迫られた選択?!
ー牛視点ー
「行くしかないのよ!!」
甲高い声が頭に響く。あーどうして鳥と言うのモノはこうも、煩いのか。
「羊!!あんた達も行くわよね?」
話しかけられた羊の群れは、変わらずのんきにふわふわしている。
「はい、行きますよ。」
鳥の羽が膨らんだ頃合いに返事が返ってきた。相変わらず仲の悪い奴らだ。
「それよりも、牛。アンタこそ必要とされているのに、なによその態度は!!」
旅に出る。
その一言でこの始末だ。カズキ殿の一言は我らを振り回す。本人は全く無頓着だが。
そもそも…我ら聖牛がこの地に降り立つには訳がある。
それはこの地の長い歴史にあるのだ。
遠い昔、『始まりの地』と呼ばれたいたこの地が魔獣に満ちたのはいつからだったのか。長きにわたって魔獣に汚された場所。そこは我らはもとより、人間達など近づく事すら出来ぬ『災悪の地』と成り果てた。
それなのに…。
あの日。
人間達が『大征伐』と呼ぶモノを我らはこう呼ぶ。
『清浄』
それは呼ばれた一人の人間によって為されたのだ。カズキと言う…。
今、この地は防御壁に守られた場所となり選ばれしモノ達しか入る事を許されぬ地となった。
だが、、
侵入者があったのだ。もちろん、すぐさま排除した。しかしこの事はいくらレナトゥス殿とは言え、万能ではない証拠と言える。だからこそ、我は悩むのだ。
我も神牛だ。
この地に残って助力をするべきでは…と。
「もういい!!それよりもチク様達はどうされるのかしら?」
短気な鳥が同じく羽のあるチク様に尋ねた。
チク様は特別な方だ。恐らくは…。
「当然残る。」
やはり…チク様にはこの地の重要性に気付いておられるのだな。と、ならば…。
「温泉があるのは、ここだけだ。」
。。。
ま、いい。
我のすべき役割が変わった訳ではない。
いくら、単なるニワから神使になったとは言え所詮付け焼き刃。
キチンとした知恵などないのだろう。
この地に残るべき我々の葛藤など…。
「我々はこの地に…」そこまで言いかけて、その後を続ける事が出来なかった。
何故なら…カズキ殿が転移してこの場に現れたのだ。
「あ、皆んな!!旅に出るから支度しといてね。一種族一人づつでお願いします!!
あー、牛さん達はもしかして都合が悪かったかな?ちゃんとご飯も持って行くから大丈夫だけど。もし無理…」「もちろん参ります!!」
。。。
しまった。
突然のカズキ殿の乱入に動揺して、反射的に答えてしまった…。
「そうか。それなら良かったよ。クロは反対するかと思ったから…あ、ごめんごめん。勝手に名付けてしまって。クロ…そう、こっそり呼んでたから。。」
「主人よ。また眷属を増やして。名付けは簡単にしてはなりません!!」
レナトゥス殿に叱られたカズキ殿が即座に転移して、またもや慌たゞしく消えた後…。
予想通り、鳥は煩かった。
特に酷かったのは、残った我に対する鳥の冷たい視線と怒涛の嫌味のラッシュだが。気にならない。何故なら…。
一回り大きくなった我が肉体。
漲る力。
我は変化したのだ。
そしてこの変化は間違いなくコレは名付けによるモノだ。だとすれば…。
『眷属』
しかし、一回り大きくなった我の喜びに沸くどんな声も誰にも届かない。ただ、我は一つだけ呟いた。
カズキ殿。ついて行きます、と…。