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第十話 静かなる前兆


 ヴォイド団との対決はすぐ来るのかと思ったが、そんなこともなくかなり平和に日常が過ぎていく。冷静に考えればそれはそうだ。ヴォイド団は窃盗を主にする犯罪組織で、普通小学生に盗まれる物なんてない。

 教室にはいないようだが、ナオトくんも少しずつ保健室登校が増えてきたようだし、学校では平和に過ごせそうである。

 とはいえ主人公力が高すぎるカケルくんがいる限り、ぶつかる日はいずれくるんじゃないだろうか。少なくとも楽観視はよくない。


「サヤカちゃん」


 教室の中で声をかけられた。見ればクラスメイトの女の子が、知らない男の子を連れて立っている。クラスメイトはそうでもないが、男の子の方はソワソワとして落ち着かない。他クラスにきているからか、ひょっとしたら学年も違うのかも。

 クラスメイトは一旦自分が前に出た。


「ごめんね、こいつアタシの弟。アイロボの調子が悪くて見てほしいんだって」


 それから振り返って弟くんに「自分で説明しな」と振った。言われてみれば弟くんは両手に大切そうにアイロボを抱えている。自力で動けるアイロボを抱えているのだ。電源が入らないのかと早合点したが、微かに動いていた。電源は入っているらしい。


「あの、ボクのアイロボ、ずっと眠たそうなんだ」


 家がアイロボ専門店だからか、こういう相談は多い。お店に来てくれればしっかり診断出来るのだが、いかんせん有料になってしまう。小学生には高い修理代になりがちなので、店じゃなくて私に直接見てもらいたがる子は多いのだ。

 とはいえこちらも機材がないので詳しく調べられないのも事実。明らかにハード側の問題だと思ったらパパに見てもらった方がいいかもと来店へ誘導するのでどっちもどっちだ。

 

 弟くんからアイロボを受け取って、真っ先に気が付いたのは随分熱いなということだった。


「最近激しめなアイロボバトルした?」

「ううん。ずっと眠そうだからバトルとかはしてなくて。帰って休ませてたよ」


 アイロボが眠たそうな理由はすぐわかった。熱暴走だ。アイロボにはCPUもメモリももちろんあるので、これらを使い過ぎれば当然、熱を持つ。排熱が上手くいっていれば問題がないのだが、こんな風にアイロボに熱が籠もっているということは何かしら原因があって出来ていないのだろう。

 機械なので熱が籠もれば動きも鈍くなる。それが眠そうに見えている。理由はこんなところだ。

 じゃあ原因は? それが結構厄介なのだ。いっぱい考えられるから。


 分解してないからなんともだが、まずは埃の目詰まり。表面はキレイでもアイロボの中に埃が溜まってる可能性がある。排熱の邪魔になるのでもちろん熱暴走の原因だ。もちろん第一位。


 しかし使ってない今も熱が高いとはどういうことだ。


 渡されたアイロボは今も高い熱をキープし続けている。現在進行系でCPUとメモリを使い続けているということだ。日常生活を送る分にはそれほどCPUは使用しない、というか熱暴走しないようにアイロボ側では調節するはずだ。なんなら自分でメンテナンスをするように言う。

 なんだこれ。


「うーん……、最近なんか変わったことあった?」


 問診を続ける。このままじゃアイロボがこんな状態なのに、何かを処理しているからとしかわからない。

 この質問に弟くんは詰まったようにモジモジし始めた。なんだろう、嫌な予感がする。だってこれって心当たりがあるってことだよね。

 その不審をお姉ちゃんも嗅ぎ取ったようだ。強めに白状するように弟くんに促した。


「じ、実は学校でかっこいいカスタムパーツ拾って、それアイロボに着けてて……」


 はーん。落とし物のカスタムパーツを着けていたわけか。案の定お姉ちゃんがアンタ何やってんの! と怒鳴りつけた。だよね。落とし物を届け出ずに自分の物にしちゃったってことだもんね。

 弟くんは「だってボクの靴箱に入ってたんだもん……」と泣きながら弁明した。

 

 なるほど。話が変わってきたな。


 とにかくそのカスタムパーツをアイロボから外すと、徐々にアイロボの熱が治まってきた。うつらうつらとしていたのもその内冴えてきたのか、動けるまでに回復した。

 弟くんは起きたアイロボを抱きしめて大喜びしていたので、代わりにお姉ちゃんの方が私に丁寧にお礼を言ってくれて、二人は帰って行った。


 例のカスタムパーツを置いていったことは最後まで気付かなかったようだ。いや、持って帰られても困るけどさ。


「ハートちゃーん」


 呼ぶともちろん一部始終を見ていたハートちゃんが私のカバンからひょっこり飛び出して来た。


「このパーツどう思う?」

「マルウェアつきカスタムパーツ」

「だよねぇ」


 しかも装着するだけで起動するタイプのマルウェアだ。改造カスタムパーツである。

 先程のアイロボはこのカスタムパーツにCPUとメモリを使われていたんだろう。バックグラウンドで高負荷作業をさせられていたので熱暴走したのだ。

 カスタムパーツを外したが、本体が感染してしまった可能性もある。しかし大丈夫だろう。アイロボは人工知能だ。一瞬でクラッキングされたとかならまだしも、動けた以上、自分の中のマルウェアなら自分でどうにか出来る。そういう自動修復も可能な設計になっているのだ。


「問題はこのカスタムパーツが何をしようとしてたかってことだけど」

「ただの嫌がらせならいいんだけど」

「そうだねぇ……ハートちゃん、つけてみる?」

「やだぁ」


 だよね。

 何をさせるためのカスタムパーツなのかを知るには着けてみるのが一番手っ取り早い。けどマルウェアとわかっていて着けるのは嫌だ。自動修復するとはいえ万が一感染したらことだし、なにより一回ハートちゃんを損傷させている。

 

「でも明らかに悪意がある」


 落ちていたのと、靴箱に入っていたのでは話が違う。個人の靴箱に放り込まれていたというカスタムパーツ。小学生なら喜んで使ってしまうだろう。誰かが悪意を持って小学生を利用したと考えるのが筋だ。

 

「放っておくのはマズイよね」


 ハートちゃんも私の意見に同意のようだ。あの弟くんピンポイント狙いならまだ最悪じゃない。けれど無差別ならかなりマズい。他の生徒にも同様のカスタムパーツが配られている可能性がある。

 いくらアイロボとはいえ通信が出来る機器である。その演算機能を集めて誰が何をしたかったのか。


 なんとなく、誰の仕業なのか予測出来てしまった気もするが、こればかりは私の発想の飛躍過ぎることを願おう。



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