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閑話 萌芽


 カケルは大会での事件からこっち、インターネットでヴォイド団について調べ回っていた。意識して探してみればヴォイド団はやはりあちこちで問題を起こしていた。最近のホットニュースはやはりカケル達も参加した大会での、あの大規模窃盗のことだ。

 もとから犯罪者集団ではあったが過去にないほどの量だったのは間違いない。そりゃ賞品だけでなく参加者全員になにかしら用意していたらしいのだからそうなるだろう。


 盗むだけならいざ知らず、ヴォイド団はナオトに危害を加え、サヤカのハートちゃんを破壊していった。


 カケルは後悔していた。あの場にサヤカを置いて行ったことを。あの時せめてナオトがいなくなっていると知ってから飛び出していれば、少なくともハートちゃんは無事だった。

 カケルは今でも思い出せる。

 動かなくなったハートちゃんを抱え、カケル達が戻ってくるのを待っていたサヤカのことを。サヤカは決してカケル達のことを責めなかった。ピクリとも動かないハートちゃんのことも「大丈夫、ちゃんと直せるから」と冷静に見ていた。だけどカケルにもわかった。サヤカがハートちゃんを大事に抱え込んでいたことも、目が揺れていたことも。


「おい、何かわかったか?」


 カケルはふと現実に引き戻された。声は音声チャットアプリから流れている。レンだった。

 あの大会以降、カケルとレンは連絡を取り合っていた。議題は専らヴォイド団についてだ。

 レンもカケルと似たような責任を感じていた。あの初対面の印象からは信じられないが、レンはかなり気にしいらしい。

 多分あの時ヴォイド団を捕まえたり、せめて盗まれた景品を少しでも取り戻せていたら、また違ったろう。しかしカケルとレンが持ち帰れた物は相手が足止めに使った2体のアイロボだけで、それも自分達ではどうしようもなく、サヤカに分析を任せる他なかったのである。レンがヴォイド団確保に躍起になるのも無理からぬことだ。


「ううん、特に何も」

「はぁ……こちらもだ。やはりインターネットじゃあ噂の域を出ないな」


 彼らの情報収集能力は普通の小学生並だ。ダークウェブなんか知らないし、情報提供を呼びかけられるSNSも持っていない。誰かに聞くのが手っ取り早いのだが、彼らの中で一番機械に強いのも、ヴォイド団について詳しいのもサヤカである。しかし今回の事件の経緯からサヤカに頼ることが憚られた二人は、調査の段階で行き詰まっていた。

 

「他にヴォイド団に詳しいやつに宛てはないのか?」

「サヤカちゃん以上に? サヤカちゃんのパパさんとか……」


 それはそうだろうが。当然同じ理由で却下だ。

 悩むカケルの脳裏にふとその人のことが思い浮かんだ。忘れていたわけではない。ただ日々の忙しさでいつもより思い浮かべる回数は減っていた。


「……とーさんに聞いてみる、とか?」


 チャットアプリ越しでは伝わらないが、この時レンは小首を傾げていた。


「お前の父親、というとチャンピオン・ハヤテか? 行方知れずなんじゃ?」

「いや行方は知ってると思うよ。オレは知らないけど」


 カケルにとってハヤテは、常に家にいない人だった。ジャスティスをカケルに預けた時も、ふらりと帰ってきたと思ったらその日の内にまた修行の旅へと出かけていった。そういう人なのだと思った。

 ただアイロボの関してはまず間違いなく詳しいだろう。であれば最近アイロボ界隈を騒がせているヴォイド団についても、知っていておかしくはない。

 ハヤテへの連絡手段なら恐らくカケルの母が知っている。帰らないハヤテに怒る姿は見ても、悲嘆する姿は見たことがない。つまりはそういうことなのだろう。


 カケルはデスクの上で待機しているジャスティスの視線を感じていた。



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