第四話 ヴォイド団の黒い影
あれからカケルくんは上手くアイロボライフを送れているようだ。たまに学校で姿を見かけたり、休日にうちに来て遊んでくれたりしている。フトシくんやナオトくんとの友好関係も続いているようで、設定とか抜きにホッとしていた。
その日、カケルくんは学校の掲示板の前に立っていた。折角だし話し掛けようとそちらに近付くと、何を読んでいたのかハッキリわかった。
「ヴォイド団のことが気になるの?」
「サヤカちゃん」
カケルくんは少し驚いた顔をしたけれど、直ぐに掲示板に目を戻す。掲示板にはデカデカと「ヴォイド団にご注意を!」とチラシが掲示してあった。警察署からの案内チラシだ。
「うん、ヴォイド団って何かなーって」
結構有名な話だが知らないようだ。まあカケルくんはまだアイロボ始めたばかりだから仕方が無い。しばらく電源が入っていなかったジャスティスもカケルくんの傍で「はて」と首を傾げていた。
「ヴォイド団っていうのは、主に窃盗を繰り返す犯罪者集団だよ」
翻って私、というかアイロボ専門店を営んでいる家族であるサヤカは詳しい。何故ならヴォイド団というのはアイロボ専門の窃盗団だからだ。
こいつらがいるせいでうちのセキュリティが上がったと言っても過言ではない。具体的にはプロテクトをかけてある。レジを通さないとアイロボに組み込んでも反応しない。ネットショップで転売してるなら大打撃、のはず。
とまあ当初は「何変な名前つけてるんだよ」と呆れたものだが、今となっては見方が変わってくる。
コレ、カケルくんが戦う敵組織だ。
大変わかりやすい。ホビー販促用アニメで出てくる敵。多分世界征服とかに乗り出すヤツ! まさかそんな怖い組織だとは思わなかった。
今はチンケな盗み中心だけど、内実はどうかわからない。私は気付いてからヴォイド団を舐めるのをやめた。想像よりもしっかり犯罪者集団かもしれない。
とはいえ今はカケルくんとは何の関わりもない話だ。なので私はその注意喚起ポスターの隣を指さした。
「それよりもカケルくん、こっちの方が興味あるんじゃない?」
隣街で行われるアイロボバトル大会の告知チラシである。隣とは言ったが県庁所在地での大会だ。近隣からたくさんのバトラーが来るだろうし、それなりに大きい催し物になる。
参加賞とかもバッチリ出る。なんなら今その袋詰めでてんやわんやしてる。なんでこんなに詳しいのかって? それはうん、もちろん。
「うちが主催側なんだ。是非参加してね」
正しくは主催をやる団体の立ち上げにパパが関わっている。店としては協賛だ。限りなく主催ではあるけど。だから準備手伝わされてるわけだけど。
カケルくんがえぇ、すごいねと驚く。そうだよね、すごいよね。パパのアイロボに掛ける情熱はホントすごい。
「あとはフトシくんとかも誘うつもり。多分いいところまで勝ち上がれると思うし」
「サヤカちゃんは出場しないの?」
「するよー。ハートちゃんの強さを見せびらかしてくる」
ねー、とハートちゃんと頷きあう。ふふん、普段は口喧しいチュートリアルキャラかもしれないけど、やる時はやるんです、わたくし。ハートちゃんだってやる気だ。
「それに入賞商品が結構いいんだよね。自分のお小遣いで買うには高いけど、賞品なら絶対欲しいやつがある」
「へー……オレも出ようかな」
ようやくカケルくんがソワソワとしてくれた。やったぜ。
多分だけど、この大会ってイベントストーリーだと思うんだよね。まだ見ぬカケルくんのライバルとか、越えなくてはいけない壁とか。もしくは別の重要キャラが出てくるかもじゃん。出てきて欲しい。めっちゃ王道だし。あーワクワクしてきた!
それから数週間、私達は大会に向けて研鑽を重ねた。カケルくんもVRコクーンを使ってネット対戦を活発にやっているみたいだし、私の方でもすごい事が起こった。
「サヤカはいつもお手伝いしてくれるからね、パパからこのパーツをあげよう」
「えっありがとパパ……えっ!? パパこれSSRパーツじゃない!」
「ふふふ、奮発しました。ママにはナイショだよ」
なんとSSRレアのカスタムパーツをパパから貰ったのである。胴体パーツだ。これでハートちゃんもパワードライブから必殺技を繰り出すことが出来る。
効果は発動時アイロボの体力を即時回復、状態異常回復、そしてそれまでの累積ダメージの反射カウンターである。まさにハートちゃんのためにあるような効果! 流石パパ。娘以上に娘のアイロボについてわかってる。
とにかくここで超強化を貰っちゃったわけ。これなら上位入賞も夢じゃないかもしれない。
なんならライバル登場するかも〜ってはしゃいじゃったけど、ワンチャン私がライバルとして立ち塞がる可能性もあるんじゃない?
本当に大会が楽しみ!
当日、主催側として早めに家を出たパパと一緒に会場へ入った。想像していた五倍広い会場にバトル用のMRテーブルが敷き詰められている。それらとは別に中央のステージ上には一台のMRテーブルと大きいスクリーンが置いてあった。準決勝と決勝戦はここでやるようだ。すごい本当に本格的なバトル大会じゃないか。抜け目無く物販も行うそうだ。選手控室も用意してあり、そこでカスタムパーツを変えることも可能だ。やるなぁパパ。
バックヤードに一生懸命用意した参加賞やら入賞商品をまとめて置き、もう一度会場を一望する。
「軽い気持ちで来ちゃったけど、結構緊張するかも」
「勝ち上がったら一番目立つところでバトルだよ、サヤカちゃん」
「やだぁ意識させないでよハートちゃん」
私達はわからないが、カケルくんはまず間違いなくあのステージでバトルするだろう。彼が主人公だからというだけではない。客観的に、である。
最近のカケルくんはジャスティスとの息も合ってきた。そうなるとやはりジャスティスは強い。元チャンピオン・ハヤテが本気で考え抜いて組み上げたカスタムなだけはある。ジャスティスは本当に、強い。始まってもいないのに勝ち上がってこれると確信出来るほど。
多分、それこそがカケルくんの次の課題になる。
パパが私を呼んでいる。そろそろ一般参加者達が集まってくる時間だ。はぐれないようにしなくては。私は応じてそちらへと向かった。




