第百一話
ブクマ・評価ありがとうございます。
やってしまった。
恐らく今の話で、俺の『傷』に大凡の辺りは付けているだろう。どれだけ辛いモノか、俺自身が泣いて証明すらしてしまったから。それに、アルバムには春香との写真もあったはずだ。忘れていた。
どれくらい泣いていたのだろうか。気付けば彼女達に慰められ、部屋に入って来ていたエーミルが妙な声を上げていた。
「グ、グレンさん……。こ、この状況は……?」
「……」
『む……?やはり、こ奴は……』
『……どうした、ヘレン』
『……』
いきなり唸ったと思ったら、黙り込むヘレン。思わせぶりな態度を取るのは良いけど応えてくれないのなら、聞こえないようにやって欲しい。慣れてきたとは言え、突然の頭の中での会話はビックリするんだから。
「メ、メイドが二人会いに来たと聞いていたのですが、その御方はまさか……!?」
「……エーミル」
「というか、皆さん目が赤いですよ?ど、どうしたんです?」
エーミルの目には、余程理解し難い光景だったのだろう。矢継ぎ早に、質問が彼の口から飛び出す。
「エーミル。ここにいる男は、俺とエーミル。女は、全員メイドだ」
「は……?い、いや……しかし、そ、その御方は王「エーミル」……!」
強い口調でエーミルの言葉を遮る。続く俺の言葉に、メイド達の体が跳ねる。
「ここには、俺の事が大好きなメイドが三人。面白すぎる話をして、涙が出るほど笑ってイチャイチャしていただけだ」
嘘だらけだが、これで良いだろう。本当の事を言っても、余計な騒ぎになるだけだ。これだけ念を押して強い口調でいえば、そこはエーミル。商会の会長ともなれば察せるはずだ。
「むむ……。そ、そうですか。はぁ~、知りませんからね……」
ほらね、察してくれた。ついでに、呆れた視線も。
「大丈夫だから。ちゃんとやるからね。ちゃんと、ね」
「ま、良いですけどね。……本題に入りましょう」
そう、ここに来た本来の目的はエーミルとの商談、及び今後も姫様の下にいるにあたっての協力の要請だ。
母さん達(ジョゼは呼んでいなかった)がここに来たのは、この間メモ切れを渡したから。近い内ここに来る事は決まっていたから、あの日母さんに会える可能性を考え用意していたメモだった。
時間の指定は大まかなものだったが、すれ違わずに済んでよかった。
「ああ、そうだな。それと、このメイド達の事は気にしなくていいからな」
「その方が良さそうですね。……私の心労という意味でも」
最初はクロエを含め三人のつもりだったが、こうなってしまった以上母さんとジョゼだけを追い出すのは気が引ける。悪い事を話すつもりはないんだし、そのまま聞いていてもらおう。
精神的にはちょっといや、ややいや、かなり参っているが、イチャイチャしていたと言った手前面に出さずやり遂げよう。幸い、俺は提案してお願いするだけだ。これ以上の消耗は無いだろう。
「さて、まずは……」
「あ、その前に」
「……何だよ。……おい?」
出鼻を挫いたと思ったら、エーミルは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。そして、申し訳ありませんでした」
「お前……」
すぐに理解した。感謝は俺に、そして謝罪はジョゼ達にだろう。
メイドと言い張ったとは言え、メイドの一人がジョゼである事には気付いている。先のコナー家の一件の事を考えると、王家御用達のマフション商会会長としては当然の行動だろう。
「あの者達の悪行を見抜けず、多くの子を良き雇い主だと引き渡してしまいました。客を選ぶ商会として、奴隷達のの幸せを願い、そして享受出来るように努めていたのですが、今回の件は完全に私共の落ち度です。グレンさんには感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
「……いいよ、気にするな。結果として、商会の為にもなったと言うだけだ。お前には色々助けてもらった恩もあるしな」
「それでも、ですよ」
そこでちらりと一瞬、ジョゼの方に視線が贈られる。
「陛下を初めとする王家の方々にも、感謝と謝罪をお願い出来ますか?今後は信頼の回復に努め、奴隷に関してはより慎重に、調査に念を入れていく、と」
「ん、分かった。けど、あまり気にするなよ。今やっているセールみたいに、ちゃんと行動で示しているんだ。お前達を悪く言うのは、馬鹿だけだから」
「ほほほほ、そうですね」
その行動で、王様達にもエーミルの決意等は伝わっているだろう。ジョゼを見ればしっかりと頷いてくれるし、ちゃんと伝わるだろう。
ただ、真面目な話をしているんだし、俺から離れてくれないだろうか。
「んじゃあ、そろそろ本当に本題に入るか。まずは、トランプの件だな」
「はい。グレンさんの思惑通り、貴族の女性達の間で密かな人気を博していますよ」
「男は?」
「ほとんど買う人は居ませんね。最初に女性のみに売ったおかげで、トランプは女のモノだという思想が固定化されているようです。貴族女性の一種のステータスになるかもしれません」
良かった。賭け事とかは生まれて欲しくないからな。
冒険者とか、少々思考の荒っぽい人間が多い以上、必ずトランプは格好の道具となる。貴族の女性向けという事で、伝えたゲームの種類も『七並べ』『神経衰弱』『フリーセル』などが主だ。
カジノを作るのも悪くない考えだが、それは最後の手段。トランプでの賭け事が流行ってしまってからで良い。ギャンブル依存症なんて洒落にならんからな。一応誓約とかで対策を考えているが、このまま貴族女性の優雅な玩具として根付く事を望む。
「そうか、なら、今のまま貴族女性を中心に頼む。後は大和に関してだが……」
「そちらは全然ダメですね」
そう言って、エーミルは肩を竦め首を振る。
「そうか。米とか食いたかったんだけどな」
「何でも、食いたいならウチに来い、だそうです」
「あははは」
米に醤油に味噌に。日本人に馴染み深い味が、大和皇国に存在するのは確認済みだ。しかし、それらは大和皇国の外に流通することは無い。大和皇国出身のカエデも、懐かしそうに話してくれた。
最初は、大和皇国もケチだなと思ったが、よくよく考えればいい手なのかもしれない。日本人系の迷い人は、必ず大和皇国を目指す事になるだろうし、大和皇国を出た者も懐かしい味を求めて、帰国したくなるだろう。
厭らしくも、国の発展に繋がる良い手である。国の外から、世界の外から、知識やら文化やらが入ってくるのだから。
「その内俺も行ってみるかね。おにぎりとかめっちゃ食いたいし」
「お母さんはチャーハンかしら」
「まぁまぁ、大和の食べ物はそんなに美味しいの?私は独特な味って聞いるんだけど」
先程までは黙って聞いていた二人が、米の話に堪え切れなくなった母さんを皮切りに、各々口を開く。
「大和の食は、俺達の世界の物に似ている様でな」
「まぁ!じゃあ、この間食べた料理みたいに、大和の料理は美味しいの!?」
「いや、和食と洋食……これ言っても分からんか。取り敢えず、懐かしい味が欲しいって話だな。……行ってみたいんだけどな」
当分は無理そうだがな。
「その時は、私も連れて行ってくれる?」
「ああ。その時までには、色々と覚悟やら決心やらするさ。どうせ、数年はお預けだろうからな」
「「レン君……」」
気遣うように俺を見る二人の頭を、優しく撫でながら思案する。
このまま姫様に仕えるなら、必ずサブリナに行く事になる。盗み見た情報や、予想する姫様の目的を考えると、物凄く大変な事は明白。数年は掛かりっきりになるだろう。まあ、ディエゴを片付けた後に、姫様が俺をどう扱うかにもよるだろうがな。
ただ、それだけ時間があれば、自らの心に決着ぐらい付けられるだろう。上手くやれば麒麟に会う時間もあるかもしれない。元の世界に帰る方法も知っておきたいからね。




