これぞ魔物
皆が謎の存在に気づいて一向に隠れるのを止めようとしない、そんな中ユウガだけは全くデバフをかけられていることにすら気づいていなかった。
数十分が経つ頃には寒さでパーティーの体力はほぼなくなっている頃だろう、それじゃあリスクを背負って誰かが前に行く?そんなの転移者にできることではない。
まだこの世界に来て2日程度の連中が真の兵士達が提案した試練に手足が出るわけもない、というよりこの世界の一般人ですら少し他責思考を持ち始めるだろう。
そんな時寒さで限界だったのか、壊れた噴水の影に隠れていた女がこの場から逃げ出そうと飛び出た。
「二人とも!もっとここから離れるよ!」
「まさか、あいつが隠れるのを」
ユウガは転移者の女に物申そうとした時、ツーが魂からすぐに抜け出てユウガを投げ飛ばす能力でかなり遠くへと投げた。
即死を狙ったのかユウガの体は不死の能力で痛みもなく再生していく、だがそんなことにも気づかず怒ろうとした時に分かったことがある。
あの転移者と少年はなんとかデバフを解除してすぐにほとんどの魔力を使いこちらまで辿り着いていたが、隠れるのをやめて逃げ出そうとした女を守るためにリーダーは、空からゆっくりと垂れ落ちる宝石のようで小さな青い炎にとても高額であるはずの魔法解除の矢を放つ。
「あの矢が当たっても火球は消えない、二人とも僕の作る岩に隠れて!」
少年は歳上の二人よりも全然役に立っていた、岩を生成している最中に炎は地面に当たっていた、辺りの建物や既に焦げている木などは吹き飛ぶが、なんとか岩は少年が魔力を出し尽くして守り抜いていた。
(おいおいユウガ、転移者のくせにこんな子供に守られてるのか?)
(そこの女だって同類だろうが、てか今はそんなことよりもすることがあるだろ!)
生き残っているのは合計五人、もちろんすることは逃げることじゃなくあの炎の小粒を放った子竜を殺して、兵士になることだ。
(君のせいで人が死んだね、もしもあれらが親友だったら?あの時自分が言った言葉忘れたとは言わせない)
ツーはあの森の近くでこう言った、死ぬことより恐ろしいことが待っていると、それをこんな時に例えで教えてくるなんて自分の分身体を名乗らないでほしいものだ。
「確かに俺があの火の玉にぶん投げられてる世界線なら話は違かったかもな、でもそれはお前の責任でもある」
(……馬鹿らしい話だったかもな)
既にユウガは神とも契約はしていない、なのに今更ツーが他の転移者を見習えだなんて言っても意味がない、天使にさせることもレベルに溺れさせることも失敗した挙句その本人は不老不死、神の一部だったツーは神の裏切り者に成り下がったのと大差ない。
両者そんな立場なんだから少し前のことも地球のことも、今じゃ全部関係のないことなんだ。
「逃げたらどうなるんだ?」
(どうだろうな、あの炎を放った竜の攻撃をまた喰らって体が動かなくなって、逃げるにも一苦労ってのが1番あり得る)
「それじゃあ戦ったら!」
(理由があればあの空からここまで降りてくるかもだぞ、それに戦わないと今後はない)
卑怯なやつだと思いつつどうしようもないことだとも理解していた、ここから逃げたらまたやられてしまうだろうし。
「同類の人、竜はすぐに降りてくるからその子供を抱えてあの門の先まで走って!」
「わ、わかった!」
なんで未来がわかるんだと思っていたがきっと能力だろう、正直自分の持つ不死より不死らしい。
少年は魂が歪みかけるほど魔力を使ってしまい、誰がどう見ても具合が悪そうだが今この状況でユウガガ王都まで逃げられる門に運べるかどうかは別だ。
魔力のない人間では一般人を運ぶ時間的に必ず炎をもう一撃くらうだろう、本当に一人では何も上手くいかないのがユウガだった。
「その子にシールドは付けた、あとは何も言わずに投げられろ!」
ツーが影から現れるとユウガに強く少年を抱えさせ、能力の仲間を投げ飛ばすというものであり得ない投げ方をした、それはユウガに対しては優しさもなくその分よく飛んだ。
門よりも先に吹き飛ぶとユウガは少年のシールドが付着して無傷だった、ツーはともかくあそこにいる転移者の女は一体どうなるのだろうか。
「よく帰ってきたな同志よ!さぁ、あれから逃げただけでも大賞だ、もう帰ろう」
「おいおい!あの女と他の生き残りはどうするんだ!?」
ここの廃王都と王都の繋ぎ目には審査員がいた、その審査員は確かに強いが竜には勝てないしあそこにいる五人を救うことはしない。
初めに教えられてはいたが世の中は残酷で、使えない兵士はここで削ぎ落とされるのだった、だがあの女を見て気づく、逃げてと言ったのは後から来るわけではなく、今から降臨する竜の怒りを自分に向けるためだったのだ。
この役こそユウガのためにあるものだ、それは自分でもわかっていた。
「どうして黙ったままなんだ!まさか本当に助けないのかよ!」
「君だって兵士なんだろう?なら拾った命をもう一度死地に賭けてみるか?」
少年を地面に起き、せっかく助けられたというのにまた廃王都に向かっている、その門を潜れば兵士達の間では消えぬ噂、誰かを救って帰れば伝説扱い、全員救えばきっと北区の連中が奪いに来るほどだろう。
「やめるんだ!我々ですら十年前はこれより簡単だったというのに、生きて帰るのが精一杯……十分やったはずだろう!」
さっきとは変わり審査員は地味に焦って止めてきた、だって今の兵士達はとにかく戦力が足りなく強い者が一人でも必要なのだから。
だからと言い弱者に渡す餌はない、それが理由でユウガには死んでもらいたくないのだった。
(ユウガ!お前何考えてる、せっかく命懸けであの女に逃してもらったんだろ!?)
「俺は散々見てきたんだ、他人を思える奴が全く知らない奴に壊されていくその瞬間、それを救えるチャンスがマジにあるんだ!」
ユウガは昔から良い奴だと思った人間が、精神的に誰かに壊されていくのを見ていった、せめてあの時もっとと思った時には全てが終わっているものだ。
それよりも、レベルや契約を断り力をつけられたはずなのに、自分の今後のために彼らを殺す結果に至ってしまった、だが今はレベルが関係するかも分からない場面だ。
「……そうやって走ってくれたことに今はただ感謝をするよ」
ツーも魂から抜け出ると自分を前に投げ飛ばし、そこまで魔力を使って走りキャッチしてを繰り返して、通常よりも早く戦地に戻ることができた。
「な、なんで!」
転移者の女や他の瓦礫に下敷きになり助かった、自分達と同じ見習い兵士達はユウガとツーを見て驚いた、それはここに分身体のツーがいることではなく、戻ってきたことにだった。
「竜はまだ陸に着地してない、このまま竜に向けて一直線にお前を投げるから、こいつを頭部に一発決めるだけで良い!あとはお前次第だユウガ!!!」
ツーも初めに出会った時より少し焦りという感情がよく見えるようになった、ユウガにスナイパーを渡して空に向けて全魔力を使い切り投げ飛ばした時は本当に汗が止まらない状況だった。
それもそのはずだ、この一発を外せば王都に入れないとはいえ皆を逃さず食い殺してしまうのだ、もしくは落ちてきた時の衝撃波だけで皆は死ぬかもしれない。
(なぜか握れる驚きだ、とはいえこれを前に向けることすら……いいや!一直線に投げると言ったんだ、ただ俺は前に向けて放つだけで良いんだ!)
竜もこちらに向かって落ちてくるのだからスナイパーは距離さえあと少し近づけば当たる、ただし竜にはただ当たるだけではダメだった。
とても近く、さらに頭の中心にある目玉を狙わねば即死はとても遠い希望だろう、それに運が悪ければ一瞬で傷は癒えてしまう。
「ど、同類君の分身体!私に見える五つの未来のうち成功は一つしかない、今すぐ逃げよう!」
「馬鹿言うな!ユウガは全員救うために来たんだ、自分を救った人間だけ助けるような視野の狭い主人じゃないんだ」
ツーは逃げることを勧められてもユウガの考えていたことは分かるため、絶対に竜を倒すまで離れるわけにはいかない…皆の命がユウガの失敗により終わる未来はあと10秒のうちに訪れる、つまりユウガは残りの5秒のうちに撃っていないと結果は分身体にも分からない。
「伏せろ!」
転移者の女はすぐに壁にくっつき吹き飛ばされないように体を縮こめ、ツーは前を向いたまま立ち尽くしている。
空から竜が落ちてきた衝撃で辺りの雪は魔力により溶けた、ツー自信失敗に終わる理由なんていくらでも思いついたが、まさか竜が一撃で仕留められているとは思っていなかった。
ツーはユウガに出会って数日、だが分身体であるため今までのユウガのことなんてよくわかっていたからこそ、今のこの光景を見て安心よりも感動があった。
例え自分が与えた武器だろうと、人を救ったユウガが主人であることに誇りを持てていた。
「さ、寒い寒い!死ぬ死ぬ!なんか身体中痛いしよ!」
川に落ちたユウガがこちらまで走ってきた、まぁさらに打ち上げられこんな冬の雪国の川から上がればこうなるだろう、転移者の女が魔力で水の成分を吸い取ると寒さは少しおさまる。
「ツー!俺マジで頑張ったんだ、空中で撃った瞬間アレと衝突したんだぞ!」
「ゼロ距離で撃ったか!ハハっ、スコープも覗けないのによく当ててくれたよ」
空中に打ち上げられ両手で竜に照準を合わせただけで人の技ではない、運のようで実力だった。
「ツー……まぁ話したいことはいろいろあるけど、それよりもあそこの人たちをなんとかしよう」
ツーとユウガと転移者の女は、瓦礫に埋まった兵士三人を救出したが全員軽傷のようだ。
「じゃあ、魔力も尽きたし一旦帰るわ」
「戦闘力のない俺に何ができると」
ツーは腹の中に入るように力無く足を持ち上げ魂に帰った。
「おいおい、最初十五人いたはずだよな?」
「……」
生き残ったのは合計五人、初めの竜の落とした小粒の炎でほとんどが死んでしまったのだろう、少しの油断も許してくれないのかこの世界は。




