第六話 熱戦!ハートちゃんvsシャドウ!
私は今本気で凹んでいた。
だってあのコテコテなレンくんがカケルくんのライバルにならないわけがない。どう考えても決勝であの二人が戦う方が王道だ。私が漫画の著者、あるいはアニメの脚本家ならそうする。
つまり、そうなると、準決勝でレンくんと当たる私は一体なに? 噛ませ犬、前哨戦、負けフラグ、ヤムチャ。やだー!
いやわかる。先に戦ってレンくんの強さを視聴者やカケルくんにわかりやすく示すための踏み台、いや指標にサヤカというキャラクターは最適なのだ。だって手の内は全部分かっているし。もし勝ち上がっていたのなら、このポジションには私じゃなくて、フトシくんがいたんじゃないかな。
負けるだろうことが分かっていて戦うのはしんどい。しかもあの大舞台の上、スクリーンに映されながらだなんて本当に嫌だ。
うーうーと唸っている私に、ハートちゃんはそっと寄り添ってくれた。
「サヤカちゃん、大丈夫?」
「ハートちゃん……」
「あのレンって子も、シャドウってアイロボも手強そうだったけど、私もサヤカちゃんのために全力で戦うからね!」
ハートちゃん!
そ、そうだね。はじめから弱腰は良くないよね。むしろ勝つつもりでやろう。ここでひっくり返した方が逆に意外性が出て面白いかもしれないし。
そう、カケルくんのライバルは私だと、胸を張っていこう。
名を呼ばれてステージ上に登る。相対するのはもちろんレンくんだ。チラッと私を見てから興味無さそうに目を逸らした。そう言えばさっき絡んできた時も相手にしたのはフトシくんやカケルくんばかりで、私やナオトくんは一切無視されていた。
ふぅん目の前に立ち塞がってもそういう態度取るんだ。ますます負けられなくなった。
場にハートちゃんが登場する。シャドウもだ。
そして開始の合図が鳴った。
「ハートちゃん、右腕スキルチャージ! 相手の動きに注意して!」
「了解!」
ハートちゃんのリチャージを見てシャドウが飛び退くがまだそこは有効射程だ。ハートちゃんのカウンターが炸裂する。しかしまだ浅い。まとまったダメージが返せていないことは自覚していた。
シャドウは手堅い。防御力もそこそこ、攻撃もそこそこ。正直手堅すぎて拍子抜けした。
何故ならアイロボのステータスは尖らせた方が強いからだ。防御にも攻撃にもそこそこ振るくらいならどちらかに偏重させた方が強い。それこそがセオリーだ。タンクのように、ジャスティスのように。
それがない。はっきり言ってハートちゃんのリジェネで攻撃分まるまる回復出来ている。いくらハートちゃんが回復特化とはいえここまで減らないのも珍しい。
なのにほとんどHPマックスに張り付いているハートちゃんの様子に焦る様子もない。
攻撃が中途半端なせいでハートちゃん唯一の攻撃方法であるカウンターが上手く機能しない。堅実に当ててはいるが、向こうにも大したダメージになってはいない。
(タイムアップを狙うつもり……?)
しかしタイムアップで勝敗が決さなければ、残り体力が多い方の勝利となる。つまりハートちゃんが勝つ。
なにか、なにかあるはずだ。でなければここまで勝ち上がれない。考えなくては。
まず気になるのはシャドウの脚の遅さだ。
タンクほどではないけれど、シャドウも機動力が低い。SSRパーツを積んでいるハートちゃんよりも遅い。
レアパーツは積めば積むほど良いというわけではない。レアリティが上がれば上がるほど重量が上がるからだ。当然上がった分機動力は下がる。もちろんタンクのパーツのように低レアパーツにも重量級パーツはあるけど、あれは例外だ。
SSRパーツを積んでいる上に、カウンター戦法のためにわざと機動力を落としているハートちゃんよりも遅いのはなぜか。
シャドウもSSRパーツを装着しているということだ。
それと少なくとも右脚と頭部はSRレアパーツだ。あれはうちの店でも取り扱いがある。他の箇所も高レアで固めていると見ていいだろう。両腕、胴体、左脚のパーツのどれかがSSRパーツだ。
こんな平坦なステータスでここまで勝ち上がれるはずがない。
必殺技こそ、シャドウの華だ。
(なら打たせる前に決着をつけなくちゃ!)
ハートちゃんの胴体が輝く。パワードライブが溜まったのだ。今か? 今までの様子から累積ダメージの反射で削り切れるか自信がない。もう少し引きつけるべきか?
いやシャドウに必殺技を撃たせないことこそ肝要だ。パワードライブを溜めたまま抱え落ちが一番もったいない。ならば。
「パワードライブ解放! やるよハートちゃん!」
「任せて、サヤカちゃん!」
ハートちゃんの必殺技を発動させた時、初めてレンくんの表情が動いた、気がした。
累積ダメージ反射! 今まで受けたダメージをそのまま返す! 元から体力が目一杯だったので回復効果は薄いが、ハートちゃんはこれで体力完全回復だ。
果たして。
シャドウは。
ハートちゃんの必殺技を受けてなお、立っていた。
(足りない……!)
そしてシャドウの左腕パーツが輝く。
「次はこちらの番だ! シャドウ、パワードライブ解放!」
「畏まりました、レン様」
黒くて大きな竜巻が幾重も出現する。多段ヒット系攻撃か! これはまずい。
(一旦下がらなくちゃ!)
いや、違う! 下がったところでどうしようもない。逃げようとすればするほどより当たる。ならば退かない、不退転だ。
「突っ込めハートちゃん!」
ハートちゃんが背を低くして突進した。カウンタースキルをリチャージしている。これほどの攻撃だ。受けた上でカウンターが叩き込めればまだ勝機がある!
問題はハートちゃんの体力がもつか、だけど。
「いっけぇー!!」
竜巻を抜けた先に届きさえすれば!
「……なかなか、やるじゃないか」
あ。
抜けた先には銃口をこちらに向けたシャドウがいた。
撃ち抜かれたハートちゃんはダウンして、そのまま動かなかった。
「うぅうぅ〜〜悔しい〜〜!」
「負けちゃったね、サヤカちゃん……」
あの準決勝のあと、情けなくてすぐにみんなのところに帰れず、私達は人気のないところで反省会をしていた。ちょっと冷静になりたい。
「それでサヤカちゃん、どう思った?」
「……攻防バランス型。器用貧乏って印象だね」
ジャスティスほどの爆発力はないし、多分、ハートちゃんの必殺技を受けた段階であと一歩といったところだった。つまりタンクほどの体力もない。おまけにハートちゃんよりも機動力もない。
「シャドウは必殺技一点突破型だね。それ以外の攻撃はあまり痛くなかった」
逆をいうと体力満タンだったハートちゃんが、シャドウの攻撃で力尽きてしまうほど、あの竜巻は痛かった。ということである。
またこれは尖ったカスタム構築だ。もし必殺技が外れれば負けるし、必殺技を打つ前にシャドウが倒れれば負ける。ちょっと怖い構築だな。私ならもうちょっと安定を取る。
「悪かったな」
「ひゃあ!」
分析していた私に、そんな不機嫌な声が掛かった。慌てて振り返るとセリフ通り仏頂面したレンくんがいた。
ぐ。今一番会いたくない相手だ。
「え、ええとレンくん。どうしてここに?」
「お前が立ってるそこ、自販機の目の前」
言われて急いで立ち退く。あ、ホントだ。ここ自販機の前だ。ぐうの音も出ない。レンくんは宣言通り飲み物を買うためにボタンを押した。
「……ふん。お前の言う通り、シャドウは必殺技以外突出しているパラメーターはない。正しいよお前」
話し出すからびっくりした。レンくんは既に一本ジュースを買ったはずだが、もう一回ボタンを押していた。
「だが必殺技なら誰にも負けない」
やっぱり。彼はシャドウの必殺技に並々ならぬ思い入れがあるようだ。アイロボの性能は尖らせてナンボだ。そして尖らせた分、弱点も明確になる。
決勝が始まる前にカケルくんに助言が出来るかもしれない。
そんなことを考えている私に、レンくんはポイッとジュースを放り投げた。反射的にそれを受け取るが、何が何だかわからない。
目を白黒させている私に、レンくんは背中を向けて歩き出した。
「ま、アンタもナイスファイトだったんじゃないか。じゃあな、サヤカ」
えっ。
背中越しに振られる手に反応すらできなかった。なぜなら言われた瞬間、激しく動揺してしまったからだ。
だってさっきまで視界にすら入ってなかっただろう私にジュースを奢って、名前を覚えるつもりはないと宣言したのを撤回して名前まで呼んだのだ。
えー! そんなコテッコテなことあるー!?
なんだか赤くなりそうな頬を抑える。
今日日珍しいツンデレじゃん。キミ、クール系ライバルキャラじゃなくて、ツンデレライバルキャラだったの!?
本当に女性ファンから人気が上がりそうだな!!
……イヤ、本当にこんなコテッコテなことある!?




