トラブル発生?
「「「「……」」」」
無言で短時間の模擬戦を観ていたギャラリー達。
シドの身体能力も圧巻であるが、それを短時間とは言え対応したライトの判断速度にも驚愕を隠せていなかった。
「あの速度での戦闘…!観測班!データの収集は?!」
「う~ん…地下シェルターでの訓練でレベルがあがったのか?…良くわからなかったが…」
「私はあの2人に戦闘訓練と言う名のリンチを受けたんですよ…キクチ、聞いてますか?」
三者三様のセリフを好き勝手に吐く者たち。
その中で、スラムバレットの戦闘能力を初めて目の辺りにしたフィアは動揺を押し殺そうとしていた。
(なんなのあの2人……!弊社の上級兵…いや、イレギュラーと遜色がない…)
実際にはイレギュラーと呼ばれる者たちには及ばない。
だが、フィア達の様な上澄みレベルの者達から見れば、2人はイレギュラーと評価しても可笑しくないレベルに達していた。
(‥‥この任務は続行不可能ね)
フィアはスラムバレットに『同ランク』のワーカーとして潜入している。
だが、彼等と同格としては、実力の面で付いていく事が不可能なレベルの差がありありと示されたのであった。
これが明らかな格下であればまだ勉強と言う意味で潜入は可能であっただろう。
だが、フィアは彼らと同格の実力があるワーカーとしてスラムバレットに同行している。
同ランクと言う事は、同格と言う意味と彼らは捉えている。
シーカーがハンターに対して戦闘能力に劣るという一般的な常識は彼らには通用しない。
確かにライトはシドに対して近接戦闘能力は劣るだろう。
だが、今の模擬戦を観てハッキリ解った。
スラムバレットにおいてライト(シーカー)はシド(ハンター)が守る存在では無い。
お互いが得意な分野で役割分担を行っている。
通常のワーカーチームは、ハンターが戦闘を担い、シーカーが遺跡のシステムを暴くものだ。
その為、システム回収を重点的に行うワーカーチームはシーカーが多く、その護衛としてハンターが存在し、遺物回収に重点を置くチームはハンターが多く、シーカーが索敵の役割を負うのが一般的だ。
戦闘という分野において、シーカーはサポート的な役割が普通である。
スラムバレットの場合、中近距離はシドが、遠中距離はライトが担当し、システム解析はライトが行う。
ライトが無防備になる間はシドが鉄壁の防衛線を張り絶対の安全を確保する。
このチームに相対する時、最も危険なのが中距離での戦闘だ。2人が自由に行動し、自由に攻撃できる空間。
この距離であるならば、もしかすれば6大企業が保有するイレギュラーでも撤退を余儀なくされる可能性が高くなる。
これまでの短い探索で2人の索敵範囲の広さは十分に理解できた。
2人共が常人では理解できない範囲をカバーし、そして対処できるだけの能力をその身に宿している。
(私がつけこむ隙間が無い…)
スパイであるフィアが組織に入り込む場合、その組織が不足している部分に滑り込む必要があった。
そこで自分の立ち位置を確定させ、必要性を認められて初めて信用を得ることが出来る。その為に様々な分野の知識や技術をフィアは獲得して来た。
だが、スラムバレットにその隙が見当たらない。
あの2人に欠けているのはワーカーとしての一般常識くらいである。それもラルフというピースが既に埋めてしまっている。
このチームに必要とされるには、化け物級の突き抜けた才能と実力をのみでは無いだろうか・・・。
これ以上の情報を抜き取る隙が無いのであればこれ以上傍にいるのは身バレの危険が高まるだけである。だが、フィアが与えられた任務はスラムバレットの監視。
引き際が不明慮で、踏み込むことが出来ず、更には終着点も見えない。
これらはフィアに対して大きなストレスを与えていた。
任務続行不可と判断しながらも途中下車が許されない状況にジレンマを抱えているフィア(観戦者達)の前に2人の怪物が戻ってくる。
「最後の一枚は抜けなかったか~」
「あれが抜かれてたらボク死んでるよね?モロに心臓目掛けてたよ?あの拳…」
「当たりそうだったら止めったって。んで、そのスーツの感想はどうだったんだよ」
「文句なしだよ。あとは値段だね」
「値段って・・・」
「大事だよ?」
それぞれの感想(フィアは特に)の他所に、良い運動しました感を垂れ流しながら戻ってくる2人。
ライトの感想では違和感なく体の動作もシールドの制御も出来たようだ。
これがあれば遺跡探索でも思い切り動ける、と2人からの感想を受けマクスウェルは大きく頷く。
「それは良かった。開発した甲斐があるというもの」
「それじゃ~「この防護服の値段は如何ほどになりますか?」」
シドの言葉を遮り、ライトがマクスウェルに値段を聞いて来る。
「‥‥‥‥‥ええっと「4億1000万…と、言いたいところですが、少々オマケして4億コール丁度で如何でしょうか?」
今度はマクスウェルの言葉を遮り、シブサワが値段を告げてきた。
「4億…ですか…」
ライトが考える様子を見せる。
「ええ、これは御二人に合わせたユニーク装備です。イデアさんという教材を提供いただいたという事を鑑み、勉強させて頂いております」
ニコニコと営業スマイルを称えたシブサワ。
「おいシブ…パン!!!…ウヴ!!」
何かを言いだそうとしたマクスウェルの口を片手でふさいだシブサワ。
この装備。新技術を使用したとはいえそこまで開発費が掛かったわけでは無い。
イデアという旧文明の教本から少々アイディアを頂いているくらいで、既存技術から逸脱する様な仕様にはなっていなかった。
このまま量産し、多くのワーカーが使用すると想定すればもっと安く提供できるはずなのだ。
だが、この装備は他のワーカーには100%の性能を引き出す事は出来ないとシブサワは判断した。
個人で工場規模の発電が可能になるハンター。
複数のシールドを同時展開でき、防御用と攻撃用のシールドを使い分ける能力を持つシーカー。
この様な存在がこの大陸に存在するだろうか?
隈なく探せば居るのかもしれない。だが、いない可能性の方がはるかに高いと言わざるを得ないとシブサワは考える。
もしそんな存在がいれば、本来ならば大企業に囲われていると見るべきだからだ。
シドやライトの様にワーカーとしてフラフラしている方が可笑しい。
2人で顔を突き合わせてゴニョゴニョと相談しているシドとライトを見やりながら、シブサワはそう2人を評価する。
「シブサワさん、この防護服、購入させて頂きます」
相談が終わったのか、ライトが購入決定をシブサワに伝える。
「ありがとうございます」
シブサワは2人に対して腰を折り、決済端末を差し出すのであった。
新装備を受け取り、唐澤重工からお暇する事になった一行。
車へと乗りこみ、バハラタ都市で借りているホームへと向かっている道中。
「すまん、ゴンダバヤシ様から連絡が入った」
自分の端末に視線を落としていたキクチがそう声を上げる。
「ん?」
「目的地を変えますか?」
「いや、このままホームに向かってくれて構わない。ただ・・・」
眉間に皺を寄せたキクチが顔を上げる。その表情を見たシドは訝し気にキクチへと問いかける。
「なんだ?なにかあったのか?」
「ああ。こちらに向かっていた喜多野マテリアル職員が乗った高速飛行艇が墜落したらしい…」




