第3話 不審な相談者
なんでこんなことになったのかしら…。
私はため息をつくと、名簿をちらりと見ました。
恐ろしいことに、今日はまだあと10人ほど残っています。
まったく、勘弁してちょうだい!
私は暇じゃないのよ。
だって、大切な用事があるの。
私の妄想がクライマックスなのよっ!?
騎士団長が強敵を倒して、ついに私の元にたどり着きそうなの。
――ボロボロになりながらも、必死に足を前に進める騎士様。
「ローザに、早く会いたい……」
私もよ!
もう、ローザは騎士様を待ちきれないわっ!――
だから、あなたたちの相談に乗っている時間はないのよ。
ああ、それなのに…。
「ローザ恋愛マスター、まだですか?」
ほら、次の番の人に呼ばれてしまったわ!
「はい、ただいま!」
♢
元空き部屋は、今や私の相談部屋になっていました。
連日、恋愛に迷える子羊たちが、私に助けを求めてやってきます。
早い、的確、親切!!
三拍子揃った恋愛相談は、またたくまに評判になり、私は『恋愛マスター』と呼ばれています。
あまりの盛況ぶりに、今では予約困難な状態です。
うーん、私のゆとりの時間はどこへ……。
トホホと思いながらも、口だけはペラペラとよく動きます。
目の前のお客様は、満足した表情で、サッと立ち上がりました。
「善は急げです!早速、髪型を変えてきます!」
「ローザ恋愛マスター、ありがとうございました!」
「いえいえ、頑張ってね!」
止めておけばいいのに、また笑顔で後押しをしてしまいました。
あーあ、損な性格よね。
今日、何度目かのため息をつきながら、次のお客様を呼びました。
「次の方、どうぞ!」
扉をそーっと開けると、二人が部屋に入ってきました。
二人とも、頭からすっぽりと頭巾をかぶっています。
あら?人目を気にしているのかしら?
その格好、逆に目立たない?
余計な心配をしながら、席をすすめました。
「どうぞ、かけてくださいね」
とはいえ、椅子は一つしかありません。
譲り合いになるかと思ったら、片方の方が迷うことなく、腰をどっかりと下ろしました。
「君が噂の恋愛マスターなのか?」
私をしげしげと見つめています。
なんだか品定めされているようで、いい気がしません。
すると、立っている方がすかさず続けました。
「あなたの腕を見込んで、内密にお願いがあります。どうか、引き受けてくださいますか?」
「内密に、ですか?」
そんなことを言われたのは初めてです。
『内密に』なんて、やっかいなことを頼まれたら困ります。
ただでさえ、貴重な妄想の時間が削られているのに。
「えーっと、あまり難しいことはできませんよ?」
慎重に言葉を選びながら話します。
すると、
「そんなに大変なことじゃない。」
椅子に座っているお客様は、頭巾に手をかけると、後ろに引っ張りました。
「あ、あなたは!!」
驚きのあまり、目を疑いました。
美しい金髪に、緑の瞳をしたその人は、
まぎれもなく、この国の王子マリウス様だったのです。




