姫をやめた私の居場所は…。
「お茶が入りました。少しお休み下さい。後は近衛で承ります。」
その声に振り向いて椅子に腰掛けた。そう言えば朝から立ちっぱなしで足が疲れた気がする。でも、人生で一番充実しているのが今なのは間違いない。
「殿下、何か気がかりがございますか?」
相変わらず、私に甘い彼の言葉に苦笑いで答える。
「もう、殿下じゃないのよ。気軽にカペラと呼んでよね?」
「とんでもございません。例え、王家がこの国の主人でなくなっても、カペラ様が姫殿下で在られる事に違いは御座いません。」
彼の相変わらずの頑固さに吹き出しながらお茶を飲んでいたら、扉を叩く音がした。
「殿下。ご休憩中申し訳御座いません。今,外にシータ村の村長が来ておりましてどうも緊急だとか…」「無礼な輩は待たせておけ!!姫殿下をお呼びたてするなど。」
「おやめなさい。今からすぐ参ります。貴方も付いてくる?」と、私が答えれば苦虫を噛み潰したような顔で彼も付いてくる。いつまで経っても側仕えの意識が変わらないのね。
友達だと思ってるのに。
相談スペースにいたのは、六十代くらいの汗だくの小柄な男性だった。慌てているのか真っ赤な顔で私の元へ駆け寄るのを近衛に遮られる(心配性の父上がいつまでも近衛を外さないから…)
「殿下。私はシータ村の村長で御座います。この度は突然申し訳御座いません。実は呪いを解く方法があると聞きまして…」
駆けつけた彼の悩みは、やはり『呪い』もちろん私の経験したモノと同じ。
「大丈夫よ。ここにレシピがありますから。の『だし汁』があれば必ずや良くなりよ。」
彼の目から涙が溢れた。
そう。希望が見える事が人間にはとても大事なのだと誰よりも私は知っているから。
『呪い』を解く方法はない。あの時そう言われた。
その常識は、僅かな時間だけ正気に返る私を打ちのめしたけれど,お兄様だけは諦めなかった。それでも呪いの解呪方法は見つからなかった。
もし…あの時カズキ様に出会えなければ。馬車が衝突しなければ私はおろかこの国自体が存亡の危機に瀕していたと思う。意識が戻り救われたと理解した私にカズキ様がレシピ本を見せて下さった時の驚きは忘れられない。
だから私は立ち上がったの。
人々を『呪い』から助けるために…。
『紙』の簡単製法。
更には『念写』と言う途轍もない魔力の使用方法。
その上、あのレシピの数々。
レシピ本を普及させ、国中で『呪い』に苦しむ人々の手助けをする為に開いた『相談室』
それを運営するのだと。
するとカズキ様がまたもや、とんでもないアイデアを告げたのだ。
「あ、それならギルドでやれば良いよ。ヒーちゃんに頼んでおくから!!」と。
そうなのだ。見た事も聞いた事もない『変わり種ギルド』。その一員となる日が来るなんて…。
この『変わり種ギルド』は、冒険者の集まりではない。なんと料理部門・工作部門など聞いた事もない部門で成り立っていたのだ。そして今…。
『普及活動部門』が新設したのだ。
そして、それこそ私の所属している場所なのだ。
「姫様、あの者はいつもの様に近衛にレシピ本を持たせてシータ村へと向かわせました。」今や近衛は、ギルドの隊員なり素早く対応してくれる。解決した様子にほっとしつつ、気がかりを尋ねた。
「大丈夫よ。それよりお兄様から連絡はまたないの?」
「姫様。スピカ様より王宮へご連絡が届いておる旨連絡が御座いました。今日はもう帰りますか?」
まだ、夕方じゃないのに…。嬉しそうにそう言う彼はいつも私を,早く王宮へ戻そうとするわ。
でも、私はいつもギリギリまで粘って頑張るんだけど。気になる。どうしよう…。
そう思った時だった。
コツンコツン…。
窓を叩く音がして振り返って固まった。
真っ赤な鳥がそこにいたのだ。
彼が慌てて窓を開けて中へと促した。真っ赤な鳥は部屋に入った途端に人型になった。
「カペラ、ルサ。滞りなく進んでいますか?」
私達は、慌てて跪いた。
「はい。聖王様。」
「その名で私を呼ぶのはやめなさい。ここではギルド長と呼びなさい。それよりもご主人様より手紙を言付かりました。」
聖域にいると言われる聖王様は、何故かカズキ様を嬉しそうにご主人様と呼びつつ手紙を出してくれた。その手紙には。
『カペラさん。あ、間違えた姫さん。えーと、それも違うか。
そうそう、電化だったっけ。
…。
と、とにかく要件を話そう。
俺たちは既に国境近くに来ているけど問題が発生したんだよ。国境まで一緒に旅する約束のスピカが帰らないって言ってるんだ。
帰りなさいって手紙下さいね。待ってますー!!
追伸 同封のモノはニワの餌です。』
ツッコミ処満載ではあるけど、兄上様は多分帰らないわ。カズキ様についてゆくと決めていたと思うから、引き留められない。
そうギルド長に言ったら。
「やはり。まあご主人様の側にいればその魅力に取り憑かれ離れられやしないのだ。
よし分かった、お前に代わり我より話しは通そう(我がその者の代わりについて行くのでも良いものな…)それより預かりしニワ達はどうした?元気にやっているか?」
『絶滅したと言われているニワ』をお手軽に預け旅立つ際にカズキ様は一言。
「餌やれば、増えるよ」と言われた。そして実際は増えた…増えたけどそれが大問題へと発展したのだ。
とにかく、ギルド長を裏庭へ。
見てもらうのでなければ、始まらないのだ。
裏庭のニワを見て固まったギルド長に、やはりこのお方にしても戸惑われるのね。この事態は…と少しほっとしたのだ。
「この大きさ…あのニワなのか?」
カズキ様に教えられた餌やりをしていたらニワは巨大化し増殖したのだ。
既に人間くらいの大きさになっていた。
「と、取り敢えずこのまま育てよ。しかし…。」
ジッと見つめるギルド長はため息混じりに。
「預かった餌は暫くはニワにあげるのはやめておけ。良いな…」
と言って去った。
もちろん、我々は餌を隠した。やってないけど増える。更に巨大化は進む。
でも問題は変わらない。どうすればと悩んでいたら…。
遂にそれに業をにやした彼が暴走してあの餌をやったのだ。
そして…ニワの問題は解決したのだ。
何故なら。。
ニワは飛べないはずの羽を広げて飛び去ったから。大量の卵を残して。。
カズキ様…あの餌って何ですか?
そんな疑問を呟きながら、カズキ様に同行する兄上様に少しばかり同情しながらも、心の中でエールを送った。
私はこちらで頑張ります…と。




