美味しいモノを広めるには…やっぱりレシピ本?!
女性と向かい合って座るこの場所は、ハッキリ言えば逃げたいが,本音。だって!!相手は痩せこけているとは言えお姫様なんだよぉ。
しかし!!
問題はそこじゃない。今いる場所だ。
王宮。あ、間違えた,元王宮。
何でだろ…王宮と言う名前事態にアレルギー反応があるんだが、女性の涙には勝てなかった。縋られるなんて初体験、ぶっちゃけ俺に縁があるとは思わないじゃん!!
「改めて自己紹介させて貰おう。この子の兄でスピカと言う単なる職なしだ。そして」「お兄様。自分で申し上げたいわ。
カズキ様。改めてまして深い感謝とお詫びを申し上げます。」
痩けた頬に溢れる笑みが涙で溢れた彼女は、立ち上がるとそう言って深々頭を下げた。
しかし、そこは病み上がり。足元がフラつき倒れそうになる。兄のスピカさんが咄嗟に抱き止めたから良かった。
「と、とにかく!!休んでください。あなたは病み上がりなんですよ。俺はこのお茶で充分ですから!!!」
緊張からか既に味のしないお茶を片手に持ってそう叫ぶけど二人は動じないし。レナトゥス?!何でヘルプ無しなんだよ。
近くにいるのはレナトゥスのみで。
後の皆んなはとにかく、街の人々への対応に追われている。
「御礼を申し上げただけで名乗るのを忘れておりました。カペラと申します。」
可愛いなぁ。
全く縁のない女性とのお茶会にやっと落ち着きを取り戻し始めた。
会話のリード役の元王太子で、出されたお茶を味わいつつも彼女をもう一度見る。
穏やかな表情の彼女を見ていると、あの怒鳴りつけていた風情が嘘のようだ。彼女の本質はこちらだとはっきり分かる。
それだけに、より呪いの恐ろしさが身に染みる。やっぱりダメ元で提案してみよ。
「あのー。一つ提案があるんですけど」
躊躇いがちな俺の声にスピカさんの顔がおや?とこちらを見る。
「カズキ殿の提案は、是非とも聞かせて頂きたい。」
おっ?このプレゼンの出だしは絶好調だな。では…。
「レシピ本を出したいんだ。俺にとって、この世界の人達は食べ物を雑に扱うと思うんだよ。ただ、切る・焼く・茹でる。味もそっけないのが多くて勿体ない。その上、食べられるモノも捨てている事も多いしさ。」
ん?やっぱり変な顔になるな。
やっぱりこの世界の人には通じないか。と、落胆していたらカペラさんが助け船を出してくれた。
「素晴らしい名案です。あのダシジルの味は生涯忘れられないモノですもの。でも、少し解決すべき問題点があるのです。
一つは本などは贅沢品である事。
もう一つは、元王家の人間として恥ずかしい事ですが識字率が低い現状です。」
ふふん。それなら解決済みなんだ。
実はレシピ本はずっと前から考えていたんだ。だって我がギルドのSSランクも一人だけじゃ限界があるし。
俺…どこに行っても美味しい食べ物屋がある幸せをこっちに来て知ったから。
当たり前だと気づかなかったんだよ。
ふらりと入る食べ物屋の有り難さを。美味しいモノを食べる事の意味は人生そのものを幸せにするすっげーモノだと。
単なる茹でた肉を齧りながら、何度となくそう思ったから。レシピ本はある意味俺の夢になったかもな。
広めたくても、口伝のみじゃな。
「それはバッチリ大丈夫だよ。紙の作り方はラス達に前もって伝えてあるから。木は沢山あるし、超優秀な人たちが多いから紙漉きの技術修能する早さが凄くてさ」
おや?今度はレナトゥスが驚いてるし。へへへ。ちょっと嬉しいかも。
「本当にカズキ殿の先見の明には素晴らしいの一言しかありませんが。識字率の問題は…」
「イラストがあるから大丈夫!!ほら、例えばコレ。」
前に見本として作った一枚を見せた。
どうだ?すっげー名案だよな?
あれ?何だろう。変な顔してるし無言になったし。
「主人よ。まさかコレはニワではないよな?何かの魔獣だな?」
「え?ニワじゃん!!ほら二本足だし」
「主人!!とにかく一度黙ってくれ。あまりの衝撃に頭の整理をせねば二人はついては来れぬ。それにだな、イラストには重大な欠陥がある。」
「それは何?」
「それはイラストであれば似た植物など区別がしっかりとつき難いのだ。すると毒草や毒キノコなどを食する可能性があると言う事だ。」
あ!!それは気づかなかった。名案だと思ったけど、イラストの限界が見えちゃったよ。
この案はダメか…。皆んなが無口になった瞬間、俺に名案が降ってきた。
あれしか無い!!
「あ、待って。これなら…」
無地の紙に手を翳してそっと魔力を流した。
出来たぁ。
『念写』魔力バージョン。
コレならバッチリだね…あれ?何で固まったの??
それから動き出すまで暫く不安のまま見つめてたらドッと歓声が上がった。
「凄い!!」
「有り得ない!!」
「私やります!!」
ん?最後は何かな?
「カズキ様。私、見つけました。この本の伝道師となります!!
呪いから目覚めて、私は決意しておりました。健康を取り戻したら皆の役に立つ人間になりたいと。
今こそ私の進むべき道が見えたのです!!」
今度は俺がおや?と言う顔をする番だった。
興奮するお姫様の言葉が、どれほどの本気度で言った台詞かを知るのはもう少し後で。
***
やはり…。
この世界では…そんな台詞はあり得ないモノだ。ただ一人を除いては。
あまりに風貌が変化していて気づかなかった。
と、なれば彼の隣にいるレナトゥス殿は恐らく…。
この出会いは我が王家にとり、その未来を大きく変えるモノとなるのだ。まだ、実感はないが予感はしている。
そして、思いがけないこの出会いは、我が国にとり大きな贈り物だったと、後世の歴史家は書くに違いない…。




