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少し早い別れ

「誰だあれ」

(噂だとお前に似た境遇の人間らしい、だが人間性は曖昧な人なんだとよ)

(どこでそんな情報を?たびたびあるよなこういうの)

(自分達分身体は魔力で繋がってるから、通じ合うことができるんだよ)


上の階から降りてきた転移者は皆を見るなり見下すような目、ユウガとは比べ物にならないほど恐ろしい能力を持っているのだろう。


「転移者諸君!なぜ君達があの神に召喚されたのか、それを知りたいらしいな?」

(リーダー格がもう出来上がってるのか)

「この世界に存在する召喚戦争、それに勝ち我らの神の玉座を奪い取る事だというじゃないか!」


そう言われると皆が分身体にそれを聞いた、だが魂の中であのリーダーの言葉を肯定されたのか、怒りを持つ者や悲しむ者が現れ始めた。


「だが神は自由に生きろと言ったじゃないか、それはどうなんだ!」

「そんな事をすればこの国は他の国の奴らに玉座を取られ、何をされるか分からないぞ?玉座は真に願いを叶える力を持つからな」

(そうなのか?)

(……)


玉座のことをツーに聞いてみたが黙り込んでしまった、いつもなら何でも答えてくれるのに否定も無しだと少し不安だ。


「つまり奴隷になりたくない者だけが戦い、勇気も未来もない者だけが逃げるがいい!」


子供もいるのにこのリーダーは随分なことを言うものだ、日本人がそう言われて大人しく逃げたら周りからどう思われるかも分からないと言うのに。


集団を動かすのが上手なリーダーだ。


「すまないが俺はこの戦争からは外れる、そもそも神との契約も破棄した」

(おいおいユウガ、こんな大勢いる場で……こいつらはそう言うのに厳しいぞ?)


だがこの言葉を聞くとリーダーはあまり驚きもせず、ただ嘲笑うだけだった。


「君は、あの時卑怯者と言われていたやつじゃないか!だが行先なんてあるのか?」

「こんな殺人鬼集団と一緒にされたくはないからな、何と罵られようが俺は一生お前らとは関わらない」


なぜユウガが地味に怒っているのか、それは馬鹿にされた事ではなかった、あの時誰一人としてこの場から離れようとしなかったからだ。


戦争には大義名分があるがその裏には、戦う人間達の気持ちも考えない最低な神がいる、人生を搾取されていく事にまだ気づけていないからとはいえ、こうも簡単に人を殺せるようにはなりたくない。


「いつかは君も人を殺す、もしかしたらすでに殺しているかもな?今のうちに殺人鬼という言葉は撤回した方がいいぞ」

「俺は殺人鬼と言われたって構わない、だって転移者の一人はもう殺してるからな」


そういうと皆はユウガからどんどん離れていく、だが本当に転移者を殺したのはツーであり、理由もこんな馬鹿げた戦争よりも仕方ない理由だった。


「それが本当なら君は、仲間殺しだ」

「ふん、これから誰でも構わず皆殺し……そうやって生きていく人間よりよほど立派さ、少なくとも俺が殺した奴は俺よりよっぽど最低な奴だった」

(わざわざ何がしたいんだ?お前じゃないだろ)


ツーはこの施設から出ていくユウガに少しだけだが申し訳のなさがあった、分身体とは言えユウガに責任はないはずだった、なのに自分が殺したと言っているのはさすがにみていて心が痛くなったのだろう。


「お前は俺の魂に似てるんだろ?なんせ分身体だからな、もっと俺が優しければ他の道もあったかもな」

(あのな、殺すことが悪じゃないことだけを覚えてくれないか?人は人でないものを殺しても罪悪感がないらしい、お前なら分かるだろ?所詮お前達人間は殺さなきゃ安心ができないんだ)

「そいつはフォローになってないな、でも言ってる事は俺が1番わかってるよ、ツー」


そうだ、そもそも生命体として生まれた時点で何かを犠牲にしないと決して生きていけない、そんな事はないと言ったとしても極端に考えれば綺麗事、いや、綺麗事なんかではなく事実だ。


食らって裁いて結果がそこで待っている。


「……教えてくれないか?俺は不老不死なのか?」

「不死がついてるなら不老も当然のようについてるね」


法や人目を気にせず好き放題できる、だって自分は死なないのだから、そう考えると少し心も軽くなった。


「死なないならもう怖いもの無しだな!痛みがあるのが難点だけど」

(ゲームとは違うことを理解しておけよ、何事も慎重に動かないとこの世界じゃ精神的にキツい事が起きやすいからな)

「はいはい」


実際過去の転移者達は軽い気持ちで隣国に入った、するとその国は転移者を見つけ次第拷問の末見せ物にして殺す、昔の転移者が初めに俺TUEEをしたのだがそのせいで世界の均衡が崩れたのだ、そのせいで未熟な転移者の情報が少しでも流れれば刺客を送るなどが今では主流だ。


さらにはゲーム感覚で魔王や竜に挑み、どれだけ強かった転移者達も覚醒を何度も繰り返した生命体には敵わず、全滅。


ついでに1番惨めな死に方をした転移者は、元からこの世界にいる人間の能力を馬鹿にした結果、その能力に殺されたことも。


(……ツー、俺が今後生きていく先で足りないものはなんだ?)

(魔力、筋力、持久力、努力才能仲間)

(じゃ、じゃあ逆に足りてるものは?)

(諦めの早さと無知だな)


この世界でユウガの能力は使いこなせば強いが、結局のところ神との契約が生命線だったので、それを破棄した瞬間から少し強いだけの地球人だ。


それを聞いてまずは仲間を作ることから始めたい、ところだが安心できる場所が欲しい。


(わかる、わかるぞー)

(思考盗聴なるべくやめてね?てか俺金ないし宿とか入らせてもらえないでしょ)

「その通りだな」


後ろからリーダーの声がした、だがさっきとは全く雰囲気が変わっており、笑顔だった。


「警戒すんじゃねぇっての!分身体だよ」

「主人があれなら分身体も馬鹿だろ」


ツーがユウガに剣を生成して無言で渡した、だが言葉なんてなくとも何をするべきかはよく分かった。


「本気で待ってくれよ!確かに俺の本体はアレだぜ?とはいえ心の中は本当に優しくてよ」

「だからなんだって言うんだ?」

「これを渡しに来たんだよ!勘弁してくれ……」


リーダーの分身体?が渡してくれたのは王都行きの汽車に乗れる年パスだった、なぜあれだけのことを言った後にこんな物を渡して来たのだろうか。


「確かに王都も危険だがここほどじゃない、それとさっきお前に言ったことは全部嘘だ、すまなかった」

「あ、あぁ別にそんな気にしてないからさ」


不気味なほどのこの態度の変わりように不信感が芽生えたが、素直にパスだけもらっておいた。


「それじゃあお互い転移者として頑張っていこうな!」

「なんかすまないな、今度会う時は俺も立派な人間になるよ」


ユウガはこの後分身体と別れ、ツーの言うことに従い駅までやっと着いた。


汽車の入り口にいる駅員がパスを見るとすんなり倒してくれた、中はあまり人がいないのだがそれには理由があり、じつは汽車に乗ること自体かなり高価だった。


たった一人しかいない女の人とはかなり距離を取り椅子に座る、もう真夜中で何も食べていなかったので腹が減ってきたが文句を言ってもどうしようもないので眠ろうとした。


(なぁなぁ、なぁなぁ)

(んだよ?)

(あのリーダー、分身体じゃなかったんだぜ)


雑談にしてはかなり重要なことを教えられた気がする、あんな人間が分身体ではなく素で二人きりの時とはいえ、あそこまで優しくできるものなのだとかなり驚きがあった。


「皆んなの前で言ったあれは、リーダーとしての強さを見せるためか……」


もうそれ以外では説明がつかず、なんだか大勢の前で今後も偽り続ける彼の姿を考えたら悲しくなってきた、それと同時に英雄になる姿も容易に想像できた。


このあとしっかり寝ようと目を閉じた瞬間、ツーが突如魂から抜け出てきた感覚があり目を覚ます、するとさっき遠くにいた女が少しずつこちらに近づいてきていた。


(変質者とかやめてくれよ……)

「気をつけろ、あの女転移者だ」


あれだけ評判の落とされたユウガに好意で近づく人間がいるか?


いいや、まずありえない。


「まず分身体と話し合えないか?」

「今話してみたが、正直敵かも曖昧なラインだ」


魂の中に分身体達の集会所でもあるのか分からないが、こんな便利な能力があるならこれからも利用できるのは確実だろう、ただ皆の前であんなことを言ってしまったのだからツーは省かれるかもしれない。


「やるか……」


ツーがスナイパーを生成して女に近づき小さな声で何かをコソコソと話していた、そして生成した物を消滅させて帰ってきた。


「もちろんのことだがユウガより強い、とはいえ殺し合いはしたくないから王都に逃げるらしい、ほんともったいないやつだ」

「王都に逃げたって仕事があるかも……あれ?俺どう生きればいいんだ?」


あの女は王都に逃げても仕事を手に入れられるかも分からない、と言おうとしたが全然他人事ではないし、なんならユウガに1番刺さる言葉だった。


「そんなの兵士しかないだろ、どれだけ弱くても今は兵士を欲してるのが王都ザムだ」

「試験とかないのか?」

「ほんの少し前はあったんだけどな」


兵士や神のことと言いまだ何かを隠されている気がする、自分に関わらないことだとしても歴史などは知っておきたいのがユウガだ。


「聞き忘れてたんだが、あのリーダーが言った玉座は本当に願いを何でも叶えられるのか?」

「……胸糞悪い話になるけど?」

「構わないぞ!」


話された内容はかなりこの世界のしょうもさながあった。


玉座が存在している間魔剣士、過去の大英雄、異世界人などを神達が扱い争う、勝ったものはその玉座に溜まったエネルギーそのもので精霊の力を通して概念的に願いを叶えていた、だがその願いを叶えるものは一切戦わない神だった。


だがその玉座のエネルギーは強大であったが故に、魔法使いという魔剣士に似た全くの異端が生まれた、それは珍しいことからわざわざ人権を無かったことにし、魔法使い達は大量に捕獲され国の非人道的な実験に付き合わされる。


その後に放棄された魔法使い達はなんとか一命を取り留めたが、世間はそんなものを結局人とは認めず、民間時による魔法使い虐殺が流行りになった。


だがそんな時、魔法使い達はデモ隊を作り非正当なやり方で世間に思いを伝えていく、その怒りは勇者を作り出し、もう敵無しになったころだ。


とうとう魔力を大量に与えられた原因の玉座に目をつけた魔法使い達は、神や全世界の兵士などを敵に回しながらも玉座を破壊した。


それから召喚戦争なんてできるわけがないのに、神達はやめようにもやめられないイベントであるが故に、異世界人達を召喚したのだった、玉座を使えるのかを確認できさえすればいつでも中断できるはずだが戦いに勝ち抜いた者しか扱うことは許されていない。


この戦いは大いなる意志の無き無意味である可能性が高い、世界最大の戦争である。

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