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兵士として認められるための依頼

窓の外には雪が降っていた、王都は北にあるらしいからだいぶ近づいてきたのだろう、リーダーは王都が元いた街よりも安全だと言っていたが本当にそうなのだろうか。


「それじゃあ、王都の案内役はできるか?」

「もちろんできるけど、今の王都がどうなってるか分からないよ」

「何かあったのか?」

「東区の兵士がほんの少しいろいろあってな、とは言えユウガが気にすることはないさ」


ツーのことはあまり信用していないので、また何か神に関する事で隠し事でもしているのだろうと察した、自分の分身体ならもっと素直になってほしいものだ。


「……俺は兵士になるしかないんだから、細かいとこまで教えてくれよ」

「そのうち必ず分かることだけど、信じないでね」


いきなり不安そうな顔で言われたものだから、自分の思うほど簡単な内容ではあるはずがない、それも神の作り出した分身体がなかなか話そうとしない話題なのだから、きっと真実を知っているのは分身体であるツー達だろう、もしくは誰かに話すなと口止めをされているか。


「なんだよ急に……まぁ危ないことがあったら俺にはない魔力とか能力で助けてくれよ?」

「よく能力が違うことに気づいたね、教えてほしい?」


主人公のユウガよりステータス的に見たら強いツーは一度も能力を見せてくれなかった、戦う場面でも見せなかったということはかなりの大技なのか?


「もちろん、教えてくれ!」

「投げ飛ばす能力だ!」

「それは技術じゃ?」


まさかの地球にもできる人間はいそうな投げ飛ばしという能力、まだ特性については聞いていないが期待外れもいいところだった。


「何言ってるのさ!この能力は主人であるユウガだけを力もいれず簡単に、それも超投げ飛ばせるんだぞ!?」

「俺が不死じゃなかったら主人殺しの能力だったな」

「他の人は魔力で死ぬことはないけど、ユウガに魔力はないから即死もあり得るかもね」


実際不死とはいえ痛みは感じるものだ、即死ならありがたいと言いたいが、即死でない場合地面に叩きつけられた瞬間に皮膚の中に砂などが混じり、徐々に苦しんで死ぬことになるだろう。


「他の転移者も神と契約を破棄すれば魔力は消えるのか?」

「そんなことないよ、ユウガの場合不老の部分に魔力が全部持ってかれちゃってるから実質魔力0なだけ」


随分とハズレの能力を引いたのはお互い様のようだ、こんなんじゃ異世界人のくせにこの世界の人間にやられてしまうのは当然になるかもしれない。


なんだかこの先のことを考えると悲しくなり、眠い事なんて忘れ放心感が凄まじかった。


徐々に朝になっていくと汽車の中は寒さが+3℃はあがり、温度は-2℃になった。


「王都に行ったら初日は野宿か?」

「兵士には寮が与えられるから安心して、1年くらいはタダで使えるから結構安定した生活を送れるよ」


兵士は国が本気を出さないと行けない時にしか活動する意味がない、それに加えてただ兵士でいるだけで月銀貨30枚を貰える。


この世界の金の価値を説明するとこんな感じ。


銅貨一枚で大抵の食料が買える。

銅貨が100枚ほど枚集まると銀貨一枚で、その一枚で銃やナイフが買える。

銀貨が1000枚集まると金貨になり、その一枚で家のローンやプロの冒険者を雇うことができる。

金貨が100枚集まるとユグドラシル硬貨になりその一枚で、国の兵士団を数十日操ることができる。


「本当にこの世界で生きていくためにはお前の力が必要だ、なんでも頼るからな!」

「もともと戦闘要員じゃないんだ、それが自分の役目だよ」


今まで戦ってきたのはツーだった、ユウガは臆病というより自分達と和平的な道を行けるはずの生物を殺すのが嫌だった、人と同じ言葉を喋り、人と同じ知能を持っている魔物を殺せる人間こそが一般的なのだが。


結局の所、日常のように何かを殺して食う人間の一人であるユウガは、自分では感じ取ることもできない小さな偽善で殺すことができないだけだ。


とはいえ、最低な人間や自分に危害がありそうな魔物は躊躇いもなく殺すことはできる、いや、さすがに人間には抵抗が少しあった。


数時間して王都の駅に着いた、汽車から外に出るとそこはかなり寒く、息をすれば肺が痛むほどだった。


今の気温は-6℃


「さ、さっさと兵士になれる場所に行こう!」

(東区の駅から出ると一般の大通りがあるから、そこを通ればすぐに東区兵士団本部があるから、そこにいる門番に話しかければ鉄の腕輪をもらえる、そしたら寮まで案内するよ)


さすがにツーは分身体ということもあり魂の中に帰ったようだ、門番に見られたら不審者として殺される可能性もあるからだろう。


というか兵士になるための審査は確かに数年前と比べて甘くなったというが、そもそも審査なしに一瞬で兵士になれるだなんて馬鹿げた話だ、何か裏があるだなんてすぐに分かる話だ。


(いやいや、そんなんでなれるもんなのか?もっと厳しい試練とかないの?)

(さすがにヒョロガリは相手にされないけど、ユウガなら簡単に……)

(でも俺の素性は何も知らないんだろ?どうしてそうも簡単にリスク背負ってまで兵士にさせられるんだ?)

(ただ単に兵士の数が王都を守るためには少ないんだ)


実際のところはもっと深すぎる理由があるのだが、今は寒さで考える余裕もなくいつの間にか本部に着いていた、仕方なく門番の前で数秒経っていると本当に鉄らしき腕輪をはめられた。


(こんなすんなりなれるもんなのか?結構怖いぞ……)

(うん、弱い人は皆んな一ヶ月もしないうちに死ぬからね、だから本部の人間としては金銭面のリスクは小さいのさ)


そう、廃止になるのは簡単だが、その兵士には入ってから数日の仲間と共に少しキツめな廃王都という、王都の使われなくなったところにいる魔物一匹の討伐をさせられる。


それを生き延びた数人が正式に兵士になったと言える、だが実力がなければ生存者が現れないこともあるのだった。


(寮は本部の隣だよ)


ここに来てから壁に穴の空いた大きめの建物があり、この冬の時期に寒いだろうにと思っていた場所が兵士の寮だったとは、こんなに立派な建物の隣にあると違和感しかない。


中に入ると廊下にいるほとんどの兵士が悲しみに暮れていた、その理由をツーは知っているが、ユウガにとっては仲の良い友達でも死んだのかな程度だった。


「ふ、雰囲気が思ってたより」

(あんまそういうこと言わない方がいいぞ、世間知らずだと思われるからな)

(そういうマナーなのか?とはいえ空気は読まないと刺されそうだし、なるべく関わらないようにするわ)


数人はなんとも思っていないかのような表情で剣を磨いたり、鎧に穴をあけたりしているものがいたがそもそも声をかける勇気があまりなかったが、自分と同じような新参らしき兵士達に声をかけられた。


「君も最近来たばかりか?」

「そうだな」

「やっぱりか!実は本部から僕達みたいな歴の浅い兵士だけに依頼が来てたんだ、初めに言っておくが君も強制参加だからな!」


この場に似合わないほど明るい青年は、他の新参を後ろに引き連れいていてまるでどこかのゲームの勇者のようだった、自分よりも強いはずの兵士が案外優しかったことにホッとしていた。


(神から聞いてはいたけど、まさか本当に廃王都での依頼だなんて、本部は生かして帰す気がないね)

「……も、もちろんだ!」


ツーが不穏なことを言うものだからかなり怖くなってきた、今まで見てきた魔物とは違うものに出会うかもしれないことを覚悟はしたが、実際に見れば誰もが逃げ出したくなるような皆の知っている魔物とは本当に真反対のモノが出てくる。


「メンバーも15人集まったしな、君は準備はできているか?」

「俺は剣を魔力で作るからこの装備で大丈夫だ」

("俺が"作ってやるんだぞ、良かったな!こんな優秀な分身体が仲間で)

(そこは本気で感謝してる)


遠目から装備などを売っている店を見たことがあるのだが、1番弱い剣でも7枚銅貨を持っていかれるのだった。


「よし、それじゃあ転移石を使うから皆んな俺に寄ってくれ!」

(そんなものまであるのか、さすが異世界だなぁ……)


転移石は名の通り、地面に叩きつけると周囲のものを特定の場所に転移させるもので、作職人の技術かゲートを繋げる能力を持っている人間しか作れない。


これから皆は狩る側ではなく狩られる側になることだってあるというのに、緊張感はかなり薄く、かなり自分達の実力に自信があるようだ。


「にしても廃王都の雪は……黒いんだな」

(あぁやって自然に魔力が宿れば魂がいずれ生まれるからね、魔力は常に精霊を作る運動をしているらしい、ただその地域は魔力濃度が異常だから気をつけて)

(その濃度が高いとどうなるんだ?)

(魔物達が魔法に耐性を持ってることが多いんだ、まぁユウガには関係ないよね)


魔力を持たないユウガにとってこの環境は逆に最適だった、精神が乗っ取られることもないし魔力攻撃による未来予知的なこともされない、というのはポジティブな考えかもしれないがほんの少しの事実である。


「ここからは絶対に喋らないでくれ」


あのリーダー感ある男だけはこの破壊された噴水近くに来るととても緊張していた、冷や汗を流しながら一人一人に三人一組になり隠れてくれと命じていた。


(俺こういう時たまにぼっちなんだよな……)


そんなことを思っていると、ぼっちになった男の子とあの時の転移者の女がユウガに近づいてきたので、かなり感動もの並みに嬉しかった。


だがそんなことよりも早く隠れて欲しそうなあの男を見て、すぐに三人は焦げて今にも崩れそうな建物に身を隠して、穴の空いた木の隙間から壊れた噴水を覗いていた。


数分間何者かに監視されているかのような圧が、徐々に皆の呼吸に条件付きのデバフを与えたのか、ほんの少しの息苦しさがあった。


「多分、ここから一人でも隠れるのをやめれば皆んな死んじゃうかもね」


突然転移者の女がそんなことを言うから、少年とユウガは目を見開き冷や汗を流しながら、二人ともシンクロしながら本能的に姿勢を低めた。

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