第9話 草太、超絶美少女姫騎士様におねだりされる!
おはこんばんにちは! 草太です。
いや~、時の流れは早いもので、この世界に転移してから2ヶ月が過ぎました。
この世界の時間に関してだが、1日や1年の長さは地球とほぼ同じだと思って良いらしい。
1年も12ヶ月に分けられているがグレゴリオ暦と違い、1ヶ月が30日と31日で構成されている。地球もこれにならうべきだと思うのは、俺だけではないはずだ。
俺は今、ナヴィア国の高名な薬師さんが所有する薬草園にいる。
「ふわ~~~~っ」
薬草畑の前で生あくびを噛み殺す、諸事情により睡眠不足なのだ。
今、俺の脳裏には中学生時代の思い出が蘇っている。
同じクラスにS君という奴がいて、ある月曜の朝――
「解読に成功したよ! 草太君!」
と、分厚いレンズのメガネを曇らせ、教室に飛び込んできた。
S君は無類のファンタジー好きだった。
俺が大学ノートにファンタジー小説を書いていたのも彼の影響だ。
その手には、ミステリー・マガジンの付録に付いていた、『ボイニッチ手稿』なる本が握られていた。
S君の説明によると、世界三大奇書の一つとされ、
奇妙奇天烈な植物の挿絵と、意味不明な未知の文字で書かれていて、誰にも理解出来ない本なのだとか。
S君は興奮冷めやらぬ様子で、
「この僕が、世界で初めて『ボイニッチ手稿』の解読に成功したんだ!」
――と、高らかに宣言した。
本を開き、一行ずつ指差しながら、彼がその解読結果を懇切丁寧に解説してくれたのだが。
その解説には多少、矛盾点があったので、俺も指さしながら指摘する。
「その解釈だと、ここんとこおかしくない? あと……そことそこ、花の絵のとこも」
するとS君はしばらく逡巡したあと、『ボイニッチ手稿』に添えられていた手を放し、
その中指で分厚いメガネをクイッと押し上げた。
「この僕ですら見逃した点に気付くとは、流石は我が永遠のライバル、草太君だ」
ニヤリと笑い本をパタンと閉じた。
その後、毎週再考察を聞かされたが、指摘するのがだんだん面倒くさくなったので、
最後は黙ってうなずくだけにしたのだった――。
ファンタジー好きなら避けては通れない。
あの手稿に描かれた植物と同じような不思議形状の薬草。
それが目の前の畑一面でグングン成長している。
早回し映像のような光景が、25mプール程の畑の隅々で起こる。
うねうねと伸びる様子はかなり不気味だ。
ポンッ♪ ポポポン♪ ポポン♪ と鼓のように音が鳴り。
色とりどりの花が咲き乱れる。
シナモンに似た芳香が肺の中いっぱいに広がった。
「ふ~~っ、よっしゃあ!」
両手でガッツポーズ。
最初はタンポポもどきの花を、三輪しか咲かせられなかった【植物おせわ係】の「植物の成長促進」能力。
飛躍著しく、今では薬草畑ぐらいなら余裕だ。
二か月間あまりの猛特訓の成果である。
現在俺は、郊外にある薬師さんの工房に間借りし生活している。
世話役のセラフィーちゃんが紹介してくれたのだ。
セラフィーちゃんは最初、俺を宮廷内に住まわせようとしたのだが。
王族の方々はともかく官僚や侍従さん達から。
「下賤な人種風情が、神聖なる神樹様のおひざ元に住まうなど断固反対!!!」
と抗議があったのと。
俺も自分のスキルを特訓出来る環境が欲しかった事もあり、この国の最長老で最も高名な薬師さんの家に、お世話になることになったのだ。
効能が高い薬草ほど育てることが難しく、天然物しか無かったのだが。
それを俺のスキルで栽培することに成功したのだ。
薬師さんは希少な薬草がどっさり入手でき、俺はスキルの特訓ができる。
正にWin-Winである!
そしてもう一つ都合の良いことがある。
人属の中でも最も長寿のエルフ種、その最長老様という生き字引から、
異世界を生きる上での常識や様々な知識を学べるのだ。
「今日も精が出るな! 調子が良さそうでなによりだ、草太殿!」
耳馴染みの、澄んだ声に振り向く。
セラフィーちゃんだ。
逆光の中、超絶美少女フェイスが俺の後頭部を見下ろしている。
低身長エリートとはいえ、さすがに女子にがっつり見下ろされる程低くはない。
彼女が騎乗しているのだ。
乗っているのは馬ではなく、二足羽毛恐竜のラプトル的な姿のやつで、
パラキロプスという種類の騎乗獣だ。
騎乗獣は色んなタイプがあって、パラキロプスは「二足騎乗竜」と呼ぶのが正しいらしい。
全長5m、体高2mぐらいだろう。
腰の高さが人の胸ぐらいで、鞍が付けられている。
インコやオウムの様な鮮やかな羽毛に覆われていて短い手が四本もある。
そいつがリズミカルに長い首を上下に振っている。
ミニスカートの美少女姫騎士様に跨ってもらい、ご満悦のようだ。
わかる! わかるぞ!! その気持ち!!!
そしてなんと!
このパラキロプスは魔物なのだ。
俺が異世界で観た、第一魔物だ。
初見の時。
「神樹様の霊力で魔物は居住地に入れないんじゃないの?」
と素朴な疑問を聞いたら。
「居住地内にいる魔物は全て、テイムスキルを持つ者によって従属化された従属魔物だ。
従属魔物ならば居住地に入る事を、神樹様はお許しになる」
とお姫様アンサーが返ってきた。
ちなみにテイムのスキルが無い者でも、魔物を従属化させる事が可能だそうだ。
『血の盟約』と呼ばれる儀式をすればいいのだと。
ただし絶対条件があって、魔物が相手を信頼し、主だと認め従属化を望むこと。
食べ物や力で大人しくする事は出来ても、従属魔物には絶対ならないんだとか。
ひらりと二足騎乗竜から降りたセラフィーちゃんが、後ろ手に手を組みゆっくりと近づいてくる。
じっと俺の瞳を見ながら、下唇を軽く噛みしめて何かを言いたそうにしている。
エルフにしては短いお耳の先っぽが、徐々に朱色に染まっていく。
モジモジしながら両手の指を合わせ、軽く顎に当てると、やや斜め下からの上目遣いで小さな声で告白してきた……。
「草太殿…… 又、欲しいの…… だが……」
ズギュウゥゥゥ――ン!!
オーマイガー!
もはや犯罪級の可愛さである!!
俺がおっさんだったら、全財産はおろか全身の臓器を売り払ってでも、彼女の欲しいモノを買い与えること必至だろう。
幸いなことに、俺は彼女の欲しいモノを持っている!――しかも大量に!!
薬草畑の横に設けられた10坪程の畑に向かい。
まっ赤に色づいたトマトをもぎ取った。
トマトもどきではない、本物の地球と同じトマトだ。
俺が異世界に転移するきっかけとなった、竜巻に巻き込まれたとき。
パーカーのポケットにねじ込んでいたスマホは、どこかに飛ばされて無くなっていたが。
その代わりフードの中にトマトが枝付きで入っていたのだ。
多分、佐藤さん家のビニールハウスのトマトだろう。
ダメ元で、その枝を挿し木してスキルを使ったら見事に育ったのだ。
俺もトマトは好きなので。
「美味しく♪ 美味しく♪ 美味しく♪ なぁ~~~~れ♪」
と言いつつ念を送ったら【植物おせわ係】に新たな能力が生えたのだ。
その能力は―― うま味成分爆増!
そう、俺のスキルで育てた野菜や果物は、爆美味になってしまうのだ。
この世界のエルフは肉も食べるが、やはり野菜のほうが好きだと言うので。
以前セラフィーちゃんに一個ふるまった。
彼女は小さめなお口で、はむっとトマトをかじると。
こぼれんばかりに瞳を見開き、あっという間に完食したのだ。
最後は指をチュパチュパするという、お姫様にあるまじき醜態をさらすオマケ付きだ。
それ以来、頻繁におねだりしてくるのだ。
もはや俺の育てたモノがないと、生きて行けない身体になってしまったのかも知れない……。
「ほらよ、たぁ~~んとお食べ!」
セラフィーちゃんにもぎたての完熟トマトを数個渡す。
さあ姫よ! 俺の育てたモノを、お口いっぱいに咥え、口内を、ドロドロのトマト汁で、ベトベトにするがいい!
「ありがとう! 感謝する草太殿!」
翡翠色の瞳を輝かせてトマトを両手で受け取ると、左右交互にむしゃむしゃ食べだした。
頬をパンパンに膨らませ食べる様子は、ドングリをかじる子栗鼠のように可愛らしいが。
1㎜もエロくないし、やんごとなき人物の品格はまったく感じられない。
この世界の住人で無いからか、それとも舐めプーしているのか、俺の前だと気が緩むようだ。
「ごちそうになった! ではまた明日様子を観にくる!」
ミニスカートの美少女姫騎士様は、二足騎乗竜に飛び乗ると颯爽と去って行った。
彼女は世話役だが、俺にかまけてばかりもいられないのだ。
午前中は体力造りと戦闘訓練、次に政務と雑務をこなし。
午後は市街や農村を巡り、人々に声を掛け、困りごとを聞き。
夕方は魔法の訓練。
夕食後は勉学。政治、経済、地理、社会、歴史、古典文学、踊りに、お茶にお花、Etc……
お姫様生活って俺の想像してるより遥かにハードだ、農民のほうがいいような気がしてきた……
俺のスキルがどんどん農民スローライフ向けになって来てるし……。
―― なんてね! 嘘です!
実は【植物おせわ係】に『うま味成分爆増!』以外にもう一つ能力が生えたのだ。
しかも戦闘向けの能力が!
あえて言おう! 神能力! であると!!
俺のスキルが二か月間で急成長したのは、この神能力のおかげだと言って間違いない!
セラフィーちゃんが完全に見えなくなったのを確認する。
とある理由から、彼女には絶対悟られたくない能力なのだ!
俺は指にはめた 真価の指輪 に念を送った……。
お読みいただきありがとうございます!
続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




