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その7

 そして決戦の日。

 言い直そう、デート当日。


 先日の壁ドン事件から、早くも一週間。

 あれこれと考えた結果、新しくできたショッピングモールに行くことになった。

 

 本当は定番の遊園地かな?と、思っていたんだが。

 初デートで遊園地に行くと別れるという都市伝説?噂?を石蕗が気にしたので即却下。

 あの、デカいわんこには勝てる気がしない・・・

 なんだかんだ言って、私はわんこ石蕗に弱いらしい。

『たとえ迷信でも、雪織と別れる可能性があるなんていやだ!』だとさ。

 いや、まじで乙女か。あんたは恋する乙女か。

 それとも私が気にしすぎないだけなのか。


 とにかく、行くことになったショッピングモールだったら映画館もある。

 映画だったら、大して話すこともないし、終わった後は感想を言っとけば乗り切れる。はず!


 ・・・。

 本当にこんな調子で、石蕗をぎゃふんと言わせる猛烈アタックをかませるのだろうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 私「くらえ!必殺☆ラブビーム!!」

 石蕗「ぎゃふん!」 


 私「それは無理。」


              終

製作・著作

            ―――――――――― 

              Ⓝ●Ⓚ



 いかんいかん、弱気になっちゃだめだ。

 気合を入れるために頬を軽くたたく。


「〇〇駅~〇〇駅~お忘れ物に…」


 どうやら、気合を引っ張りだそうとバシバシ頬を叩いている内にショッピングモールのある駅についたらしい。ちょっと痛い。

 あっ大丈夫ですそこのお母さん変な人じゃないですそんな目をしないでくださいどうも。


 

 早く着きすぎたかな?

 待ち合わせ時間よりも20分早く着いてしまった。

 

 本屋にでも・・・いやどっかで糖分(エナジー)補給したい。

 喫茶店でもいこうか喫茶店。

 いや待てよ。嫌な予感が今背中を走り去って行った。

 よく考えなくても乙女な石蕗の事だ。

 もしかして、30分前くらいから待ってるかもしれん。

 ・・・ありえる。

 い、一応、待ち合わせ場所を確認してから本屋じゃなかったケーキ食べに行こう。


 ※ ※ ※ ※


 ・・・・・・。

 いた。

 いたよ、やっぱりいたよ。

 どんだけなの。

 どんだけ予想を裏切らないの。

 

 ・・・。(観察中)


 声、かけた方が良いかな。

 物陰からまたそっと、石蕗をちら見

 あ。女の子に話しかけられてる!

 逆ナンだ。あれが逆ナンだ。

 すごい初めて見た。

 見知らぬイケメンによく声なんてかけられるな、尊敬する。

 私なんて彼氏に声かけるのにもたじたじなのに。

 ・・・たじたじ?

 

 はっ

 そうだ。そうだった!

 私がたじたじしてどうする!

 あの女の子たちを追い払うような勢いで行かねば!

 今日こそ、石蕗をぎゃふんと言わせるのだ。

 大丈夫、堂々としてれば私だって・・・

 私だって、ライバルキャラ(=きつめの美人)なんだから!


「つわ・・・英仁くん。ごめんなさ・・・ごめんね?待った?」


 おっと、あぶないあぶない

 名前呼びと敬語なしは約束させられてたんだった。


 先日の事件で霧谷くんとタメ語で話しているところを、聞いていたらしく、敬語禁止を要求されたのだ。事件の直後。ついでに名前呼びも。

 本人は呼び捨てがいいと言っていたが、苗字呼びに戻すと脅し・・・説得して、くん付けで納得してくれた。

 

 いや、ゲームでは雪織はずっと石蕗に対して敬語だったから、さすがに抵抗したんだ。

 だが、名前呼び云々では折れたくせに肝心なところは妥協を許さなかった。

 ふとした時に、頑固というか俺様というかを感じると、この人は『石蕗 英仁』なんだなと思う。


**【回想中】**

 

「敬語禁止ですか。つわ・・・んん゛英仁くんと呼ぶのも恥ずかしい私が?」 

「そりゃあ、恋人以外の男にはタメ語なのに恋人には敬語っておかしいだろ。

 全然、恋人って距離じゃない。

 俺たち同い年なんだし。

 ・・・やっぱり、俺の事よりそいつの事が好きなのか・・・?」

「そんなわけないでしょう!?」

「じゃあ、敬語なしでいいよな?」

「・・・。」

「その沈黙を了承と捉えた。」

「!?」

「今から、敬語を喋ったらペナルティだから。」

「・・・。」


 突然、石蕗が悪役真っ青な、とてもとても黒い笑みを浮かべる。

 

「その二度目の沈黙を俺への反抗とみて、ペナルティとする。」

「!?」


 その瞬間、石蕗の顔が近づいて・・・(以下省略)


* * * * * *

 

 という事があったのだ。

 

 あのペナルティとやらは精神的にも体力的にも辛かった・・・

 石蕗の目が、わんこなんかじゃなかった。猛獣のような目をしてた。

 これ以上、私の口から話せることはない。


 くっ

 別に喋り方なんてどうでもいいじゃないか!

 大事なのは、心!心なのだ!


「雪織!」


 あれ耳としっぽの幻覚が

 そろそろ眼科にでも行こうか真剣に検討すべきだ、いやストレスが原因ならいっそのこと温泉旅行の方が効くかもしれない。 

 しかもこの視線が突き刺さっている状況、ものすごいデジャヴを感じる。

 あれだ、主人公(仮)の登場時。

 最近、本当に人に見られる機会が多い。

 私に平穏が訪れるのは、いや無理か。 


「ずいぶん早かった・・・ね。」

――敬語禁止!敬語禁止!!敬語禁止!!! 


「そうだね。

 一秒でも早く雪織に会いたかったから。」 

 

 何 を 言 っ て ん だ 

 

 この石蕗(バカ)のせいで、ちらちら気にされる程度だったのが一気に注目の的だ。

 黄色い声も聞こえるし

 なに頬染めてんだ、乙女だからだ

 うわあああああああ

 

 ・・・家に、帰りたい。

 

 その後、恥ずかしさと居たたまれなさから、当初の逃げ道であった映画を見ることになったものの、何故か上映中はずっと石蕗に手を握られていた。

 全然、逃げ道じゃない。

 何故だ。ホラー映画でも恋愛映画でもないよ、アクション映画だよこれ。

 離せ。映画に集中できないだろおお・・・

 おかげで、石蕗の犬耳としっぽが常時見えるようになったという事はいうまでもない。

 絶対、これはストレス性だ。

 ほんとに温泉に行きたい。

 私が円形脱毛症になったらどうしてくれんだ。 



 ※ ※ ※ ※ 


 

 夕方だ!

 解放だ!

 ひゃっほい!

 さようなら、私には早すぎた現実リアルデート

 家で二次元に癒されたい。

 恋愛ものはもういい、お腹がいっぱいだ。

 

「雨が降ってるな。

 ごめん、俺、傘持ってない。」


 ・・・。

 ・・・・・!

 あまりの疲労で返答を忘れていた。


「私も。持ってきてない。」

 

 今まで、ずっと敬語だったから今日一日敬語じゃないのが、改めてすごい違和感を感じる。 

 それにしても雨か。コンビニで傘でも買って帰ろうかな。


「ちょっと、待ってて」

「えっ

 傘なら(わたくし)が買ってきますよ。」 

「大丈夫。

 そこで待ってろよ!」


 そう言うと、石蕗は颯爽と走って行ってしまった。

 というか、やっぱりイケメンは後姿までイケメンなのね。

 ・・・尻尾が揺れてるけど。やけにリアルだけど。

 実体、ないよね?私のただの幻覚だよね?

 あ、あははははは・・・はあ。

 

 近くに座れるスペースがある・・・

 座って待ってよ・・・。

 

 ・・・。

 あ。

 そういえば、「傘なら私が」って咄嗟に敬語が出てた・・・?

 ・・・。

 どうしよう。

 私の思い違いとかじゃないよね。

 軽くパニックになる。ペナルティだ。

 いや、決して、石蕗が怖いとかではないんだ、ただ私が恥ず・・・


 ふと目の前に人の気配を感じて、視線を足元からはずして見上げる。

 嗅ぎ慣れない香水のにおいがするから、石蕗でないことは確かだ。

 誰だろう?


「そこのおねえさん。

 暇なら俺とお茶でもしない?」


 いかにも、って感じのチャらい、そこそこのイケメンがいた。

 これは・・・



 定番のナンパイベントじゃないか!


 ナンパイベントとは、攻略対象とのデート中に、主人公が偶然一人でいたところをナンパされ、困っているところを攻略対象ヒーローが現れて、オレの女に手を出すなきゃあ〇〇君すてき的なランダム発生の胸キュンイベントである。

 『石蕗』を攻略したときも、このイベントが見たくて、何度もデートイベントを起こしていたっけ。

 懐かしい。

 結構、しつこいナンパキャラなんだよね、この人。

 攻略対象が助けに入るまでいないといけないから。

 まあ、この場で断りをいれるくらいなら大丈夫なはず。

 暗がりに連れ込まれるんでもないし。

 最悪の場合は石蕗が追い払ってくれるだろう。


「人を待っているので・・・

 すいません。」

「まあ、そんな事言わずにさあ。

 誰を待ってるの?お友達?」

「いえ、か「彼氏だ」」


 私の声に重なる石蕗の声。

 さすが!ナイスタイミング。


 石蕗は、私が背後にいるのを確認するようにちらっと此方を見た後、黒いオーラを出しながら、


「俺の女に手ェ出すなよ?」


 と、ナンパ男をあっさりと追い払った。

 

 ご愁傷様。相手が悪かったのだよ。

 ちょっと可哀想になるくらい震えていたナンパ男の後ろ姿に、こっそりと私は慰めの言葉を送るのであった。

 心の中で。

 


 

 






  



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