奪われ悲しむだけに憧れた人生
「……あいつどこ行った」
この村についてから数時間したのだが、ツーの姿がいつの間にか消えていたのだ、ずっと自分から離れなかったあいつが消えるなんて考えられない。
「自分が存在できるのは普通魂の中だ、だから今はお前の中に帰ってる状態だ」
「びっくりしたな、どういう原理で喋ってるのやら」
どうやら神に魂の中にツーを練り込まれた時と同じ状態らしい、何だかいてもうるさいが、いなかったら違和感がある。
「というか今回の戦、本当に勝てるのか?お前は例外なだけで経験値を手に入れた転移者どもは本能だとか欲望のままにクール気取って虐殺しにくるだろうよ、なぁユウガ?魔物の仲間になるだなんてやめた方がいい」
「雰囲気的にこのまま帰れるわけないだろ、それに転移した俺の国のやつは話せば分かるやつもいる!」
「お前の国の人間だからこそだ、見たろ?力と理由さえあれば簡単に人を殺せる、主人のユウガに死なれたら困るんだよ!」
ツーは必死に今回の件に関わるのをやめるよう言っていた、さすがに転移者一人では大勢の転移者や上級冒険者に勝てないと思ったのだろう。
もちろん勝ち目がとても低い戦なのは知っている、それでも不死の自分が意地を張ってでも戦わずしていいのだろうか?
「キングハート様!皆は配置に立たせましたよ」
「よくやったな、そのまま待機しててくれ」
こんなタイミングで魔物がユウガに状況を伝えにきた、正直後衛がもう少し強ければ何とか勝てるかもしれない、つまり火力不足だった。
魔物が去るとツーは不安そうに何かを考えている、この時ツーの潜む魂がオーラを感じ取る
その気配は二つに分かれていた、一つは全く魔力を持たないがもう片方は辺り一体の森を包むような魔力量、だが何かがおかしかった。
「敵襲だ!転移者一人がこっちに来たぞ!」
遠くから様子を見守っていると気づいたことが一つ、確かに転移者の使う能力は全てがこちらに劣るものはなかったが、圧倒的戦略の差で転移者は弓で射抜かれ足を負傷し悶絶していた。
それなのに魔物達はまだ武器を構えていた、このまま殺す気なのだということに気づき転移者の方へと全力で駆け寄り弓から守った。
「今回は守ることが目的だ!殺すだなんて伝えてないぞ!」
「そいつを逃せばまた来ますぜ?」
「……逃すとも言ってない、このまま労働力にすればいいだろう」
自分の選択で魔物側の誰かが死ぬ事も嫌だ、ただその逆で人間側が死ぬだなんてのも嫌だった、こんな曖昧な男が上にいる魔物に未来なんてあるのだろうか。
「魔物の奴隷になるだなんてな、お前も人だろう?この気狂い!なんでそっち側についてんだよ」
「人とはあんま仲良くやってける気がしないってのもある、まあお前には関係のない事だ」
魔物の仲間になったことに理由はかなりあった、だが1番の大きな理由としては気を軽くして話せた魔物と一緒にいた方が、生きやすいというだけだ。
転移者は能力も何も使わず大人しく木の牢に入れられた、だがしっかりと言うことを聞いてくれるのかが一番の難点だった。
「偵察兵の一人ですかね、ただ少し違和感があります」
「違和感?転移者ならあれくらいの強さじゃ?」
そんな話をしていた時木の牢が崩れていく、あの転移者の能力は魔力がただ絶大と言うものではなく、もっと他の何かだった。
「何があった!」
「こっちに来ないでくれ!」
転移者は短刀一つを持ったままこちらに近づく、近づけば近づくほど魔物は急所をいつの間にか刺され殺されていく、何が起こっているかが全く理解できなかった。
(逃げろユウガ!お前じゃ相手できるようなやつじゃねえよ!)
「そんなの見て分かる!」
ただここで逃げてしまうと裏切り者判定だろう、せめて能力が分かれば多少抗うことはできるはずだ。
「人が魔物の味方をするのは禁忌らしい、せっかくこの世界に転移者として来れたのにもったいないよな!俺に殺されるなんて」
「俺を殺す?馬鹿言ってんじゃねぇよ!」
一歩後退りした頃にはもう遅かった、目に捉えると言うより感じ取ることすらできなく、腹には短刀が突き刺さりその数を更に抉られた。
苦痛だったがツーが魂の中で痛みを少しでも和らげるように、痛みというものをツーの体で受けていた。
そのまま死ぬはずが短剣を引き抜かれた瞬間には蘇生していた、それを見て転移者は呆然としていた。
だがこんな素早い?相手を攻略するのは無理だ、と思っていたが転移者の後ろにツーが自分から召喚しているのに気づく。
チャンスだと思い転移者の後ろに剣を投げた、だがまた腹を刺されたユウガは地面に転げ回った。
「あれさえ当てていればお前の勝ちだったかもなぁ!」
「安心しろ!俺達の勝ちだからな」
後ろに投げた剣をツーは受けとり、転移者の首に剣を突き刺すとそれは貫通した、即死だ。
「驚いた、こいつ時間停止の能力を持っていたよ」
「さすがはキングハート様だ、ん?二人もいるのか?」
「これは分身体だよ、もう一人の俺だ」
時間停止を戦闘で使えば戦争にも勝てるほど恐ろしい能力だ、この転移者が強くなる前に殺せて良かったものの、殺した時の罪悪感はあまりなかった。
というわけでもなく、やはり死体を見た瞬間に思ったことはあった、もっと良い解決方法があったんじゃないのかと。
「……やっぱり俺には予定があったんだ、すまないがこのまま家に帰ることにするよ」
「予定ですか……ですが今回教えてもらった戦い方さえあれば何とかなるでしょう!本当にありがとう」
帰る家なんてない、ただこうやって自分には関係のない人殺しをしたって、どんどん自分が汚れていくだけだと思いこの場から逃げることにした。
魔族も何となく察したのかかなり簡潔的に返してくれた、生きた時間の差というのだろうか。
「おいおい良かったのか?考えてることくらい全部分かるぞ」
「なら分かってくれよ、殺したくないんだ」
あの街以外のどこかへと歩く最中、ツーはとにかくこの先について心配そうだった。
「甘えはそこまでにしてくれ、経験値を拒んだユウガはもう魔力も扱えないんだぞ?それなのに戦力の魔物も捨てて、この先その性格だったら強くならないと死ぬことより最悪なことが」
「死よりも嫌なことはないね、結局自分が1番なのは俺だってそうなんだよ」
「まったく……死なないお前なのにそう死にこだわるもんなんだな」
そうやってツーに言われはしたが、それよりも誰かを殺すことや自分が死ぬことが嫌いだ、他の転移者と同じで理由さえあれば何だって殺せるくせに。
「そのうち召喚戦争に巻き込まれる、その中でもお前は1番惨めな終わり方をする惨敗兵だ!」
「おい、戦争って何だよ?」
「神から聞いてないのか?お前達は合衆国が召喚した大英雄とか異世界人と戦うための兵士だ」
皆は自由に生きろと神に言われた、だがあの時神は何の目的があって召喚したのかと問われた、そして言わなくても分かるだろとでも言うかのようにその場を去った。
どう分かれば良いってんだ、と思っていたが分身体からそれを聞けるとは思わなかった、だが自分は神と契約を解除されている、その場合自分の立ち位置はどうなるんだ?
「でも俺は神と契約を」
「つまり神が守るべき存在じゃなくなったんだよ!お前は戦争に参加したまま神の兵士に無償でなったんだ」
「まさか、天使になるってのが給料だったわけか?クソかよ、俺戦わないからな!」
「別に戦わなくて良い、でも相手はそんな話聞かずに来るからな」
全貌を簡単に話すと、ユウガ達転移者は神や黄金の家系が望む古竜の残した血を巡って召喚された、強者達の兵士であり、自分たちは戦えば戦うほど強くなる最強の兵士だった、だがユウガは神と契約を解除してレベルの概念が消えた、つまりこっち側の神の兵士の中で1番弱く戦わなくて良いはずだったが戦争地域にいるので兵士判定の可哀想なやつである。
「……俺は何をするしかないんだ」
「どうやら転移した場所に転移者達が集う施設があるらしい、どうする?」
「どうするって、行って状況を見るしかないんだろ?」
道中自分と同じアジア人達がその施設に向かっているのがわかった、だがこの先に不安しか見えていないから向かう感じではなかった。
やっとそこに着くと扉の横にルールが書かれていた、転移装置を使う場合は行き先を誰かに伝えてから使わないとダメ、今はそれだけだった。
中に入るとすでに仲間を作っている人がほとんどで、ユウガは謎の敵意ある目で見られていた。
(さすがは卑怯大国だな、仲間を作れてないやつを見る目がこれか?気持ち悪い集団だな)
(ボロクソに言いすぎだろ)
ツーはこの雰囲気に耐えられなくなり魂の中に帰ってしまっていた、こんなにも仲が良さそうで実はあんまり仲良くないですよという連中ほど気持ち悪いものはない。
(本当に戦争なんて始まってるのか?戦う気なさすぎだろ)
(多分敵国の兵士が襲ってきた時にやる気出すんでしょ)
近くにあった小さな椅子に座って今後どうするかを考えた、別にこのまま逃げるのも悪くない選択肢ではあるが、せっかくの異世界を堪能できないのも嫌であった。
「戦争か、なぜ戦争が始まっていると思った?」
「分身体が大抵のこと教えてくれるんでね、多分あなたの分身体も教えてくれるんじゃないですか?」
(こいつ、心読むタイプの能力か?ずるいな……)
そのおじさんは魂に潜む分身体に戦争のことを聞くと、どうやら今まで隠されていたらしく、それに嫌な予感がしたのか上の階に行ってしまった。
(なぁツー)
(どうした)
(戦争が起きてない国とかないのか?)
(王都ザム、あとはエンゼルトだな)
(末期だな)




