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第13話 草太 初の野生魔物と遭遇する!

―― 魔物ってなあに? ――


みなさんは魔物と動物の違いを知っていますか?


たとえば、一角兎は魔物で、穴掘り兎は動物です。

同じ「兎」という名前がついているのに不思議ですよね。


実は、一角兎と 穴掘り兎は 姿こそ似ていますが、まったく別の生き物なのです。

このように、違う生き物がよく似た姿になることを 収斂進化(しゅうれんしんか) といいます。


そして 一角兎には 穴掘り兎にはない 「魔石袋(ませきぶくろ)」 という特別な器官があります。

この魔石袋はすべての魔物が必ず持っている器官 なのです。

つまり、魔物と動物の違いは「魔石袋があるかどうか」なのです。


魔物は空気の中にふくまれる 魔素(まそ) という、目に見えないほど小さな粒を体に取り込み、それを身体を動かすエネルギーにしています。


そして、使いきれずに余ったエネルギーは、魔石袋の中で 魔結晶(まけっしょう)という石に変えてためておきます。


魔物同士で争うときや天敵から逃げるときには、この魔結晶をエネルギーに変えて、

ふだんより強くなったり速く走れたりするのです。


このように、魔素をエネルギーとして利用する生き物を

魔源生物(まげんせいぶつ) または 魔素栄養生物(まそえいようせいぶつ) といいます。


魔物にとって魔素は、みなさんがお食事のときに食べる、パンやごはんのようなものです。

そして、みなさんが成長するためにお肉や野菜を食べるように、魔物もお肉や野菜を食べます。


ただし、同じ大きさの動物とくらべると、魔物は半分以下の食べ物で生きていけるのです。


―― 生物学の賢者 光・駄宇院 著

『子供のための魔物図鑑』 冒頭より ――


***


第二環状防風林を抜け、緑色の絨毯が波打つ穀物畑の道を全力疾走する。


遥か前方を二人のガキんちょ共が走っている。

ササリナ先生のひ孫である、ボンノ君と、ミミカちゃんだ。


俺は身長はクソ親父に似てちょっぴり低い。


しかし運動神経は、空手のインターハイで連覇を成し遂げた母ちゃん似だ。

なのにまったく追い付けないどころか、ガキんちょ共にガンガンと引き離されていく。


皆さんこにゃにゃちわ! 草太です。


二人に何やら刺激的な場所に連れて行ってもらえることになったのだが。

世界共通のガキんちょ文化である。


「じゃ! 草太にいちゃん、鉛筆岩《えんぴついわ》まで競争な!」

「うん! 鉛筆岩まで競争! 競争!」


という二人の一言で今に至る。


「クソ~! どうなっとんじゃあ~っ!?

なんであんなに速ええんだよ!!」


俺が疑問をぶーたれていると、二人が急にスピードを落とした。

普通のガキんちょレベルの速さになってる。

直ぐに追い付き追い抜く。


「ガハハッ! バテやがったか! ペースを考えんからだ!!」


振り返り勝ち誇る俺にボンノ君とミミカちゃんは抗議する。


「ちげーよ、魔力切れだよ!」

「身体強化魔法の『魔力疾走《まりょくしっそう》』が切れちゃった~~!」


ぬわんだとっ?! やはり在るのか!―― 身体強化魔法!!

だが競争という神聖なる真剣勝負に、そんな卑怯な真似は許されない!


「お前ら!そんな魔法を使うなんて卑怯だろ~~が!!」


「え~~何言ってんの?学校で一番最初に教わる魔法じゃん~~」

「そ~~だよ!使えない方がいけないんだよ~~」

 

え? 学校で最初に教わんの?! 火魔法や水魔法じゃなくて?!

ひょっとしてエルフ国あるある??

しかしいくら魔法が得意なエルフとはいえ、ガキんちょでも覚えられるということは、身体強化魔法は簡単なのか?


「出産の呼吸」を極めた今の俺なら、教われば使えるようになるんじゃね?!

後でセラフィーちゃんなり、ササリナ先生なりに教えを乞うてみよう!


*


直径十キロほどの円環を描くナヴィア国居住地の外周に、ぐるりと築かれた高さ十メートルの土手。

魔物が跋扈《ばっこ》する樹海と居住地とのその境界を「大縁《おおふち》」と呼ぶそうである。

その上を二時間間隔で兵士が巡回しているのだとか。


俺とボンノ君とミミカちゃんの三人は、大縁の手前の小さな茂みに身を潜め、息を殺していた。

大縁の上を巡回する兵士二人が、通り過ぎ去るのを待っているのだ。


見つかってしまうと即座に追い返されるそうだ。


「見える……?」

「もうちょっと……」

「丘過ぎた……?」

「今通るとこ……」

ボンノ君とミミカちゃんが小声でヒソヒソやっている。かなり手慣れた様子だ。


樹海の奥に細長く突き出ているのが鉛筆岩だ。

茂みにしゃがんでいても樹海ごしに先端が見えた。

高さ100メートルはありそうだ。


大縁は地面の起伏に沿って上下しており、丘と丘に挟まれている場所が兵士に見つかりにくい。

鉛筆岩はそのベストポジションの目印になっているのだ。



「草太兄ちゃん石持った?」

「投げやすいやつだよ」


上着のポケットを小石でパンパンにした二人が聞いてくる。


「ああパーカーのポケットに入ってる」


俺も二人の指示にしたがい小石でパンパンにしている。


「よし、兵さん見えない!」

「いくよ草太にいちゃん!」


二人は大縁に駆け寄ると四つん這いになって、傾斜のきつい斜面をシャカシャカと登って行った。


俺も二人の後に続いて登り、土手の上に立つ。


大縁の上は幅3~4メートルの道になっていた。

反対側の斜面を覗くと。

先を尖らせた木の杭が、外側に向かって剣山のごとく、びっしりと立てられている。


額に手を当てその先の樹海の奥に目をこらす。

下草の丈が短く日本の原生林というよりも、ヨーロッパの森的な感じだと思う、多分。


そして、ちょくちょくこの大縁の近くに、魔物が近づいて来るのだとか。

しかし魔物は近づくだけで上には上がって来ない。


ササリナ先生から教わったことによると。

神樹の霊力が作り出す防壁は2層構造になっていて、目玉焼きのような形をしている。

白身の部分は精神攻撃、黄身にあたる場所では物理攻撃が魔物を襲う。


要は神樹《しんじゅ》の霊力の影響が十分に働く、ぎりぎりのラインがこの大縁なのだという。


魔物が大縁には近づくが、神樹の霊力がつくる精神攻撃の結界によって上がって来ない。

そのような好条件をガキんちょ共が見逃すはずもない。


大縁に近づいた魔物に上から石を投げつける―― 通称――「石投《いしな》げボコリ!」


という実に子供らしい無邪気な遊びが、学校の友達の中でバズっているのだという!


確かに刺激的ではあるが……時々結界内に魔物が侵入してくるらしいので。

親や学校にバレたら大目玉だ! 秘密にしたいのも当然ちゃ当然か。


            *


それから一時間ほど過ぎたが魔物の魔の字の気配もない。

二人の解説によればいつもなら二、三匹は見かけているという。


「出てこね~なゴブリン」

「おかしいな~~」


ゴブリン待ちの二人が不思議がる。


なんでも子供たちの間で一番人気なのはゴブリンだそうだ。

見た目が醜悪なのでボコるのが楽しいらしい。

さすが子供は純粋のかたまりだ。


「あっち行ってみようぜ」

「うん!ゴブリンいるといいな」


ボンノ君とミミカちゃんは樹海を覗きながら大縁ぞいを歩いていく。

俺はその場で樹海の下草をなめまわすようにじっくり見る。

ゴブリンよりもスライムが見たいのだ。


「スライム♪ スライム♪ スライムちゃん♪ 出ておいで~~~~♪」

 

!!!――「なんだ?」


ボンノ君とミミカちゃんが騒ぐ声が耳に届く。

50メートルほど離れた所で、樹海を指さし俺に何か叫んでいる。

 

「お~~い、ゴブリン居たのか~~?!」


手の平でメガホンを作って大声できく、しかし二人は首をフルフル振っている。


その時! 連続した破裂音が聞こえた―― 木の幹を強引に引き裂くような不快な音だ。


二人がこちらに駆け寄ってくる。

二人の斜め後方の樹海の木々が次々となぎ倒され、蒸気機関車の煙のような土埃がそれを追う!


相当でかいやつがいる!

定番なのは馬鹿でかいボアやベア的なやつか!?

驚くべきことに、木々がなぎ倒されるスピードが二人が走るよりも速い!


「兄ちゃん逃げたほうがいいかも!」

「見たことないやついた!」


走り込んできた二人が叫ぶ。


けたたましい金属音と杭が粉砕される音が響いた瞬間!

巨大な影が土手の上にせり上がり、三人の視界をふさいだ。


(近い!!)


――俺は咄嗟に二人を抱え大縁の内側に飛んだ!

斜面を転がり落ち草むらの中で縺《もつ》れながら止まった。


状況からして魔物が結界内に入っているのは確実だろう。


生物が発するとは思えない甲高いエンジンのような音が響く。


大縁上から軽トラより二回りはでかい頭部が、ぬうっと現れた。

鎌首をもたげ、せり出した巨体が太陽を遮る。

その巨大な影が大縁下の俺たち三人を包み込んだ。


「なんだあいつは!? 本当に魔物なのか!?」

呟く俺に。


「知らない……」

「見たことない……」

怯える声で二人が答える。


頭部と思われる場所から、楕円《だえん》状の器官が左右に二枚伸びていた。

楕円器官の縁周《ふちまわり》りが高速で回転している様に見える。

それは「鎖鋸《くさりのこぎり》」、あるいは「チェンソー」と呼ばれる伐採《ばっさい》機に酷似していた。


そう―― 畳二畳ほどの巨大なチェンソーが二枚。

魔物の頭部から突き出し、唸りを上げているのだ!


ハッキリ言う!――この怪物のデザインはボ(・)ス(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)クラスだ!!


どうなってんのこれ!? おかしくない!?

普通、第一魔物は「ゴブリン」とか「スライム」とかだろ!?

ここは下っ端が出てくる所だろ!? 常識的に考えて!! 


しかし今はストーリー展開の不備を嘆いている場合ではない!

そんな時間もない!

仕方がない!

本当は言いたくない!


――だがBIGな男を目指す以上、あの定番台詞を言わねばなるまい!


「二人とも魔力は――もう『魔力疾走』は使えるか!?」


二人の肩に手を置き確認する。


「う、うん短い間なら…」

「あたしも少しだけなら…」


何とかなりそうだ。


「『魔力疾走』ありなら俺より二人の方が速い。兵士を呼んで来てくれ!」


そしてついに、あの台詞が俺の口から吐き出された。


「俺が囮《おとり》になって怪物を引き付ける!!」


あ~言ってしまった……

あまりにもベタ過ぎる台詞だし、俺も命は惜しい。

マジで言いたくなかったのだ――


「え……」

「でも……」


大縁の反対側に二人を振り向かせると。


「いいから行け! 頼む!!」


両手で背中をドンと叩く!

二、三歩よろけた後、二人は『魔力疾走』とつぶやき走り出した――


「やっぱ速いな……

確かにあんな怪物が侵入してくるなら『魔力疾走』を最初に教えるべきだよな」


ダブルチェーンソーを睨んで納得するが……


(ちっ! まずい!)


魔物が走っている二人の方を向いたのだ。

本能的に動くものに注意が向くのか?


そして二人のスピードが明らかに落ちている。

まだ100メートルぐらいしか走っていないのに、早くも魔力切れしたようだ。

機会があれば「出産の呼吸」を伝授せねばなるまい。


魔物が樹海の木々をなぎ倒したスピードを考えると、二人にあっという間に追い付いてしまうだろう。

何とか俺に気を引き付けないといけない!


パーカーのポケットから石を取り出す。

ワインドアップからのオーバースローで魔物に投げた!


「おらあっ!石投げボコリをくらえ―!」


チェンソーに当たり、カーンといい音色が響く。

まったくダメージはなさそうである。


「おらおらおらおおらおらおらーっ!!」


やけくそでポケットの中身をバンバン投げつけ、注意を引き付ける。

リズミカルな音色が旋律を奏でる。


「お、怒ってる、怒ってる」


ようやく注意を引き付けられたようだ。

金属が高速で擦れるような騒音が一段と高くなり、俺の方を向いた。


ところであの魔物を観て思い出した事がある――


俺は以前あいつを見ているのだ。


ただしその場所は異世界ではない―― 


地(・)球(・)でだ!!


お読みいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


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