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第15話 兵士達の絶望と姫の希望 (後書き挿絵、オオノコギリ角)

        

円環を成すナヴィア王国居住地。

その外周である大縁《おおふち》のすぐ内側は、草地の緩衝地帯となり牧場を兼ねる。

次いで、環状の運河や防風林によって区分けされた穀物畑や野菜畑となっており、運河沿いには幾つかの農村が点在している。


その村の一つである南村《みなみむら》の東古橋《ひがしふるばし》を、並び歩く兵士がいた。

王国防御兵団第三大隊に所属する、モブフとコピフの双子の兄妹である。

外周巡回の交代のため大縁に向かう途中であった。



甲高い声がモブフとコピフの耳に届く。

前方の穀物畑からだ。

七、八歳ぐらいの男の子と女の子が、泣き叫びながら駆け寄ってきたのだ。


「ぞうだ~ぎじゃんがう~~ばげ~じ~~!!」

「わずぃ~ぎやぅだ~~うじ~~っ!!」


鼻水と涙で顔をくしゃくしゃにし。小刻みに震えていた。

その様子から、只ならぬ事が起こったであろうことが推察された。


しかし何を訴えているのか、まったく理解出来ない。


「コピフよ、この子らが何といっているか分かるか?」

「私にもさっぱり聞き取れないわ、兄さん」


頭を抱える二人の後方から、木橋を叩く二足騎乗竜《にそくきじょうりゅう》の軽快な足音が近づく。

やがて涼やかな声が聞こえた。


「どうした? モブフ、コピフ。何があったのだ?」


モブフとコピフが最も尊敬し崇拝する姫、セラフィーであった。

橋の上を吹き抜ける微風《そよかぜ》に、虹色の光沢を放つ長い銀髪が美しくなびく。

品の良い装飾の施された鎧を纏い、騎乗竜に跨る、凛々しくも気品漂う高潔なその姿。


二人の目には戦(・)女(・)神(・)が降臨したかのように映った。


姫に見とれ、一瞬職務を忘れていた二人が動き出す。


「はっ。子供らが何か観た様なのですが……」

「この様な怯えたありさまで……」


泣きじゃくる子供たちを見つめたセラフィーが気付く。


「草太《そうた》殿《どの》を預けている薬草園の子供らではないか」


姫は騎乗獣をするりと降りると、子供たちの前にひざまずいた。

そして両の腕で二人を包み込むように抱きしめた。


「たしかボンノにミミカであったな……。

もう大丈夫だ。落ち着いてゆっくり話すがよい」


モブフとコピフはその様子に心を奪われ、呼吸も忘れて見入る。

優しく声を掛け、ぽんぽんと子供たちの背中を叩く姫。

慈愛に満ちた柔らかい表情は、聖(・)女(・)と見まごうほどであった。


姫に抱かれたことで、二人の震えは少しずつ収まっていった。

やがて、途切れ途切れに言葉が出る。


「大縁の……中に……見たことも……ない……大き……い魔物が……」

「草太《そうた》にいちゃんが……囮になるから……あたしたちに……兵士を呼んで……こいって……」


「草太殿が囮に! どの様な魔物であった!? 大きさは!?」


姫の問いに、子供たちは震える声で答えた。


「頭に……ノコギリが……二つあった…………」

「荷竜車《にりゅうしゃ》……より……おっきかった…………」


「オオノコギリ角《づの》だ!!」

「ちいっ! しかも成体か!!」


モブフとコピフが呻く。


“オオノコギリ角” は樹海に生息する最も危険な魔物の一つだ。

樹海内の頂点捕食者であるため、数は少ない。

その気性は荒く、しかもしつこい。

一度敵と認めた者を何処までも追いかけ回すのだ。


幼体の討伐ですら最低二つの班が必要とされる。

成体ならば一個小隊は必要だ。


そんな化物と単騎で闘える者は、セラフィー姫の父である、兵団団長のバルグぐらいである。

虚穴人《きょけつびと》 の生存は絶望的であった。

 

モブフとコピフの表情が曇る。

草太に対して良い感情を持たない彼らだが、巨大な鋸《のこぎり》に切り刻まれることを想像すると、哀れに思えたのだろう。


「草太にいちゃんを……助けて」

「お願い……セラフィーさま」


幼い二人の手が姫の鎧を掴む。

セラフィーは二人の頭にそっと手を置いた。


「ああ、分かった! 草太殿は私が必ず助ける! 安心するが良い!」


その声は力強く、諦《あきらめ》めの感情は見受けられない。


「二人とも自分たちだけで家に帰れるか?」


袖でゴシゴシ涙を拭く子供たち。


「うん……帰れる」

「だから……早くおにいちゃんを」


セラフィー姫は立ち上がり、翡翠《ひすい》色の瞳をモブフとコピフに向ける。

二人は姫の表情を見て思わず背筋を伸ばした。


そこにいるのは「女神」でも「聖女」でもなく「将(しょう)」であった。


間髪を入れず姫は兵士に命じる。


「これより、虚穴人 草太殿を救いに行く!

モブフ! コピフ! 私と来い!!」


騎乗竜には乗らない。

身体強化魔法を極めた者であれば、数㎞ほどの距離なら『魔力疾走《まりょくしっそう》』の方が騎乗竜より速いからだ!

姫は即座に『魔力疾走!』と唱え、大縁に向け走り出した。


「はっ!」

「ご一緒いたします!」


二名の兵士もすぐさま魔法を発動し姫の背を追う。


三本の疾風《しっぷう》が青い穀物畑を揺らし駆け抜けていった――






お読みいただきありがとうございます!

今回の挿絵は「オオノコギリ角」です。


挿絵(By みてみん)


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次回もよろしくお願いします!


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