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ダークエルフと天下無双  作者: あほうのたわけ
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9話 出会い


「魔物を……いえ、災厄を呼び寄せる特性持ちですか。本当に従者不孝な主ですねオルディス様は」


「よくわかんねぇけど、いっぱい敵と戦えるってことならよかったぜ」


「まったくもう……」


 周囲に広がる魔物の死体の量を見て、フラリナは今日一番のため息をつく。

 あれから一週間。一日に三度必ず魔物の連続襲撃に遭っていた。その度に嬉々としてオルディスは群れへと突撃していくのだが、フラリナからしてみればたまったものではない。


「あと一日でラーデンへ着きますので、もうこれ以上魔物は呼び寄せないでくださいね」


「無理だね、これは無意識に溢れ出るフェロモンってやつだ」


 フラリナは早くも里を恋しく思う気持ちと、これからの旅の苦労への憂鬱な気持ちで胸がいっぱいであった。


「……」


「どうかしました?」


 ふと気づくと、オルディスが木刀をつまらなそうに掲げていた。あの頑固者の父が与えてくれた最初で最後の贈り物をそんな目で見られていることを、フラリナは少し気の毒に思ったが、当然オルディスにはそんなこと知る由もない。


「ん、やっぱ木刀じゃ限界があるなーってさ」


「十分な様に見えますけどね」


「元々の少ない殺傷性を高めるために結構な魔力使っちまってんだ。これじゃあ魔力が定まらないし、身体強化との併用じゃすぐに魔力切れを起こしちまう」


「剣術……どうやら一朝一夕で身につく技ではないようですね」


「ああ、そりゃ衰退していくわけだぜ」


「ラーデンには冒険者ギルドがあります。恐らく多くの武器屋や鍛冶屋があるはずです。まずはそちらで武器の調達といたしましょうか」


「いいのか! うっひょー、ワクワクするなぁ!!」


「あまり高いものはダメですよ」


 オルディスは既に四十年の時を生きているが、長命種族であるダークエルフの中では子供も子供。キラキラと目を輝かせている年相応な主の姿に、五歳年上の従者は無意識に頬を緩ませた。


「それで当面のご予定ですが、暫くはラーデンに滞在ということでよろしいのですね?」


「おう、まずは金を稼がないといけないんだろ?」


「そうですね、長旅するには少々心許ないかと」


「なら決まりだ、俺は冒険者になる」


 『冒険者』、国や民間からの危険な依頼や任務を報酬付きのクエストという形で遂行する者達のことを言う。貴族や騎士の家系でもない一般市民の中で、腕や魔法に自信のある者は大抵この職に就くことが多い。

 冒険者になるには、まず各都市にある冒険者ギルドに登録が必要だ。


「ラーデンは大都市、冒険者の実力やクエストの難易度も跳ね上がりますが……まあ、杞憂ですね」


「願ったり叶ったりだな」


「はぁ……本当なら私もお供したいところですが、私も私で外界の情報収集が必要です。私は別の職を探そうかと」


「おう、頼んだぞフラリナ」


「主の危険にお供できないのは心苦しいですが、主を信じるのもまた従者の務め。ここはオルディス様を信じることといたしましょう」


「どんだけ心配性なんだよーーって、なんか来たな」


 これからの冒険話に花を咲かせていると、オルディスは本日三度目の魔物の気配を感じ取る。フラリナがすかさず感知を行うが、その気配の正体は群れではなく、今までとは比べ物にならないほど大きな魔力を持った個であった。


「……オルディス様」


「ああ、でけぇな」


 フラリナは思わず警戒心が高まり、表情が強張る。

 だがオルディスはそれとは対照的に、口元には笑みを浮かべていた。

 そしていつも通り木刀を持って客車を飛び出す。


「張り合いのない奴ばっかで退屈してたんだ。やっとでけぇのが来やがったぜ」


「……危なくなったら入りますからね」


「おうよ」


 飛び出したオルディスの視界に入ってきたのは、熊のような見た目をした巨大な四足歩行の魔物だった。

 熊と言ってもその牙や爪は獅子とは比べものにならならないほどの殺傷能力を持った凶器だ。


「あん時の熊よりでけぇし強えな」


 オルディスは思い出す。

 それは初めて魔物と戦ったあの日、その技も刃も通らずなす術もなかったあの大熊よりも、遥かに強大な魔物だった。恐らくここら一帯の魔物達の長であろう。

 だがオルディスは、あの日とは比べ物にならないほどの強さを得た。血の滲むほどの努力を何十年も重ねてきた。今のオルディスに、あの程度の障害に立ち止まる道理などない。


「一撃で仕留めんのは無理だな。狙うなら足からだ」


 鍛え上げた身体強化でその懐へ一気に潜り込む。

 だが大熊はオルディスの着地と同時にその巨大な右腕を振り下ろした。


「うおっ、見えてんのかよ!」


 着地直後のオルディスは回避が間に合わずにその腕を受け止めた。

 踏ん張る両足が大地にひびを入れる。


「あの頃だったらこれで潰れちまってたかもな! 今の俺にはパワーだってあんだぜ!」


 鍛え上げ、身体強化をかけたオルディスの剣は、凶爪を弾き飛ばす。そのまま右腕を切断するつもりで手首を斬り上げた。

 だがその刃は途中で勢いを失くす。


「ちっ、かてぇなっ!」 

 

 腕から木刀を引き抜き、一度大きく距離を取る。

 切断することは叶わなかったものの、その刃はたしかに腕を斬りつけ、大きく血飛沫を上げた。

 魔物の咆哮が辺り一体に響く。


「あいつを斬るには、今の俺の剣術の精度じゃ無理だ、雑が多すぎる……くそっ」


 一瞬の逡巡を終えて、腕の痛みからか更に凶暴化した魔物に向かい合う。

 木刀を構え、更に強い力を足の先に込めた。


「剣術は一気に進化するものじゃねぇ。だったら今頼れんのはこっちだ」


 鍛え上げた肉体が耐えれる限界まで、身体強化の魔を高めていく。

 

「必要なのは速さ……一瞬で目玉貫いてやる」


 先ほどとは比べものにならないほどの力で踏み込み、オルディスは地を蹴った。

 駆けるのではなく、跳ぶ。

 時間にしてわずか二秒。

 魔物の眼前へと跳んだオルディスはそのまま魔物の右目に木刀を突き立てる。

 ーーだが、


「オルディス様!!!」


 フラリナの声がオルディスに届くよりも先に、オルディスは剣士としての本能からか、身体をよじり()()をかわした。


「あ? 手間かけさせんな!」


 オルディスの背後から魔物の右目を貫いた()は、そのまま叫び声を上げる魔物の顔面を蹴り、再びオルディスに向かって突進。

 その一連は、オルディスが空中で体勢を整えるまでの数瞬の内の出来事であった。


 速すぎる。

 そう心の中で唱えるも、辺りに足場のないオルディスにできるのは正面から迎え撃つことだけ。

 常人ならほとんど見えないような速度の物体でも、魔法の核を見抜くほどのダークエルフの眼力は、それをしっかりと捉えた。

 木刀と槍がぶつかり合う。


「なっーー、てめぇなにもんだ!」


 自身の速度に圧倒的な自信を持つ槍の戦士は、その瞬速を見切った目の前のダークエルフの剣士に驚嘆の声を上げた。


「こっちのセリフだ! いきなり襲ってきやがって」


 黒槍を受け止め、オルディスは空中で勢いをなくしたその()と共に、向き合う形で地面へと落下していく。


 オルディスはようやく動きを止めたその男を視認する。

 怒りで逆立った縞模様の耳を除けば、身長はオルディスと同程度。

 細身ながら鍛えられた筋肉を強調する袖のないピタッとした戦闘衣が印象的で、オルディスを強く睨むその切れ長の目からは、獲物を定めた朱色の瞳が見える。

 その手には、魔物の血が付いた身長程もある漆黒の槍。


「妙な横取り野郎がいるかと思えば、ダークエルフが剣なんか持ちやがって」


「だから横取り野郎もこっちのセリフだ! その耳と尻尾、獣人ってやつか?」


「無駄話をする気はねぇ。その棒切れ構えろ、ダークエルフ」


「なんなんだこいつ……」


 ()()()()はその槍を低く構え、オルディスを睨みつける。

 動揺しながらも、オルディスも負けじと正眼で木刀を構える。

 オルディスは身体強化にかける魔力を最小限に抑えた。

 先ほどの一連でオルディスは既に理解している。目の前の獣人と身体能力で競っても意味はないということに。

 この獣人の速さの前では、これ以上の強化は無意味。

 オルディスはその木刀に意識を集中する。





「っらぁっ!」 


 先に仕掛けたのは当然獣人。

 常人から見れば瞬間移動とも思えてしまうほどの速度で、その槍はオルディスの眼前へと放たれる。


「甘ぇっ!」


 一歩下がり、間合いを調整したオルディスの剣がその刃を防いだ。

 瞬速の槍と反射の剣、先に相手を下したのは剣であった。

 里では培われることのなかった対人における命の取り合い、その最中にもオルディスの剣は進化していく。

 槍を弾いたその勢いで一気に獣人の懐へ入り、がら空きの胴体へ横薙ぎ一閃。対人戦闘において、これ以上ない見事なカウンターだった。


「甘えのはてめぇだ」


 だがその美しい技すらも、この男の身体能力は超越する。

 絶対に間に合わないであろう体勢から、男は一瞬にして空中へ跳ねた。

 空を薙いだその一閃の後隙を、黒槍は逃がさない。

 

「死ねっ!」


 その槍がオルディスの脳天を貫こうとした瞬間、重なり二人の影が、より大きな影に呑み込まれた。


「オルディス様っ!!」


 その戦場にフラリナがようやくたどり着いた頃には時既に遅く、巨大な魔物の左腕が二人もろとも大地を粉砕していた。 

 右眼を潰されてもなお、黒き妖精と豹の獣人を仕留めるために立ち上がった巨獣は、得意気な笑みを浮かべる。



 そして先ほどオルディスの斬りつけた右腕の()()の血飛沫が左腕から噴き上がった。

 声にならない魔物の悲鳴が、自らが巻き起こした土煙を吹き飛ばしていく。

 フラリナがほっと安堵の息を吐いた。

 現れた二つの影が持つ得物の鋒は、もはや記憶から忘れかけていた魔物へと向けられている。


 

「真剣勝負の邪魔しやがって。おい、先にあのデカブツ片付けんぞ、猫野郎」


「指図すんじゃねぇ黒妖精。あいつやったら次はてめぇだ」



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