第九話 一旦の決着
大会が終了してから最初の土曜日に、レンくんがカケルくんに連れられてうちの店に遊びにきてくれた。隣街からわざわざと思うが、心配して確認しにきてくれたのだから律儀というか、ツンデレというか。
レンくんの傍らにいたシャドウが、こちらのハートちゃんを見つけて朗らかに微笑んだ。
「ハートちゃん様、良かった。元気になられたのですね」
しかしハートちゃんは困ったように首を傾げるだけだ。
「えーと、ゴメンなさい。どちら様ですか?」
大会途中で動作を停止してしまったハートちゃんは、中身がズタズタになっていた。まずOS破損にデータも破損。ハードだけは無事だった。だからフォーマット処理をしたのだ。
幸いにも一週間前にバックアップを取っておいたので、一週間前の状態に戻すことが出来た。だからもちろん大会の記憶はなくて、そこで出会ったレンくんやシャドウはさっぱり覚えていない。
「あ、サヤカちゃんから聞いてます。私、大会でウイルス感染しちゃったって」
「はい、私はシャドウと申します。ハートちゃん様とは準決勝で対戦致しました。こちらは私のバトラーであらせられるレン様です」
「わあご丁寧にありがとうございます!」
朗らかに会話をする二人を尻目に、レンくんは私を見つめていた。
「お前は大丈夫なのか?」
「うん、私は何ともないから……」
「そうじゃなくて」
レンくんはもどかしそうに身動ぎをする。案外気にしいというか、思いやりがある。私はもう一度頷いた。
「大丈夫だよ」
答えたが、レンくんはあまり納得がいってないようだった。
実際、ハートちゃんが初期化したままだったら落ち込んでいたと思う。なんだかんだもっと小さい頃からの相棒だ。今までの積み重ね全部が消えてしまい、ハートちゃんから「はじめまして」なんて言われたらショックどころじゃない。
ただまあ、一週間分だけで済んだといえば済んだのだ。バックアップをインストールしたハートちゃんは私のことはもちろん、カケルくんのこともジャスティスのことも覚えていた。だから最悪じゃなかった。
寧ろ大丈夫ではないのはナオトくんだろう。あの大会での出来事が大分ショックだったようで、今現在学校に出てこれていない。フトシくんが訪ねに行っても出てこないというのだから相当だ。警察には証言してくれたようだけど、それきり口を噤んでいるそうだし、心配である。一度カケルくんと二人でお見舞いに行ったが、当然会ってもらえなかった。
ヴォイド団の情報はない。カケルくん達が音響室に飛び込んだ時にはもぬけの殻だったそうだ。いや正しくは何故かバトルフィールドが展開しており、そこでアイロボバトルをしたそうなのだが。多分アニメのお約束じゃないかな。使い手のいないアイロボが襲ってくるっていう。
ただアニメ的な演出を一切抜きにして、バトラーなしでアイロボがバトル出来るのかどうかに関してはかなり疑問が残る。
アイロボバトルでカケルくん達に負けたあとは沈黙したまま。放っておくことも出来ず、動かなくなったアイロボを持ってきてくれたので解析をしたのだが、中身のOSがそもそも正規品じゃなかった。
かといって海賊版OSというわけでもない。そもそもアイロボのOSでもない。例えるならLinuxを操作しているような感じがする。それくらい別物ってこと。
それから完成度が低い。一当てしたら動かなくなってもいいような作りで、それで実際動かなくなったようだ。
そして筺体の方も若干古い。ジャスティスほどではないけれど、いくらか型落ちしてるシリーズだ。
……探しているアイロボのシリーズでもあるけど、これらは探し物とは違うようだ、残念。
持ってきて貰ったけどこれは廃棄だろう。OSから動かないということはデータも取り出せない。再び動くならフォーマット処理後だ。ヴォイド団の情報を得たいのならそれでは意味が無い。
何物にも言えるけどOSも高い。ジャスティスのようにそれそのものに強い思い入れがあるとかではない限り、整備するメリットもない。
……なんか私も段々チュートリアルキャラから便利なお助け博士みたいな立場になってきたな。阿笠博士とか、オーキド博士みたいな。
一通り話せば男の子達は安心して遊び始めた。特にレンくんはこういった専門店に来たことが初めてとのことで物珍しそうにしていた。
逆に最初からうちでお世話になりっぱなしなカケルくんは「お店に行かないでどうやってパーツ買うの」と不思議顔だったが。当然だけど世の中にはネット販売というものがある。多分レンくんもそっちの口だろう。
楽しそうな彼らを見ながら、私は考えた。最近ずっと考えていたことだ。
ヴォイド団。想像よりもヤバい連中かもしれない。ナオトくんの件もそうだけど、子供向けアニメの悪役にしては、ガチ過ぎる気がする。
カケルくんと接点が出来た以上、これからも立ち塞がってくるのだろうが、それを見過ごしていいものか。
そりゃあ私もカケルくんの主人公っぷりにはしゃいだ側ではあるけれど。アニメのようにカッコよく活躍する彼らが見たいだけで、危ない目に遭ってほしいわけじゃない。
先回りしてヴォイド団の情報を集めようにも取っ掛かりがない。警察とのやり取りは当然パパが相手だし、ヴォイド団の噂は玉石混淆だ。大会で盗まれた大量のカスタムパーツも転売されているかと思いきや、今も見つけられていない。
やっぱアニメのお助け役ほど上手くやれないのがサヤカという小学生の限界なのだなあ。
私に出来ることといえば、それぞれのアイロボのバックアップを取るように促すことくらいかな。と考えたところでふと思い出す。ジャスティスのOSが古かったことを。
あの後調べたのだが、ジャスティスに載せるOSだとしても古いOSだった。まるでわざとダウングレードしたものをジャスティスに載せたかのような。
……そんなことをする人がいるのなら、それはカケルくんではなく、ハヤテさんだろう。何かしらの意図があってダウングレードさせたのだとしたら、弄るべきではないのかもしれない。
様子を見つつ適宜対応していこう。ジャスティスの活動に問題がないのなら、今すぐ必要なことじゃない。私も来週には用事がある。
もうすぐママの四周忌だ。




