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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
242/243

担当職員

「「「「墜落?!」」」」

キクチの言葉を聞いた4人が同時に驚きの声を上げる。

喜多野マテリアル所有の高速艇。それは確かな性能と高い安全性が担保された乗り物である。

それが落ちるという事が信じられなかった。


「エリア境界線の近くを飛んでいたときにトラブルに見舞われたらしい。幸い乗組員は全員無事だったそうだが、到着が2日程遅れる事になるそうだ」

この情報はキクチに大きな安堵を齎せた。

今回派遣される事になった人物の事はまだ詳しく知らされていないが、今回の様な案件に駆り出されるとなればそれなりの地位にいる人物という事になる。

もしその様な人物に万が一の事があれば大きな騒ぎになることは間違いない。


そして、自分がシド達と一緒に遺跡へと潜ることが確定してしまう。


キクチは、まだ見ぬ職員が生還し、無事にこちらに向かって来ている事に大きく胸を撫で下ろした。



「死人は出てないみたいで良かったけど。2日か~…待ってないとまずいよな?」

「合流するまで待機だって何遍言わせる気だ?シド」

キクチに睨まれたシドは肩を軽く竦める。新装備も手に入れ、早く遺跡探索に戻りたいのだろう。

「事故ですか?高速艇が落ちるって…そんなに頻繁には起きませんよね?」

ライトもキクチの方に顔を向けながらそういう。

「ああ、人類生存圏の外周部であれば飛行系モンスターの襲撃を受けて落とされる事は稀にあるが、今回は内側から向かって来ていた。ただ、エリア境界線付近で…というのが引っ掛かる…」


エリア境界線とは、6大企業が管理しているエリアの境界線のことである。

北方地域では隣接している6大企業同士の関係があまり良くなく、境界線付近での小競り合いが行われる事は稀にある。

しかし、現在喜多野マテリアルは隣接している6大企業とは問題は抱えていない。


今回の経路は東側に隣接する場所を掠めるように飛行しており、モンスターの攻撃による撃墜とは考えにくい。

単なる機体トラブルなのか…。

「ここで考えても仕方ありませんよ。その担当職員が到着すればハッキリします。我々は我々の仕事をすれば良いんです」

キクチが考え込んでいるとラルフがそう言ってくる。

確かにここで考えていても何かが分かるわけでは無い。キクチもそう納得し顔を上げた。


「それもそうだ。お前たちのホームでユックリさせてもらうよ」

「あ、俺達のホーム。もう部屋空いてないぞ。キクチはどこで寝るんだ?」

「ん?そうなのか?なら、リビングのソファーでも普通の椅子でも大丈夫だぞ。座ったままでも熟睡できるスキルを身に着けたからな」

そう言ってハッハッハ!と笑うキクチ。


この1年の激務により、社畜スキルをゲットしたらしい。

「そ、そうか…」

「ソファーがありますんでちゃんと寝てくださいよ?」

「おう、助かる」







新装備を購入してから2日後。

キクチの元に喜多野マテリアル職員がバハラタ都市に到着したと連絡が入った。

連絡を受けた一行は、向こうが指定してきた施設へと向かう。


「ワーカーオフィスじゃないんだな」

「今の段階でワーカーオフィスに流していい情報じゃないからな。都市のセキュリティルームを使用する事にした様だ」


ワーカーオフィスにも機密保持を保証された会議室は存在する。

しかし、今回のミリタリービル 管理AIとの接触という高機密情報を扱うには心許無い。万が一を考え、都市幹部や企業の重役同士が使用するセキュリティルームを指定されたのだった。


到着したその施設は、円柱形のビルで入り口には武装したガードマンの姿もある。

車から降りた一行は、キクチを先頭に入口へ近づいていく。


「本日9時より、喜多野マテリアルからの招集を受けてきました。これがIDです」

キクチがガードマンに端末を見せると、ガードマンは別の端末でそれを読み込み確認を行う。

「…確認が取れました。先方は既に到着しています。どうぞ」


ガードマンが入り口を譲り、扉が開く。

そのままキクチが先導し、会議室の1つに到着した。

キクチは入り口にある端末に先ほどのIDを翳し、扉が開くのを待つ。


すると、中から薄手のパワードスーツを着用した女性が出てくる。


「ダゴラ都市所属のワーカーオフィス職員 キクチで間違いないな」

「はい、間違いありません」

「他はスラムバレット シド、ライトの2名。随行員のラルフ・ローレンス。同行者のフィア・ハーバーで間違いないか?」

「はい」

「では、中に」


入室するメンバーの確認を行うと、女性は会議室の中へと入っていき、キクチたちも彼女に続き会議室の中へと足を踏み入れる。


その部屋は窓もなく、真っ白の空間に黒いテーブルと椅子が置かれた部屋だった。

換気口などもなく、部屋の片隅に空気を浄化する機械が置かれている。

4隅に警護の者達が立っており、先ほど応対した女性もその中に含まれていた。


そして、椅子に座っている男が1人。

ダークブルーのスーツを着込んだ長身の男。彼が今回派遣された職員なのだと思われる。


男はこちらを認めると立ち上がり、自己紹介を始める。

「私は喜多野マテリアル 危機管理部 執行部隊 第2隊長のディスパー・ダラマスです。ミリタリービル 管理AIとの対応を命じられました」

男の眼光は鋭く、切れ味を帯びているかの様な冷徹さを含んでおり、丁寧な言葉遣いも相まって部屋の温度が下がっていくような錯覚を覚える。


「今回の作戦に当たって、プラン説明の前にこちらの認識と現場の認識のすり合わせを行います。まずはメンバーの確認を行いたい」

底冷えする視線は変えぬまま、ディスパーと名乗った男はこちら全員を見渡した。


「ダゴラ都市 ワーカーオフィス 喜多野マテリアル担当官のキクチです」

「スラムバレット リーダーのシドです」

「同じくスラムバレットのライトです」

「スラムバレット 随行員であるラルフ・ローレンスと申します」

「シーカーのフィア・ハーバーです。ランク調整依頼でスラムバレットに同行しています」


全員の紹介が終わり、ディスパーで個人情報の統合が取れたのだろう。全員を椅子に座らせ今作戦の概要を話始める。


「初めに行っておきますが、この室内で見聞きしたことには守秘義務が課せられます。情報を漏らした場合、喜多野マテリアルから強い制裁があることを覚悟してください」

そういって、チラっとフィアの方に視線を向けるディスパー。

その動きを見たシドとライトは、同行者と言う立場のフィアに釘を刺したのだろうと予想する。


「まずは現場認識との擦り合わせです。ミリタリービル遺跡内では、不法行為を行わなければモンスターに襲われることは無い。これは正しい情報と判断していますが、実際に潜った感想は?」

ディスパーはシドの視線を向け意見を求める。

「正しいと思います。ただ、アラームを鳴らした他のハンターの近くに居た場合、仮登録か正規登録されたライフカードを持っていないと巻き込まれるんじゃないかと思う…ます」

「なるほど。ライフカードの仮登録さえ出来れば自由に行動できる…と判断しても問題ないと?」

「そうですね。実際俺たちは攻撃されませんでしたから」

「分かりました」

ディスパーはそこで一泊置き、頭の中で情報の精査を行う。



「今回の作戦ですが、スラムバレットの2人と随行員ラルフ。そして私とキクチの5人でアタックを掛けます」

「「ん?」」

「…え?」

シドとライト、そしてキクチが疑問の声を上げた。

「質問は後で受け付けます。まずはもう一枚ライフカードを入手し、私とキクチの市民権を正式取得。その後、シドが食したという合成食糧のサンプル採取。ミリタリービル中央施設へと向かいます」

3人の疑問の声を軽く流し、作戦の説明を続けるディスパー。


「中央施設内に入れた場合、権限ランクが最も高いシドのライフカードを使用し管理AIに接触、交渉に入ります。交渉は私が受け持ちますので、シドには接触までの道筋を任せる事になります。

また、中央ビル内へ入れなかった場合、周辺を調査し出直す事を考慮し、都市運営の駐車場にて作戦拠点を作成、私の護衛はそこで拠点確保に務める事とします…大まかな流れとしてはこの様な感じです。質問を」


ディスパーの説明が終わり、最初に質問をしたのはシドであった。

「ええっと…フィアがメンバーに入ってないのは?ライフカードが入ってるショーケースを開けるにはライトとフィアの力が必要なんですけど」

「フィア・ハーバーにはスラムバレット同行者から外れて頂き、別の依頼へと切り替えさせて頂きます。ライフカードの取得ですが、無断でショーケースを開けるという遺跡側からすると違法行為のリスクを避ける為、行いません」

ディスパーはそう言うと、懐からカードケースを取り出す。

「私の分は弊社が保有していた保存状態が最も良いと判断されたライフカードを使用します。ですが、貴方たちが手に入れた方法とは異なっている為、本当に正常に作動するか判断が難しい所が本音です。ですので、これは正規の手段でライフカードの入手に失敗した場合の保険とします。本命はシド、貴方が保有するクレジットを使わせていただきたい」

「俺の?」

「そうです。ライフカードの購入価格は不明ですが、あなたのクレジット残高、そしてライトとラルフの残高を合わせれば、あと1枚は正規に購入する事も可能と考えられます。もちろん代金は支払います。ライフカード1枚分の価格、20億コール」


シド達が持つクレジットが、ミリタリービル遺跡内で正規に使用出来る事は確認済みである。

であるならば、無理やりショーケースを開けて盗むというリスクを避け、正規に購入する事も可能という事だ。

「わかりました。キクチの分は前回のあまりを使う感じですか?」

「はい、その分も支払います」

流石統治企業と言ったところだろうか、40億の資金をポンと提示してきた。

それを受け取るシドは、金額が大きすぎて実感が湧いていない。とにかく遺跡へ潜りたい気持ちが先行していた。

ライトとラルフは表情を引きつらせている。

「で…いつ出発します?」

「私はまだ雑務が残っていますので、明日の6:00に都市外へ出る門へ集合、出発を」

「わかりました。そのつもりで俺達も準備します」

「…あの、フィアさんが外れて別の依頼っていうと…」

ライトはたった一回の共同探索で同行者から外れる事になったフィアの事が気になったようだ。

「それは我が社とフィア個人の契約になりますので口外できません」

「そうですか…」

当然と言えば当然の事を言われライトは口を噤む。そして最後に声を上げたのが…

「あの、私も同行するという話になっていますが…一体どのような…」


そう、担当職員が到着した時点で遺跡探索同行を免れたと安心していたキクチだ。

キクチからすると、自分は万が一要因としてゴンダバヤシが手配した人員と認識していた。高速飛行艇が墜落したと聞いたときは覚悟を決めかけたが、担当職員が無事でありバハラタ都市に到着したと確定した時、キクチは心の中でガッツポーズを取ったのである。


しかし、しれっと自分まで遺跡に潜るメンバーに入れられている事に納得がいかないキクチ。


「貴方には私の補佐を任せます」

「…補佐…ですか」

「あの遺跡でもゴンダバヤシ取締役をフォローしたと聞いています。そして、現在の能力を評価され今の立場に立っているという事も」


ディスパーのこの言葉は、かなりの部分で情報共有が行われている事をキクチに理解させた。

セントラル地下シェルターでキクチが改造されている事を含めて…

その事に気づいてしまったキクチは、都市に残ることを諦める。


「承知しました」

そう言いながら頭を下げるキクチ。

この時、頭を下げたのかガックリと項垂れたのか…キクチ自身もわからない。


(落として上げてまた落とす…ひでーよこんなの…)


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― 新着の感想 ―
おっちゃんの部下じゃなさそうだなー 取締役の方針を無視する程の馬鹿でもなさそうだが、どういう展開になるのか楽しみやー
企業内の派閥抗争かな
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