10. 末っ子抜きの王族会議
リゼル殿下の急訪の翌日。
暖かな日差しは大きな窓からも差し込み、優しくエレノアたちを包み込んでいた。
げっそりとした心を幾分か揉んでくれるようで、張り詰めた表情はほんの少しだけ弱まった気がする。
場所は王族居住区、通称「円卓の間」と呼ばれる書斎に繋がる大きな部屋。
そこには、第一王女エレノア、第一王子エリアス、第二王子アルドリック、第三王子レオノルドの4人が勢ぞろいしていた。
机の端には、資料の1つにひっそりと『第三回王族会議』の文字。
部屋の外にはたくさんの騎士たちがごった返しているが、中に入るのは最低限の腹心のみ。
とても綺麗で明るく広いこの部屋には、どこまでも重々しい空気が流れていた。
「どうしたもんかな」
エリアスが呟いた。
ほかの2人もげっそりしている。
エレノアは自分だけでこの大問題を解決することは不可能だと判断し、リゼルの話を満足いくまで聞いた後、その足でクラリス以外の兄弟たちの元へと向かった。
そしてさっそく今日、こうして話し合いの場を作ったのだ。
それぞれの公務を無理やりずらし、教育に充てられた時間も削った。しわ寄せは後から来るだろうが、そんなことはどうでもいい。
そう、クラリスを救うために、今やらなければ。
昨日共に話を聞いていた側近文官のラメンスと机に資料やメモを広げ、兄弟たちに改めて懇々と説明していった。
ああ、これもまた腹立たしいことに今だクラリスには側近文官がつけられていない。専属侍女も1人しかいないし、こんな状態であんな危険な地にやろうなど、絶対に回避させたいところなのだが。
万が一にもゼルスの領主となった場合、あの子が動かせる手駒はないに等しい。
……やれることは全てやろう。どんな手を使ってでも。
話をしていくうちにエリアスはどんどん眉間に皺が刻まれていくし、アルドリックは苦しそうな顔をしているし、レオノルドは見事に頭を抱えている。
まあそうなるだろう。エレノアも最初は受け止めきれなかった。でも、もう残された時間は少ない。何か少しでも打てる策を探さなければ、最愛の妹が苦しむことになるかもしれないと思うと、とにかく動くしかない。
「リゼル殿下には少なくともあと3日は、迎賓館に泊まってもらいます。それまでに何か聞き出したいことがある人は、すぐにでも行動に移すこと。きっと彼女は事態の重さを知っているから、先手を打って人質になりに来たのよね……」
思い返せばリゼルの態度は、どこか諦めの漂うものだった。
誰もが納得する解決策はないと知っていて、それでもわずかな希望を見出して必死にこちらにプレゼンしていたのだ。
そんな覚悟など知ったことではないが、結果として多くの情報を得られたので、まあ彼女に悪くするつもりはない。
というより、これだけリゼルが自由に動けるということは、ノースラの中でリゼルの扱いが適当か、この事態をノースラも理解していてリゼル1人に責任を押し付けている状態だという証拠だ。
あんな地に追いやられた呪われた姫、らしいし。ノースラからリゼルの身柄の確認等が一切来ないのは、それはつまりゼルスの地もまたそのような扱いを受けるような土地であったと言っているようなものだろう。
今の状況、まるでクラリス1人を犠牲にすればすべては丸く収まる、みたいな。
……そんなこと、考えるだけでも忌々しい。戦争で民を失うか、王族1人幽閉するか選べということか。
当時は災害復興という名目で領土が増やせるなんて得だとアルディア側から進んで条約を結んだそうだが、まさかここまでいわくつきの土地だとは誰も知らなかったようだ。
そしてこのことが民に知れ渡り国家への疑心感が増えるよりは、王族を領主に迎えて安心安全正しい条約でした! なんて宣伝できる方が安いと、アルディア王国議会の連中は考えているのだろう。
もし選んだ王族に何か起きれば、王族に危害を加えた国としてノースラを槍玉にあげ、戦争を始めるつもりで。
ああ本当に、どいつもこいつも。エレノアの怒りは収まらない。
「ノースラはそんな場所をアルディアに寄越しておいて見返りを要求して、逆に争いの種にならない方がおかしいでしょう……」
「これらはまだ父上や宰相の耳には渡っていないのですよね?」
エリアスとアルドリックが言う。
「ええ、リゼル殿下との約束で私たち兄弟とそれに属する者のみの開示にしてほしい、と。徹底的に押さえ込む必要はなくて時間稼ぎ中になんとかなれ、ってことでしょうね。あちこち動き回っているから遠からず情報は回るだろうし、でも直接聞いたわけじゃないから知らぬ存ぜぬはできる、こちらの手を取りながら逃げ道を残す上手い動きだわ」
リゼルも一国の王女、侮れない人物だということは分かった。
クラリスが苦境においやられるのも、戦争も、どちらも回避したい。
領主となるのがクラリスに決まったわけではないが、最初に領地を選べるのはクラリスだ。
エレノアたちがゼルスに行くと魔力酔いになる、クラリスだけは大丈夫、なんて情報を聞いていたら、あの子は必ず選んでしまう。
考えうる上で最も最悪なのが、クラリスがゼルスの地に幽閉された状態で戦争が起こることだ。
つまり、クラリスをなんとかして安全にかの地に送り、そこで楽しく生活してもらい、王国議会の連中を納得させるだけの材料を集める。これが私たちの目指すべき道、だろうか。
楽しく生活……できるのだろうか。
呪いだの魔力だの、正直想像もつかない。
1つだけ安心材料があるとしたら、少なくともリゼル殿下は健康を害すことなく国に戻っているということくらいだ。
「本当にこれはリゼル王女の独断なのでしょうか。ノースラが国を挙げてこちらを騙しにかかっているという可能性は」
レオノルドが言った。少し間をおいてエリアスとアルドリックが答える。
「もちろん可能性は否定できないけど、今出ている情報で嘘だと否定できる部分はなかったね」
「ええ、ゼルスについてノースラ側からの情報を集めさせたのですが、どれもリゼル王女の情報を裏付けるものばかりでした」
2人が机の上の資料に目をやりながら、首を横に振った。
いよいよ部屋の雰囲気がどん底まで落ち、エレノアの悲痛な呟きが思った以上の音量で響く。
「クラリスはゼルスを選んじゃうかしら」
「……選ぶ、だろうね。『兄さま姉さま方はご安心ください! 私が適任なんて誇らしいことです、それじゃあ行ってきます!』なんて言いそうだ。誰かを犠牲にしてもいいのにな」
本当にそう。クラリスがここで別の領地を選んでくれれば、自分が肩代わりしてやれるのに。
「確認なんですけど、形だけの領主になって、代官を派遣し続けるのはダメなんですよね?」
「ええ。王族誰かが住むことが条件に挙げられていたわ……王国議会にとっては、国民への安全アピールが最優先なのでしょうね。碌に調べもせずにゼルスを受け取る条約にほいほい釣られた自分たちが悪いというのに……」
「父上や母上に事実を知っていただいて、なんとか覆すことはできないのでしょうか」
「それは無理だと思うよ。王族が力を持ちすぎるのを牽制するのが議会の存在意義でしょ? ここで決定事項を父上のひとことで覆すと、議会連中から王族への不信感が高まって、最悪国の内側から分裂戦争でも始まりかねない。民に知られれば王国議会の失態を晒すことになるから、絶対に隠し通すのが決定事項なんだろうね。散々ゼルスを獲得したことを自慢気に宣伝して、物資も兵力も大盤振る舞いしちゃったから、今更引き下がれないんでしょう」
遠い昔に王の独裁で革命が起きかけ、慌てて作られた王国議会。
その議会がまさに自分たち中心の独裁状態を望むなんて、なんという皮肉だろうか。
「そうね……一応、父上たちの耳にだけは入れておきましょう。お力をお借りできることがあるかもしれないし、今後王国議会との関係を考え直すのにこれらの情報がなくてはあちらさまの思う壺ですわ。リゼル殿下との約束を違えるのだから、こっそりね。まさか発狂して戦争でも始めないとは思うから……始めないわよね?」
「……さすがに、ご自分の感情だけで動かれるお方ではないでしょう。父上も母上もアルディアとクラリス両方を愛しておられますからね……今の俺たちと同じ状態になるだけでしょう」
「そうですね、打てる手は打っておきましょう。あとは……俺らの調べてきた情報を照らし合わせて、少しでも活路がないか探るしかない」
「そうだな。じゃあエレノアの話をベースに付け足し、訂正、違う視点からの情報……なんでもいいから全部出していこう。順番もなく、役に立たなくてもいい、わずかでもあるなら全て言ってくれ。書記は僕の文官、頼めるか?」
エリアスが指名したのは、側近の年上の筆頭文官。
すぐに大きな白い紙を用意し、エレノアの話を簡潔にポイントごとにまとめたあと、各々の話を聞きだして追記していった。
「これで全部かしら。もう忘れてることはないわね? えーまず、別々に動かしていた諜報部隊は私がすべて受け持って連携させる。それで私たちの今からすべきことは、まず魔力耐性のある従者を1人でも多く見つけ出すこと。赤い目を持つ人間は王城騎士団にはいないのよね、地方にもそれとなく探りを入れましょう。これはエリアスとレオノルドでお願いしますわ。侍女についても、城での勤務経験のある一般侍女の情報をすべて洗ってきてくれるかしら。アルドリック、侍女長のところへお願い。私はリゼル殿下の元へ行き、追加の情報を得てきます。期限は明日の昼まで。またここに集まり、そして、最後の調整に入りましょう……みんな、頼んだわよ」
「もちろんです姉上、可愛いクラリスのためですから」
「俺も欲深いんでね! アルディアもクラリスも、どっちも守れなきゃ嫌です」
「ああ。ほかにも情報があったら持ってくるように。それじゃ、今日はひとまず解散!」
こっそりと始まった第三回王族会議は、多くの重大事項を抱えてひっそりと終わっていった。
まだデビュタントも終えていない末の妹。
私たちの年齢に合わせ、こんなに早く、無理やり領地行きになることが決まってしまった。
姉として、なんとしてでも絶対に、クラリスには幸せになってもらわないとね。
「エレノア殿下、今お時間よろしいでしょうか」
ノックの音がする。
円卓の間で後片付けをしながら話していたエレノアとエリアスの元に、来客があったようだ。
この場所に来れるなんて、相当の要人しかいない。でもエレノアには誰かをここに呼んだ記憶はない。
また何かいやなことが起きたのか。わずかに緊張の面持ちでドアの方を振り返る。
「……誰かしら」
「失礼いたします――おや、エリアス王子殿下もいらっしゃいましたか。突然のお伺いになり申し訳ございません、クラリス第二王女殿下の家庭教師を務めさせていただいております、アーネスト・フォン・セルヴァンでございます。この度は、ゼルスの地についてお話させていただきたいことが――」
「すぐにおかけになって。私の名を呼んだようだけど、エリアスもいてもいいかしら? 外した方が良ければ構わずおっしゃってください」
そこにいたのは覇気のない顔をした、学者だった。
さすが公爵家の人間だけあって、淀みのないお辞儀。
何度か見かけたことはあるが、王族の中で彼の指導を直接受けたのはクラリスのみ、どのような人物なのかはあまり分かっていない。
クラリスに近しい人間で、ゼルスの名を口にしたということは、ある程度事態を把握していると見て良いだろう。
どのような要件かは知らないが、エレノアは歓迎の意と表面的な儀礼は必要ないから早く要件をという意味を込めて、食い気味に答える。
「エレノア殿下がよろしいのであれば、エリアス殿下にもお話を聞いていただけると幸いです」
「ええ、僕も聞きましょう。セルヴァン卿――いえ、王国議会にもセルヴァン卿はいらっしゃいますから、敬意を込めてアーネスト先生と呼ばせていただきますね。アーネスト先生のお話は、クラリスからよく聞かされております。物凄く博識で聡明なお方だと。いずれ僕もご教授いただきたいと願っておりました」
「そうね。それでアーネスト先生、私にどのようなご用事でしょうか」
果たして敵か味方か。
心の内の緊張を悟られぬよう、にこやかに尋ねる。
アーネストは全く物怖じせず、涼やかに返した。
「はい。単刀直入に申し上げますと、クラリス殿下と共に、ボクもゼルスの地へ帯同したいという……わあ、大丈夫ですよ、ボクは王国議会側の人間ではございませんから。そう、あなた方から見ると味方、かな?」
こちらの表情が変わったのにも動じず茶目っ気たっぷりに笑うアーネストに、底知れぬ恐ろしさのようなものを感じ取った。
どちらに転ぶにせよ、アーネストの言動は重要であることには変わりない。エレノアはすぐに返事をした。
「失礼ですが、アーネスト先生の叔父様にあたるお方が王国議会の長ですよね? アーネスト先生のお言葉を蔑ろにする訳ではありませんが……どういった理由でクラリスとの帯同を望まれるのでしょうか」
アーネストはたしかセルヴァン公爵家当主の三男。
対してセルヴァン公爵家当主の弟が、かの王国議会長、ギルバート・フォン・セルヴァンだ。
もちろん表面上は共に国政に携わる仲間、なのだが、今この状況でゼルスの名を口にした議会に近しい人間に決して好印象は持てない。
「まずは不信感を取り除くことが先ですかね……ええ、たしかに王国議会長は叔父にあたる人物です。しかしボクは生家よりも学問の師匠にお世話になりましたし、彼は学士院の研究予算を削りつづけ内容のあら捜しをしては学者に詰め寄り、たくさんの仲間たちを潰してきた諸悪の根源です。最低限会話はしますが、基本的に彼らには――いえ、すみません。帯同の理由ですよね、それはずばり、ボクが生粋の学者だからです!」
表情も感情もころころ変わる。今はなんというか、希望に満ちた笑顔って感じ。
なんか……見ていると気の抜けるお方だ。純粋な犬を見ているみたい。
その口ぶりからして、王国議会をよく思っていないのは事実なのだろう。
それに身元がしっかりしていて、クラリスとも信頼を築いている。
万が一の時に護衛ができるかは甚だ疑問だが、まあ男性なので最低限戦うことは可能だろう。
あら、案外いいかも。
学者だから知らない土地に行ってみたいだけなのか、ゼルスにある何かを見たいのか知らないが、気持ちだけでは不可能だ。だってあの地には魔力が……アーネストはどこまで知っているのだろうか。
「アーネスト先生の瞳は赤くないようですが、魔力酔いはしないのですか?」
「ああもちろん、しますよ」
飄々とした顔で即答する。
なんとまあ。
少なくとも魔力酔いが何か知っていて自身に耐性がないことも知っていて帯同を申し出るということは。
「つまり、なにか策があるのですか!」
エリアスも横で食いついている。
それを見たアーネストは、少しだけ困った顔で言った。
「ええと、まあ多少は他の人より耐性があるかもしれませんが……そう、慣れです、慣れ。特に打てる手はありません。というより、殿下方がゼルスの情報をそこまで把握しておられるとは思いませんでしたよ」
……やっぱり変な人だ。信用するのは考え直した方がいいかもしれない。
魔力酔いとはその程度のものなのか。というより言い切るということは魔力酔い状態になったことがあるのか。
いやそれ以前に、どこでその情報を得たのか。ゼルスの地に行ったことがあるのか。
もしかしたら新しい情報を手に入れられるかもしれない。
エリアスとそれとなく視線を交わし、エリアスがおそらく同じようなことを思っているだろう笑顔で侍女を呼びつけた。
「アーネスト先生、お時間をください。お話をしましょう、紅茶でよろしいでしょうか?」
たっぷりと話し合い――というよりもはや尋問のような質問攻めをしたが、当のアーネストは終始淡々と、そして途中からは1人で静かに語りだした。
その中身はもう、身の毛もよだつような、恐ろしいものだった。
昨日クラリスにゼルスの話をしたがリゼル王女の急訪で途切れた。
あまりにもクラリスがゼルスについて無知だったため、自分の勘違いかと思い議会に忍び込み決定事項を確認してきた。
やはり王族の誰か1人はゼルスへ移住し領主となる。
魔力や瞳のことも把握しており、ほかの王子王女では途中で王都に逃げられる可能性が高いという理由から、クラリスが選ばれる手筈。
ここまではうっすらとアーネストも把握していたが、ここから先はさすがに見逃せなかったそうだ。
おそらく周りの従者はすべて行動不能に陥るため、暗殺等は造作もない、可哀そうなストーリーを仕立て上げるのが手っ取り早いと書かれていた。
国王陛下や王国議会の大半の人間には詳細は話しておらず、それでも何か感づかれたのかクラリスへ先に情報を渡されてしまった。
王国議会は『王族が犠牲になったことでノースラへ攻め入る口実を作る』のが目的で、王族派にバレないよう徹底的に情報を隠蔽していた。
「いやあすみません、どうやってお伝えしたものか迷ってしまっていて」
アーネストは一見先ほどと変わらないのんびりした雰囲気だが、目の奥は一切笑っていなかった。
「なんですかそれは……王国議会は、王家を、国を……クラリスを、なんだと思っているのか!!」
エリアスが吠えた。
あまりの事実に、エレノアも怒りに震える。
エレノアが考え付いていたどんな悪い想像よりも、現実はもっとひどいものだった。
「ええ。あまりにも絵にかいたような悪の組織で、ボクもどうしたものかと……ああボクが情報を流したと知られれば処分されちゃうでしょうから、そこのところはよろしくお願いいたします」
「ええ、ええ、もちろんです。アーネスト先生の安全は最優先に確保いたします。お伝えいただけて本当に良かった。それで、どうしましょう。その情報を公に出して、関係者を処刑することは可能でしょうか。こんなこと、断じて許されるものではありませんわ」
ああ、王国議会とは、そこまで腐っていたのか。
今まで目を瞑ってきたツケか、これもまた歴史の流れなのか。
明確に、敵だ。絶対に潰さなければならない。
「それなのですが、もちろんどこかで王国議会を摘発・解体はするにしても、今ではないと思います」
「というのは」
その口ぶりからするに、アーネストはもう議会を潰す方法を考えていたのだろう。
エレノアは知らず知らず握っていたこぶしを意識してゆるめる。
ああ、このお方が味方で良かった。何も知らないまま大事なものをたくさん失っていたかもしれない。
とにかく心を落ち着けねば。怒りで動いては、事態を悪化させることになる。
深呼吸をし、隣で同じように震えるエリアスの腕をさすった。
その様子を見て続きを話せると判断したのか、アーネストが質問を投げかけてくる。
「はい。今はノースラが軍備の拡張を行っています。アルディアに攻め込まれることを予見した行動でしょうが、ここでアルディア国内で内戦が起きたらどうなるでしょう」
エリアスが普段より数段低い声で、答える。
「……嬉々として攻め込むでしょうね。そしてこんな時に争っている場合ではないと有耶無耶にされ、ことが終われば王家の誰かのせいでこうなったんだと声高に主張でもすれば、さらに王国議会の権力を増すことができますね」
「では私たちはどうすれば」
こんな、こんな連中がいると国が壊れる。
倒さねば。どうやって。
「今は、耐えるのです。王国議会の悪行をきちんと証拠として残し、確実に倒せる時を待つのです。その罪状についても、ちょうどよいものに心当たりがあります。このゼルスの件では、知らぬ存ぜぬをされれば全く傷を負わせることもできず、議会は王家を危険視してより状況が悪化するだけです」
アーネストは、本当に王国議会を倒そうとしている。
どこまで先を見据えて、どこまで考えているのか。
今はただ、口を開けてアーネストの意見を飲み込むしかない。
「今やるべきはクラリス殿下の身の安全を確保すること、そしてゼルスの地は有用なのだと議会に示し計画を頓挫させること。つまりボクが叔父にゼルスの地の活用法を示すことができれば、この戦いはひとまず勝ちです。ノースラを糾弾する理由がなくなりますからね、当然王族に何かあっても意味がなくなるというわけです」
ゼルスの地に何らかの莫大なメリットがあれば、そもそも王国議会のメンツが保たれて解決ということか。しかし、実際それがあれば苦労していないというか、何かこのお方には勝算があるのだろうか。
まあ言っていることは最もというか、これ以外に道を示せと言われても何も出てこないのは事実。
アーネストは紅茶をぐっと飲み干し、そしてふたたび茶目っ気たっぷりに言った。
「ボクがいるだけで叔父に忖度したい連中は手を出せなくなる。クラリス殿下の身の安全を確保するのにこれほど適した存在はいません。ついでにボクは、あの地を心行くまで研究できる! まさに一石二鳥、いや三鳥、皆ハッピーな選択です」




