側仕えの誓い…。
バンデ王国に仕える事を誇りとしている我が家は、それでも単なる男爵家。末席にあるモノ。更に言えば、しかもど田舎の貧乏男爵に過ぎない。その三男として生を受けた私が、幸運にも末の姫様の側仕えが出来てのは本当に単なる偶然からだった。
貴族に生まれたならば、一生に一度は城へ上がる機会がある。それを顔見せと呼ぶ。
齢8歳の時に集められるその夜、迷子の姫様を偶然発見した私。しかも人見知りのあった幼な子の姫様が私を気に入って下さったのだ。その時から…。
それからの私の人生の中心には常に姫様があったのに。
呪いに気づいた時のショックは生涯忘れまい。あの品のある姫様が手掴みで肉を喰らい付く様にそこに居た者全てが悟ったのだ。
『呪い』だと。
気づかなかった…気づけなかった。
何という事だろう。
身震いする程の悔しさと我が身の不甲斐なさに厳罰を王へと願い出た私を止めてくれたのも僅かな時間のみ正気にかえる姫様だった。
食欲以外無くなる。しかも食べた物は何故か一切栄養にならない。そして、やがて痩せ細って…。
何という恐ろしい『呪い』なのだろう。
我が主人の為にと国中から薬師も魔法使いも集めた。全ては無駄だったが…。
そして最も最悪のことにこの『呪い』は国中へと広まって国自体も存亡の危機になったのだ。
それが、今。
縛った姫様はテーブルの前にいる。
王太子殿下は彼こそ最後の希望だと言うのだ。
カズキ殿…。
荒削りの木製の皿にあるのは、汁。
パッと見は、単なる水にしか見えない。
あんなモノに気狂い程の食欲に苦しむ姫様を止められるのだろうか。
不安に我々が思っていたその時、唸り続けていた姫様が突然押し黙った。
数時間、監禁して食事をしていない。いつもなら飢餓感から暴れ続けるのに、何故?
「この匂い…何?」
え?
飢餓感に満ちている姫様が喋った?!
「深い匂いの元が辿れない」そう言って乗り出した姫様の口元に彼がひと匙。
あんな事したら、きっと暴れるはずなのに。姫様の動きはまたもや、止まった。
「もう一口下さい!!」
「どうぞ。味、しました?」
この二人のやり取りは、何度も繰り返されその度に姫様の顔から険が取れてゆく。
「レナトゥス、次は茶碗蒸しを持ってきて」
一皿づつ出されるその料理を食べているうちに、姫様の目から滂沱の涙が流れ出して私は思わず乗り出した。
「姫様!!」
ところが転移魔法を使う得体の知れない男に取り押さえられた。
「お前が、あの者を助けたいのであれば主人に任せておけ。必ず成功する。」
取り押さえられた私に王太子殿下の叫びがして思わず身体に力が入った。
「姫様?!」
涙の中から、キラキラしたモノが出てきたのだ。そして…。
「兄上。何故私はここに?」
痩けた頬に浮かんだ笑みは久しぶりのモノだった。姫様の柔らかな笑みは、いつも周りの人々を幸せにしていた。
それが今、戻った。
「カズキ殿、本当に有難い。感謝に絶えないが一つだけお尋ねしても宜しいか?」
「もちろん!!」
「何故、『呪い』は解けたのだろうか?」
「まぁ、自信があった訳じゃないよ。でもね、食べ物は味わって食べるモノ。この呪いはそれを壊していたから。
だから敢えて旨味の凝縮しただし汁を作ったんだよ。
深い旨味や味わいは、人間の脳に刺激を与えるから。何の味なのかって。味覚障害の治癒方法を何かの漫画で読んだ気がしてさ。
偶々、うまくいって良かったよ…」
正直、何の話か王太子殿下は元より私にはさっぱり理解出来ない。
出来ないが、彼が姫様の命の恩人である事実だけは理解出来た。
「主人よ。彼女の身体か出た呪いは捕まえた。やはり魔石を利用した様だ。」
あのレナトゥスとか言うモノの言葉に、唖然としていた我々は振り向いた。
「何と恐ろしい…」
思わず溢れた王太子殿下の言葉にだれが頷いた。
いや一人を除いて…。
「え?魔石って便利道具とかじゃないの?」
カズキ殿…。
常識は全くない。
そして、とてつも無い力と知識をお持ちだ。
王太子殿下の彼を見る目が一段と強くなる。
カズキ殿を是非に、と。
「御礼をしたいので、是非我が家へお越しください。」誘う王太子殿下の横で、姫様が嬉し涙を流しながら、カズキ殿の料理をゆっくり味わっていた。
ここに誓おう。
忠誠を誓ったのは、我が姫様のみ。
しかしながら。
カズキ殿の願いならば…必ず。
静かに心に誓いながら、私はゆっくりカズキ殿へと一礼を捧げた。




