第14話 草太危機千髪!!!
『バルデロイド輪形動物』
俺が地球で見た、あの魔物と似た生物の名前だ。
それも頭部――二本の突き出たチェンソーが回転するあの器官。
あれが酷似している。
もちろん、バルデロイド輪形動物はあんなにでかくはない。
というかミジンコより小さい。
以前マイブームで、最強生物と言われるクマムシにハマっていた。
学校の顕微鏡を借りてクマムシを観察していた時。
偶然に “頭部に回転する二本のチェンソーを持つ生物” を見つけたのだ。
調べてみたら、バルデロイド輪形動物の一種だった。
チェンソーのように見える器官は、実際に回転している訳ではない。
器官の縁にびっしり生えた繊毛が高速で振動し、あたかも回転しているように見えるのだ。
あの怪物のチェンソーも、回転しているわけではない。
器官の縁が高速で振動しているのだろう。
ただし、びっしり生えているのは繊毛ではない。
出刃包丁並みの鋭い牙だ!!
化物は軽トラックより大きい頭部を持ち。
それが全身の四分の一を占めている。
バルデロイド輪形動物は、ナメクジめいていて足が無いが、こいつにはある。
胴体は節足動物のヤスデやムカデに似ていて、無数の足が、わしゃわしゃと動いているのだ。
「うげっ、きしょい!」
唯一救いなのはヤスデよりも胴体が短いことぐらいだ。
奴が俺に注意を向けたので逃げることにする。
「!」―― 俺は右脚を引きずった……
二人を抱えて転げ落ちたのだ、無傷とはいかない……
ズリズリと足を引きずり土手沿いの草むらを逃げる。
左右にパクパクと開閉する巨大な二枚のチェンソー。
大量の草を刈り取り迫ってくる。
けたたましく不快な金属音に、時折振り返り見る。
奴が手負いの俺を見て笑っている気がする……
必死で逃げながら 真価の指輪 に念を送った。
――――――――――――――
【植物おせわ係】
・植物の成長促進
・うま味成分爆増
・蔓操作
――――――――――――――
戦闘に使える能力は今のところ蔓操作だけだ。
ウネビュン草の種はいくつかポケットに入ってはいるが――
成長促進を使っても瞬時に成長する訳ではない!
蔓が成長するまで奴が呑気に待ってくれるハズはない!
第一、蔓操作は対人専用だ。
あんなデカブツを拘束することを想定していない!
真後ろに轟音が迫る。
もはや振り返る余裕もない!
左足で必死で地面を蹴る。
が、スピードは出ない!
視界の両端に、奴のブレードが映り込んだ。
それが閉じられたら終わる。
身体はあっさりと粉砕される――瞬間!
ガギャーン!!
チェンソー同士が接触する轟音が響く。
閉じたブレードの間に俺の身体は――
―― 無い!!
奴のチェンソーは草を刈り取っただけだった。
俺は引きずっていたはずの右脚で、地面を蹴って横っ飛びしたのだ!
「フ~~」
額の汗をぬぐいながら、右脚で軽くトントンと跳ねる。
右脚は痛めてはいない。
痛めたふりをしていたのだ! まあ、すり傷ぐらいはあるがな!
肉食動物の標的になりやすい条件がある。
それは足の遅い子供。
それと怪我や、病気で弱った個体だ。
ボンノ君とミミカちゃんより狩りやすい獲物に俺が化けたのだ。
地上に巣をつくる鳥が行う擬傷と同じだ。
「ガハハハハ、バカめ騙されおって!
所詮はでかいだけの魔物、俺の敵ではないわ!」
魔物が巨大な頭部を持ち上げ、天に向けた。
ヴォンヴォンヴォンヴォンと、一層激しく唸りを上げる巨大チェンソー。
騙されたことを理解したのか、激怒しているようだ。
「すでにお前のスピードは見切った!
全力で逃げれば俺の方が早――――――!?」
次の瞬間―― 目を疑う光景が起こった。
あの巨体が宙に浮いている―― 跳躍したのだ。
「嘘だろ…………!」
二枚のチェンソーが大口を開けて上空から飛んでくる。
今度こそ本当に必死で飛びのく俺。
奴の刃が後頭部をかすめたが、ギリギリ回避!
激しい振動と共に、奴の頭部が地面にめり込む。
が、すぐさま大量の土をまき散らし、回転するチェンソーを持ち上げた。
間髪入れずに俺に向かってくる―― しかもさっきよりも数段速い!
「てめー! 今まで手を抜いてたんかよー!」
全力で逃げるが直進スピードは明らかに奴の方が速い。
俺はやや小柄な体型を生かすべく、左右にちょこまかと回避をし続けた。
後頭部がスース―するので触ってみると、ジョリッとした感触があった。
500円玉サイズの禿げが後頭部にできていた。
奴の刃が後頭部をかすめたせいだ。
「やっべええええええええっ!!
チョットでも避けるのが遅かったら、脳漿ぶちまけてたああああああ!!」
正に危機一髪だった!
いや500円玉サイズならば1000本は持って行かれたハズだ。
つまり――危機千髪――である!!!
兎に角、左右に蛇行しながら逃げる。
絶体絶命のピンチだ…… が――しかし……
……いや……だからこそ逆転の希望があるのだ!
そう!例の……
1――異能力バトル漫画の主人公が。
2――生命の危機にさらされるピンチに陥ることにより。
3――ハズレスキルが、化物チートスキルに覚醒する。
という――アレだ。
今まさに俺はそのような状態にある。
なんせ危機千髪だからな!
真価の指輪 に念を送りスキルを確認する――
――――――――――――――
【植物おせわ係】
・植物の成長促進
・うま味成分爆増
・蔓操作
――――――――――――――
「変わってねええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!
なんで覚醒してね~~んだよおおおおおおおおお~~~~~~~~っ!!!!!!!」
のどが張り裂けんばかりに絶叫する俺。
ちょっとちょっと、おかしいでしょ?
もし新人漫画家がこんなマンガを描いてさ!
担当編集に見せた日にゃあさ!
そりゃもうボロクソ評価さ!
「君、才能無いからさ!
田舎帰ったほうがいいんじゃない?」
そう宣告されかねないクソネームだ。
知らんけどさ!
全力で土手を駆け上がり最大スピードまで加速。
10メートルの高さから大縁外にジャンプする!
外斜面に立てられた剣山のように並んだ木の杭が足もとを流れていく。
着地の瞬間衝撃に逆らわず、前方に三回転して立った。
動画サイトでパルクール技の解説を見ておいて良かった。
初めてやったが地面が落ち葉でフカフカだったこともあり、案外何とかなった。
大縁の外に逃げたのは理由がある。
身体の小さい俺には、障害物がある方が奴の攻撃を回避しやすい。
こっちには大木が乱立している。
ダブルチェンソーの怪物は大木など容易く切り倒すだろうが、それでもスピードは落ちるハズだ。
そしてもう一つこっちにはアレがある!!――
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