴォン―ジヴォンジヴォンヴォンジォンジォンオオオオオオオンッ!!!
咆哮の様な金属音と共に、再稼働を始めるチェンソー。
凶悪な刃が高速で振動する。
怪物は、くの字に折れ曲がっていた巨体を捻りながら、のたうつ様に元に戻した。
奴が俺を見ている。
『バカが……所詮は浅はかな小物……我の敵ではない』
そんな声が聞こえた気がした……。
「クソがあああああああっ!!!
第二ラウンドあるのかよおおぉぉぉぉおおおおっ!!」
俺は再び走り出した――。
*
どれだけ時間が経っただろう……
怪物のチェンソー音が樹海に轟き続けている。
鉛筆岩に時折奴の刃が接触し甲高い金属音を響かせる。
鉛筆岩の直径は15メートルぐらいだろう。
俺はひたすらその周りを走っていた。
43周まで数えたが無意味なので止めた。
汗でヌルつく事もあり、靴を脱いで裸足だ。
怪物にしつこく追いかけられているのだ。
さすがの魔物も鉛筆岩の粉砕は出来ないようだ。
たまに岩の周りをガリガリ削ってはいるが。
鉛筆岩はびくともしない。
完全に体力勝負となっていた。
へばった方が敗者となるのだ。
だが魔物がへばる様子はいっこうにない。
鉛筆岩周りをドリフトしながら俺を追いかけ続けている。
そして俺の体力は限界寸前だ……
裸足のせいで、足裏も傷だらけだ……
自分の呼吸音がやけにうるさい……
「ハア ハア ハア 」
肺が苦しい……息が上がる……
「ハア ハア ハア ハア」
視界がボンヤリする……脚に力が入らない………
「ハア ハア ハア ハア」
奴が直ぐ俺の後ろに迫るのがわかる……
「ハア ハア ハア ハア」
ヴォンヴォンと余裕の雄叫びを上げている……
「ハア ハア ハア ハア」
ついに倒れ込む…………
「ハグッ! ハア ハア」
体力を使い果たした………!
「クソッ! ハア ハア ハア ハア」
最後に奴の方を向く………
「ハア ハア ハア ハア」
凶悪な振動する刃がすぐそこに…………
「ハア ハア 」
迫り…………
止まった――
怪物の前進が止まった。
いいや――止まったのではない。
止めたのだ……
怪物の前進を――
俺が止めたのだ!
奴の後方の脚に何本もの蔓が絡まり結ばれていた。
進もうとすると蔓が引っ張るので前に動けないでいる。
普通の蔓ではない。
蔓の束を太いロープ状に編んである。
強度増し増し蔓ロープだ!
鉛筆岩の周りにありったけの、ウネビュン草の種をまいた後。
岩の回りを走りながら成長させた。
奴に悟られないよう蔓を地面に這うように伸ばした。
裸足になったのも蔓を早く長く成長させるためと、蔓に直接ふれて操るためだ。
倒れた場所も計算ずくだ。
蔓操作は身体の一部が直接植物に触れていなければならない。
全てのウネビュン草を一度に操るために、それぞれから伸びた蔓を一本ずつ一か所に集めた。
今俺のいる地点は、蔓操作コントロールセンターだ!
俺の仕掛けた罠にはまり、後方の足を蔓ロープで固定されている魔物。
それでも奴は無理矢理前進しようとする。
怪物の前半身が鉛筆岩を擦りながら浮き上がった。
今がチャンスだ! けりを付ける!
両手、両足を地面に付け、全てのコントロール用蔓に触れる。
鉛筆岩周りの地面に、グルグルと円盤状に伸ばした蔓。
それを編み上げる。
あっという間に、蔓ロープを複数本作り上げた!
その無数の蔓ロープがシュルシュルと音を立てて、鉛筆岩と、怪物の胴体とを結んでいく。
頭部も鋸器官以外に蔓ロープを回す。
ここは特に念入りに結ぶ。
とげとげしているので引っ掛けやすい。
巨大な怪物よりさらに巨大な鉛筆岩。その岩肌に沿うよう貼り付けにした。
奴のでかい図体が前半身を浮かせ弧を描き、蔓ロープによって何重にも括り付けられている。
鉛筆岩にガッチリ完全固定されたのだ。
鉛筆に、糸でグルグルに縛り付けられた蟻んこ。
そんな状態だ。
怪物の二本のチェンソーが盛んに振動する。
だが、それらは空を切るばかりだ。
奴は蔓ロープをギシギシ鳴らし、必死にもがく。
だが、逃れられない。
――正にがんじがらめ!
「ぜい…フ~~~ぜい~ぜいぜいぜい……
手間を……ぜい……かけさせや……がって~~ぜい……」
さっきと全く同じ台詞を吐き出す俺。
初「くっころ」がまさかこんな怪物になるとは……
姫騎士ではない事に落胆はなはだしいが。
俺の命が掛かっていたので甘受するしかあるまい。
「流石に……もう限界……」
俺はバタンと地面に仰向けで倒れた。
木々の枝葉によって切り取られた青空に白い雲がのんきに浮かび。
そそり立つ鉛筆岩が赫月を串刺にする。
象徴的な光景が、死闘の終わりを暗示するかの様だった。
魔物の奏でる空回りする金属音と、俺の呼吸音が流れ続ける……
兎にも角にも―― 俺の勝利だ!!!
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




