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ダークエルフと天下無双  作者: あほうのたわけ
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8話 外の世界


「どんな奴らがいるんだろうぁフラリナ! 超強え戦士とか、里とは比べ者にならないほどやべぇ魔物とかがいるんだろうなぁ! くぅ楽しみだぜ!」


「……興奮するのもわかりますが、そろそろ落ち着いて欲しいですオルディス様」


 里を出た馬車は二人を乗せてゆっくりと荒野を進んでいた。ダークエルフの里が飼うこの馬は魔力を知覚できるという特殊な性質があり、搭乗者が定期的に魔力で道を作ることで、騎乗せずに運んでくれるという便利な仕組みになっている。

 小さな客車の中で、オルディスは今にも木刀を振り回しそうなほど興奮していた。


「というか、なんですかその格好は」


「何って、フラリナが言ったんだろ? いつもの格好じゃ目立つからって。里の服屋で買ってきたんだ」


 オルディスはいつもの王族らしい格式ばった服装ではなく、薄手の戦闘衣に裾の広まったパンツ、いずれも黒を基調とした衣服に身を包んでいる。

 美しく長い銀髪を一つに結い、その端正な顔立ちとはミスマッチなほど鍛え抜かれた肉体を覗かせるその衣装は、気高きダークエルフの王族という雰囲気を微塵も感じさせず、庶流の剣士を思わせるような容貌であった。


「確かに言いましたが、そんなんでもあなたは王族なのです」


「そ、そんなんでも? まあ別にいいじゃねぇか、この服動きやすいんだ」


「ですが……」


「それに外界じゃダークエルフって珍しいんだろ? あんまり派手な格好して目立ちすぎてもあれだろ」


 ありとあらゆる世界が存在するこの世界でも、ダークエルフは比較的珍しい種族とされている。ほとんどが里で暮らしているため、外界で暮らすダークエルフはとても少ない。


「というか、どちらかと言えばフラリナの方がまずいだろ」


「どうしてです?」


「なんでまだ従者服なんだ」


 フラリナは城での生活とほとんど同じ、黒を基調とした長いスカートの従者服を身に纏っていた。こちらは所謂メイド服だ。はっきり言ってこっちの方が外界では違和感がある。


「私はどこであろうとあなたの従者だからです」


「いやそうだけど、別に服は自由でいいぞ」


「なりません」


「お、おう、そうか」


 どうあってもこれは譲れないらしい。


「それで、これからのことですが……」


 二人は未だ目的地のない旅を続けていた。里を発ってから既に数十時間が経ったが、辺りには未だ国や村の気配もない。

 それもそのはず、ダークエルフの里は外界とはかなり離された位置にある集落のため、一番近い国に行くだけでも一週間はかかる。

 

「ひとまず向かう先は、商業都市『ラーデン』でよろしいのですね?」


「ああ、ここから一番近い大都市だろ? 凄え奴らがいっぱいいるはずだぜ」


 商業都市『ラーデン』は、ダークエルフの里から一週間と少し南に歩くと辿り着く大都市である。その名の通り商業に重きを置いている国家であり、武器に食に娯楽に、なんでもござれの、こと商業においては世界トップクラスの超大都市である。


「楽しみだな、外の世界」


「ええ、私も心踊ります」


 まだ見ぬ出会いと興奮を求めて、目的地のラーデンへと馬を走らせる二人。


 だがここで、二人を運ぶ馬が何かを知らせるような、違和感のある声で鳴いた。

 フラリナがすぐに探知魔法を発動。


「魔物ですね。数は八、こちらに向かってます」


「ようやくか」


「如何いたしますか……って、聞くまでもなかったですね」


「当然俺がやる、フラリナは馬を頼む。こんな所で足を失うわけにはいかねぇからな」


「かしこまりました、お気をつけて」


「おう」


 抱えていた木刀を手に、オルディスは客車の上へ。

 右方から、多種多様な魔物たちの群れが、こちらへ突進してくるのが見える。


「んーデケェのも強そうなのもいねぇけど、まずは肩慣らしだな……よし」


 オルディスはその木刀を両手で握り込み、あの時の感覚を再現する。自分と剣が一体となっていく唯一無二の高揚感。

 オルディスが剣に集中している間にも、魔物の群れはすぐそばまで迫ってきていた。


「……よし」


 木刀の刀身が紫光を放って輝く。

 『剣術』と同時に身体強化を済ませていたオルディスは、一気に大地を蹴り、群れの中央にいた長らしき魔物の胸を穿った。剣術を持ってすれば、単なる木刀ですら凶器と化す。


「くそっ、まだだめだ。流れる魔力が全然留まらねぇ、片手持ちのがまだマシか?」


 一瞬にして長を倒した目の前の男に呆然とする他の魔物達を他所に、オルディスは一人己の未熟を反省していた。


「もっと集中だ、無意識にこれができるようにならねぇと」


 『剣術』は、その剣に常に魔力を纏わせることで得物との一体感を高め、より高速かつ精密さを高めることを可能にする技だが、これにはとてつもない集中力を必要とする。剣士は避けながら、受けながら、走りながらそれを維持し続けなければならない。無意識にこの状態を維持できるようにすること、それが剣術を会得したオルディスが挑まなければならない次のステップであった。

 加えてその魔力を固定し続けなければ、すぐに魔力が霧散し、大気へと還っていってしまう。素人がこれを真似てみても、魔力を固定化できずに直ぐに魔力切れを起こしてしまうだろう。

 オルディスはまだ剣術という深淵に足を踏み入れただけにすぎない。


 一斉に向かってくる魔物達を、軽くいなしながら、オルディスは自力で辿り着いた剣術という世界へと入り込んでいく。


「そりゃあ一朝一旦で習得できるもんじゃないよな。修練あるのみか。よし……ってあれ?」


 気づけば魔物の群れは全滅し、立っているのはオルディスのみとなっていた。


「ちっ、魔物の森と大して変わらねえな。これじゃ外に来た意味が――お?」


 聞こえてきたのは、さらに大きな足跡。聞こえてくる数は、先ほどよりも遥かに多い。見れば左方からも十以上の魔物の群れが馬車へと向かってきていた。

 オルディスは木刀についた魔物の血を振り落とし、新たな魔物の群れへと突撃していく。


 何十年と使用してきた身体強化も、並の身体強化とは桁の違うものになっていた。身体強化が付与できる限界は、身体の強度によって変わる。だから魔力が多くても身体の弱い妖精族が身体強化をしても、動きの補助程度にしかならないし、逆に身体の頑丈なドワーフでは、身体の許容量に魔力量が追いつかない。

 ならば『身体を鍛えた妖精族』が最強なのではないか、オルディスは思い至り、身体を鍛え続けた。彼のような者を、人々は脳筋と呼ぶ。

 木刀が放つ光が線となって見えるほどに高速で移動するオルディスは、既に常人の目には捉えられないほどの速度であった。


「そうそうこういうのを待ってたんだ! 最高だぜ外の世界!」


 ーーーはぁ。

 客車の窓から興奮する主を見て、額を手で抑えながら従者はため息をついた。

 ダークエルフの里は特殊な結界で外界からの魔物の侵入を絶対的に拒んでいる。里から出たことのないオルディスは知る由もないが、何度か近隣の魔物退治に出向いたことのある彼女はこの現状がいかに異質な状態であるかを理解している。


「なんですかこの魔物の量は……魔物寄せの香でも焚いてないと説明がつきませんよオルディス様……」


 どれだけ魔物の多い地帯でも、群れとの連戦になることはあり得ない。魔物の群れ同士は距離を保つ。だからこそ群れに連続で遭遇することなどあり得ない。あったとしても、適切なインターバルがあるはずだ。

 魔力探知を広げれば、今も一つの群れを斬り伏せたオルディスに向かって三体の魔物が迫ってきている。


「はあ、これがあなたの進む覇道ですか……」


 楽しそうに次の魔物達へ向かっていくオルディスを他所に、これから訪れるであろうこれ以上の厄を想像し、フラリナは一人でに胃を痛めていたのであった。

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