第4話 厄介な依頼
「マリウス様、私が言うまで頭巾を取ってはいけないと言いましたよね?」
隣に立っている方が、ため息をつきながら続けて頭巾を取りました。
頭巾の下からは、黒髪に眼鏡をかけた、真面目そうな青年が現れました。
「申し遅れました。私は、アラン・クロフォード公爵です。どうぞ、アランとお呼びください。こちらの方は……、まあ、ご存じですよね?」
アランさんが、苦笑いをしました。
いったい、何が起きているのでしょう?
この国の王子と、公爵がやってくるなんて想定外です。
あまりに恐れ多くて、私は即座に依頼をお断りすることに決めました。
「はじめまして、ローザ・リードリッヒです。せっかくお越しいただいて、誠に申し訳ないのですが、もしも何かご依頼でしたら、お受けすることはできません」
「なにっ!」
とたんに険しい顔になった王子。
これは、機嫌を損ねてしまったようです。
「まだ、どんな依頼かも言ってないのに、断るのか?」
イライラを隠そうともせず、王子が私に言いました。
「マリウス様、あなたは王子でしょう?イライラしてはいけません」
「なんだよ、アラン。仕方ないだろ」
アランさんが王子を宥めています。
王子と、アランさんはどういったご関係なのかしら?
それにしても、この態度はアランさんが気の毒です。
「ローザ様。とりあえず、話だけでも聞いていただけませんか?」
困ったように眉をよせるアランさんに言われて、断れなくなってきました。
どうも頼られると、応えてあげたくなってしまいます。
話を聞くだけならいいかしら。
厄介だと思ったら、即座に断りましょう
そう心に決めると、アランさんを見ました。
「わかりました。お話だけ聞きましょう。ただし、聞くだけですよ?」
ようやく、ほっとした表情になったアランさん。
「ありがとうございます。ローザ様にお願いしたいのは、王子の恋のことです。」
やっぱり恋愛相談です。
ですが、皆さんが来るのでやっているだけで、私には、この国の王子の相談に乗れる力量はありません。
困ったことになったと思いながらも、
相槌を打ちます。
「恋のことですか?」
「はい。マリウス様は、今メイドに夢中なのです」
「そうだ!彼女ほど素晴らしい女性はいない!」
王子が顔を紅潮させ、体を震わせました。
ずいぶんとご執心のようです。
王子の気持ちに水を差すようですが、王子とメイドの恋愛は色々と厄介です。
もし、両思いになったとしても、身分の違いが障害になるでしょう。
小説なら、ハッピーエンドもありえますが、現実には難しすぎですね。
ここまで考えると、私の心は決まりました。
「やっぱり、この話お断りいたします。」
「なんだって!」
王子は目を見開き、声をあげました。
「まさか、断るなんて、そんなことあっていいのか!?」
ガックリして肩を落とす王子。
あまりの落ち込みように、心が痛んできました。
すると、アランさんがサッと私の横に来て、耳元で話し始めました。
「ローザ様。断るなんて、誠に残念です。では、あなたが『恋愛マスター』として活動していることを、ご両親にお伝えしていいですか?」
両親に伝える!?
ずっと紳士的で、おとなしそうだったアランさんが、豹変しました。
親に知られるのは、とても困ります。
私の両親は、とても厳格なのです。
どうしよう、でも、王子の恋愛指導だなんて……。
それでも、引き受けるか迷っている私に、さらに追い打ちをかけてきました。
「この部屋を使う許可はとってありますか?
管理人は、空き部屋は今も使われていないと思われているようですが、使っていることを知られたら、使用料が発生するかもしれませんね」
うっ、痛いところを突いてきます。
穏やかに話していますが、これは脅しじゃないですか!?
さっきまでと大違いです。
お主、できるな……。
アランさんに感心していると、
「お願いだ、引き受けてくれよ〜!」
王子が、駄々をこねるように言いました。
なんだか理不尽な気もしますが、相手はこの国の王子です。
これは、逃げられそうにありません。
「もう、わかりました。わかりましたよ。お引き受けいたしますっ!!」
私は半分ヤケになり、大声で叫んだのでした。




