防護服の試用
防護服開発主任 マクスウェルに連れられ、やって来たのは実験場の様である。
中に入ると全面を金属の壁で覆われ、少々暴れたところで壊れる心配は無さそうだった。
「一番広い第3実験室は修理中ですので、少々手狭ですがここで試着と試用をお願いしたい」
彼が言う修理中の実験室とは、防壁と隣接している施設なのだろう。
現在修理部隊が修復中との事である。
「あ、あの壁ってなんで壊れたんですか?」
ライトがそう質問する。
企業の実験室の壁だけでなく、防壁まで貫通しているところを見ると、かなり膨大なエネルギーが必要になるはずだ。
暴走事故であった場合、実験場に居た人員も無事では済むまい。
「あれはマクワ君…兵器開発チームがイデア君のエネルギーガンを最大出力で試射した事が原因ですね。素晴らしい威力だったが…まさか防壁まで貫くとは予想外です」
「「「ああ~~…」」」
イデアのフルチャージショットの威力を知っている3人はさもありなんと言った表情を浮かべる。
あの巨大変異モンスターを一撃のもとに黒焦げにしたエンルギーガンだ。
片手分だけでも防壁を貫きかねない威力を秘めている可能性はあるだろう。
「あれで戦闘用じゃないんだもんな~」
「武蔵野皇国…恐るべし」
「一体どんな国だったんでしょうね…?」
旧文明の技術力の高さというより、あれ以上の戦力でなければ戦闘用と名乗れない国家というモノに思いをはせる3人。
「ん?武蔵野…?」
ライトの呟きに反応するマクスウェル。
「ああ…なんでもないです。それより、防護服の方は?」
「おお!そうだった!こちらです」
マクスウェルが案内した先にはケースが2つセットされていた。
「まずはシド様の防護服から」
マクスウェルが端末を操作すると、右側に置かれていたケースが開き防護服が展開される。
見た目は前回シブサワから購入したSV5と大きな違いは見受けられない。
「基本性能は前回着用頂いたSV5とそこまでの差は無い。制御装置に高い耐電性を持たせ、シド様の全力放電にも耐えられる様にしている。ただ、従来では着用者から発せられる微弱な電波を受信して操作を行っていたため、その機能を完全に封じる事になってしまったが。イデア君の話ではシド様は特殊な通信手段の様なものを持っているとか?それと同期する事によって操作を行えるように調整しているのだが…」
着用者側からの耐電性を上げてしまうと、着用者からの操作を受け付けなくなってしまったらしい。
だが、シドは体内には受信体が存在し通常の電気信号のやり取りが無くてもイデアを通じて通信が可能である。
その機能を使って防護服を操作する仕組みになっている様だ。
「イデア君の話では通常の受信機で問題ないと言ってたが……」
「大丈夫だと思います」
そういうとシドは防護服の前に立つ。するとSV5の時と同じようにシドを受け入れようと防護服の全面が開いた。
シドは貸し出されていた防護服を脱ぎ、新しいSV5の中に入る。
自動的に全面が閉じられると、シドは自分の体ピッタリに調整された防護服内で体を動かしていく。
「ふむふむ…」
両掌を開閉し、体を捻ったり屈伸したりと調子を計っていく。
<…前回と同じように全く抵抗感が無いな。イデア、防護服とのやり取りはどうだ?>
<既に通信を開始しています。シドの脳波を直接防護服に伝えている為、自分の体と同じように動かせるでしょう>
<なるほど>
イデアから問題無しとの回答を得たため、全力で動いてみようと考えるシド。
「じゃ~、ちょっと全力で動いてみますか」
体内に電気を走らせ、時間圧縮と高速思考も併用しシドは実験室の中を全力で駆けまわった。
全員(ライト以外)の目からはシドの姿が消えた様に見え、皆がキョロキョロとシドの姿を探し始める。すると、僅かな空気を切り裂く音とシールドが発生した時に生じる小さいノイズが連続して実験室の中に響き始めた。
数秒後、開きっぱなしになっているケースの前にシドが現れ、嬉しそうな表情を称えて上機嫌に声を上げた。
「うん!いいな!軽いしシールドの発生も瞬時に思い通りに出来る。物理防御力も前と同じなのかな?」
そういいながら自分の拳で胸元をコンコンと叩くシド。
「……あ…え、ええ。金属糸の配合と編み方を変更し、以前の物より物理防御は12%、エネルギー防御は8%上昇している。その他の細かな変更点としては、両掌には電気抵抗が極めて低い半導ジェラルミンを使用し、拳の部分や重要防御部分には通電すると瞬時に硬化するアーキタイトでコーティングしていので、シド様が放電能力を使用すればさらに防御力が向上する仕組みになっている。衝撃吸収性も上昇する為、大型のライフルくらいであれば完全に弾けるはず」
この防護服に使用されているアーキタイトと言う物質。
確かに電気を流せばアダマントを超える硬度まで硬くすることが出来る。しかし、そこまでの硬度を得るには工場の高圧電力クラスを流さなければならず、通常の防護服程度のエネルギーパックでは全く意味をなさない物だ。
実弾兵器の的として使われる程度の物で、装甲車や強化外装などにも使用されていない。
これは自力で雷並みの電力を持続して得られるシドが使ってこそ効力を発揮する。
まさにシドのみのユニーク装備と言っていい。
「そうなんですね!…よしライト!タイプCで頼む!」
シドは嬉しそうにそう言うと、皆から離れた場所まで移動し構えを取った。
「はいはい」
指示を受けたライトは、両手にハンター5を装備しA60をシールドで持ち上げシドに向ける。
そして1秒間で放てる最大投射量をシドに向けて撃ち放った。
シドは全身にため込んだ電気を防護服に流し込み、両拳で四方から飛んでくる弾丸を弾き飛ばしていく。
シドの拳と弾丸が接触した際、流されていた電気がスパークし辺りに雷光をまき散らしていく。
たった1秒間の試用であったが、この防護服はシドが思い描いた動きに完璧に追従し、思いも寄らない防御力と攻撃力をシドに齎せてくれた。
今までに無い一体感を感じ、シドはこの防護服を作ってくれたマクスウェルに感謝を捧げる。
その他 視点
シドが撃ちだされた弾丸を拳で弾き飛ばす姿を見ていた5人。
子供の様に自分が来ている防護服をぺたぺたと触りながら騒ぐシドを見やりながらそれぞれの感想を零す。
「防護服で攻撃力が上がるっておかしくないです?」
「まあ、パワードスーツも防具ですが攻撃にも使えますし…私はスラムバレットの戦力向上は歓迎しますよ」
「まあ、そう考えると…流石唐澤重工…シドさんの専用防護服だね…」
「次はライトの防護服ですね。どうします?全身からレーザーが撃てるような仕様かもしれませんよ?」
「いや、それはないでしょ…たぶん」
次は自分の防護服を紹介される番であるライトは、期待半分恐れ半分といった心境らしい。
「これほどの身体能力を持っているとは…観測室、今の映像は記録しているか?…よし、貴重な資料だ。保存は確実に行ってくれ」
「…すまない、私はキクチという者でスラムバレットの担当官をしている。この度は素晴らしい装備を作って頂いて感謝申し上げるのだが…あんな専用装備を作ってしまって企業として採算は合うのだろうか?」
「さあ?そこは私ではなく経営層が考える事なので。まあ、調整部の人たちがまた上手くやるだろう。しかし、あのスピードで動き回るとすれば耐久年数はどれくらいに…ブツブツ」
研究開発だけを行うマクスウェルは採算などに興味は無い。
ただ作りたいものを作る。
後は調整部と経営層と営業部の仕事である。
「次はライトの装備だよな」
自分用に開発された防護服に満足げな表情を浮かべたシドがそう言ってくる。
1人思考の渦に飲み込まれかけていたマクスウェルが顔を上げ、ライトの装備の紹介を始めた。
「うむ、そうだな。ライト様の装備はシールドスーツに寄せている。これがそうだ」
彼が端末を操作すると、もう一つあったケースが開き防護服が展開された。
「こちらはライト様の戦闘スタイルに合わせて開発した物になる」
そういって紹介された防護服は、シドの黒を基調としたデザインでは無く、ダークレッドの色合いをした防護服であった。
「ライト様は防御だけでなく攻撃にもシールドを使用されている。それは間違いありませんな?」
「はい…良く知ってますね」
「弊社広告塔チームの戦闘スタイルは分析はしているのでね…おっと、外に漏らすような事はしないので安心して欲しい」
マクスウェルの説明によると、この防護服の製法はシドの物と変わらない製法を施されているが、シールド発生装置に大きな違いがあるとの事。
防御に使用するシールドは近距離。20m以内に強固なシールドを発生させ、弾丸を誘導する為に発生させるシールドは強度を犠牲に距離を限界まで伸ばしているとの事。
強度が劣るとは言え、弾丸を曲げるのに必要な強度は確保されており、展開する規模や形状の柔軟性も向上している。
その分使用者の技量が試される装備になっているが、ライトならば問題なく制御できるであろうと期待されて作成されたものであるとの事。
「戦闘スタイルから中遠距離戦に特化していると推測し、万が一近距離に潜り込まれた際の物理防御力も確保している。情報収集機などの外部端末を保護するポケットもある為、突発的な事故による活動能力の低下防止能力も向上している。なので、余計な外套を纏う必要もなくなるだろう」
ライトは今、情報収集機を腰の辺りに装備している。
防護服の上から取りつけている為、万が一にそこに被弾し破損してしまえばライトの戦闘能力の低下は避けられなかった。
そのまま着て歩くには恥ずかしいと思えるデザインのシールドスーツを隠すというだけでなく、情報収集機を守るという意味でもコートタイプの防護服を着用していた。
この防護服はコレだけで情報収集機も守ってくれる形状になっている様だ。
「それは有り難いですが…ボクのコートは光源の役割も持ってまして…」
ライトのコートは極小の照明器具が取り付けられている。暗所での行動時に辺りを照らすことが出来るように。
シドの様に超人的な視力を持ち合わせていないライトには、もしもの時の為にも必要な装備と言えた。
「なるほど。しかし、その問題には情報収集機開発チームが解決してくれるはずだ」
マクスウェルが言うには、レミリア率いる情報収集機開発チームが新しい機器を開発している最中だとか。
ライトが新生物をEX80で感知する事が出来なかったという事象とサンプルを元に、新しいアプローチを模索しているらしい。
「その機器があれば光源が全くない場所でも問題なく行動できる様になるとの事。それが完成するまでは光源を持ち歩く必要があるだろうが、その問題も直ぐに解決できるはずだ」
「あ…そうなんですね」
ライトとしても面積の多いコートから解放されるのは有り難い。
突風が吹き荒れる様な遺跡を探索する際にはどうしても邪魔に感じる部分があったからだ。
「まずは着用して使用感を確かめてほしい。ここではシールドの最大展開距離には広さが足りないが、発生強度は同じの為そこまで違和感を感じないはず」
ライトは防護服を着用し、シールドの使用感を確認しようとする。
(ん・・・・これが防御用でこれが弾丸誘導用かな・・・)
今までにない2種類のシールドを使用する感覚にすこし混乱するライトであったが、徐々にその感覚を掴んでいく。
シールドを瞬時に発生させては消していくライト。
2種のシールドの発生感覚を試したライトはシドに協力を頼んだ。
「シドさん。軽くお願いね」
「おう、わかった」
お互いに模擬戦をする様に距離を開けて立ち、ライトが武装を展開する。
ハンター5、A60,エネルギーガンを使用しシドを攻撃するライト。その弾幕を新しい防護服の性能を利用し弾きながらライトに突貫するシド。
シドの拳がライトに届く寸前、ライトがなんの予兆も無に滑るように横へとズレていく。
シールド同士を反発させて移動する技術。筋肉の起こり等を発生させないライト特有の回避行動であった。
凄まじい風切り音を鳴らせながら空を切ったシドの拳。それを引き戻しながら逃げたライトを追うシド。
高速で迫ってくるシドに対して全方位から実弾、エネルギー弾の雨を降らせ攻撃するライト。
時には体勢とは無関係の方向に滑るように逃げ、ある時は自身の脚力をブーストするようにシールドを使用しシドから逃げる。
だが、圧倒的な身体能力と接近戦センスを持つシドに次第に追い詰められ、ライトはその拳を避けきれない状況に追い込まれた。
その瞬間。
ライトは防御特化のシールドを3枚、自分とシドの拳の間に発生させる。
凄まじい衝撃音が鳴り響き、動きが止まった2人の間には、シドの拳を受け止める1枚のシールドが残されていた。




