追憶の焰魂
目の前で笑っている少女と共にあるのは、遠い昔、前世の記憶、だろうか。。
見たことのない小さき幼子と、それを囲む花たち
私の眼を白く染めた炎から、赫怒に奪われていた意識が回帰する。
「ねーー。ナヒ 私たちは、いつか大きくなるのでしょ、?」
「そうだね。ーーーー」
僕は虚ろ虚ろに見える、白昼夢の木漏れ日とその愛おしい景色
その甲高い聲と無邪気な可憐さに、幾星霜の時を超へて何度夢見、恋い焦がれただろうか。
いまの僕には、もう、その白くボヤのかかった顔を、思い出すことはできない。
「ならね、ナヒ もし、私たちが大きくなったとき、ナヒはそのそばで、一緒にこうやって笑ってくれる?」
、、、
幼子が手を握り、熱心に伝えてくれる。
僕は、なんて答えたんだっけ。
私は、薄ら残る記憶の断片に胸の辺りがじわりと痛んだ。
無様に大事なものを次々と奪われた己の不甲斐なさ
その過去へ恋慕し、執着を捨てられない己
極悪非道の宿敵に、何もすることができなかった私自身の弱さ。
無慈悲に降りかかる残酷な今へ、
ーーーーーーー ーーーーーーー
嗚呼、そういえば、あの子は、あの日。、
戦場で戦死、そう。私の手の中で
ーーーーーー
血だ。
僕の手に
その記憶の傍らに、
「ーーーーー!?!」
血唾に、声が閊えて、まともに声が出ない。
何度も、叫んだ。そう何度も叫んだんだ。
なぁ。ーーー。
ええ。ナヒ。
豪炎のなか、二人の眼が逢う。
刹那、二人を取り巻く炎の火華が彼らの顔を
共に照らし、
眼は、互いの顔を写す
ーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー
ねぇ どうして、僕《私》たちは、離れ離れになってしまったの。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー
手の上で、冷たくなってゆく、愛する人の躰
腕から下へと、垂れてくる大量の赤黒き血
ーー。
お願いだよ。まだ生きているって、言ってよ。
そんな、眼をしないで。
おねがいだから、、
神、仏、強いては悪魔にだって、手すら借りたい想いで、僕は膝をつけて懇願した
ーーーーーーー
暫くの静寂の後、彼女は僕をみて、ゆっくりと口を開く。それはまるで僕の涙を伺うように、言葉を紡ぐ
「ナヒ、、?」
「私ね、分かってたんだ。ナヒとずっと一緒にはいられないんだろうなって」
涙で眼を腫らした顔
朦朧とする、意識の中、私は腕の傍ら、横たわる彼女を抱き抱える。
(なにを言ってるんだ。これ以上喋らなくていい、)
腹に空いたその大きな風穴
虚ろになった眼と、魂の息吹が、途絶えかねない。
聲を出せば死んでしまう。
僕は、腕に抱える彼女の顔を咽び泣いて、眺めた。
あぁ、そうか。もう、助からない、。
" だって、 "
これは、過去の記憶だから。
" " "
消えてゆく彼女の眼の光を追うように、私は咽び哭く。
プツン...
彼女の眼の奥の光が消えた。魂が抜け落ちたように、
俺は、彼女を抱き抱え胸の中で咽び泣いた。
まだ、からだの温もりは残っているから。
「ナヒ」
「私は、貴方のことを、一度だって、憎んでないよ」
まるで、彼女の魂が
優しく微笑みかけてくれているきがした。
ずっと、心につっかえて、思い出せなかった記憶だ。
記憶の奥に仕舞い込んでいた
一番みたくなかった、喪失の記憶
記憶は、そっちのけで、咽び泣く僕をみて、ーーは、クスクスと笑う。
「ナヒが、そんなに私のこと好きだなんて想わなかったけど、。」
どこかで、また微かに
優しく微笑み掛けられたような気がする
「ナヒ」
「そんな、悲しそうな顔しないで、」
涙に、顔を腫らす僕に、頭上から柔らかな声が聞こえてくる。
「ナヒ、?あなたの弱さは私だって知っているんだよ?」
あなたがどんなときに、笑って、どんなときに、涙を流す優しい人なのか
私は知ってる。
彼女の聲
血にまみれた腕と脚。
記憶の甘美さに渇望し続け、過去への遡及を望み続けた。
全てを奪った悪への憎悪が
私の意識を濁していたのかもしれない。
報復ばかりを夢見るうちに、
いつしか、私そのものが記憶の陰になりかけていたのかもしれない。
「ねぇ。おーい。記憶の奥に、逃げ込むおにぃさん。」
不意に、意識を戻すと目の前で幼子が、私の手に触れている。
[その憎しみは何処へ消えて逝くの?]
さきまでの愛しき聲の形とはまたちがう
突然、目の前に現れ、
幼き少女は私に問いかけるように、眼を強く見つめてきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・ハッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そうだ。あの時、私が恋い焦がれ、胸を痛める執念を抱いたのも、抱くことができたのも。
それはあのとき、君が
"「「貴方が、記憶に言葉をつけて、いまから、逃げようとしても、あなたの大切なものは、そこにはない」」"
天より高いところから、聲がした。
にこりと、彼女がこちらを見て、顔を持ち上げる。
「ね、ナヒ。久しぶり」
「げんき?」
目の前に天使のように柔らかな表情の美女が立っている。
「あ、あぁ、げんきだよ」
「相変わらず、綺麗だな、、」
「ふんっ」
「無駄口たたいて。相変わらず私のこと好きすぎ。」
綺麗な顔をくしゃっと、窄めて、拗ねた顔を見せた。
「駄目だよ?過去を後悔して今を蔑ろにしちゃね」
「もしあのときーとか
もし、このときにーとか
そう思って後悔するんなら、あんたはその時に、どうにかできたんだから」
"ルナ"
先に手を握った小さな幼子と、腕の傍らで死に逝こうとしていた、そして、今、目の前で僕を試すように見つめる大人の女性。
二人の輪郭が重なる。
「それができなかったってのは、その時の貴方にはいっぱいいっぱいだったんだよ?」
ずっと、永い間、思い出せずにいた。
記憶の揺り篭に、揺られ
君の顔に、やっと顔を向けられた。
そんな僕に、君は忘却を責め立てることもなく、優しい笑みを浮かべてくれる。
まるで、強い月明かりのように
下をみていた俺は彼女の一言一言へ、はっ、と意識の闇から、陽光が立ち込める。
「やりかたもわからなくて、倒しかたも分からない。ひたすらに、私怨だけ募らせて、いつしか、大事なものすら、色褪せて。」
「でも、それは今の貴方じゃない、
やるせなかったかもしれない。悔しくて、自分すら呪いたかったかもしれない。」
ーーーー
言い返すことはなかった。
思い当たるところがたくさんあるからだ。
でも、僕は彼女の眼をみつめ、しっかりと聲に耳を傾ける。
ずっと、足踏みばかりしていた僕だけれど。
格好つかない、僕はもう
この世にはいない。
いま、あなたの聲を聞くぼくは、前世の魂を持つぼくだ。
「、、、
そのどれもが、あなたが大切に思った一生の中のかけがえのない人達だったんだよ、?」
僕は、ただ、無意識に、涙が頬を伝った。
「あなたのやるせなさは、ただ、クヨクヨと下を向くためのものじゃない。」
「そのやるせなさは、あなたが大切なものを守るために。もう失わないために 手にした強さなんだから。」
「決して、それは、できなかった過去への苦渋でも、遺恨でもない。」
「そんなちっぽけなものなら、ナヒは心踊らせなかったでしょ、?」
そうだった。ぼくはいつも、君の言葉に救われていたんだ
"ルナ"
「君が幸せの木漏れ日を感じられたのは、あなたが、まっすぐ人を見ることのできる人だったから。」
「楽なことじゃないよ?いやーなひとも、いっぱいいるし。」
「なんで、こんなやつに!とか、なんて非道な奴なんだとか、
いっぱい感じるかもしれない。」
「でも、それがあなたの見てきた全てではないでしょ、」
君がいなくなってから
その喪失感にずっと。
ぼくは君の陰を追いかけていた気がする。
記憶の断片が全ての僕を象るのなら。
僕の記憶はまだ覚束ない。、
君の顔と聲、いま、やっと思い出せたんだ。
ずっと、
"回り道"
君が死んだ、あの日から、僕は君を殺した何者かに、誰よりも憎しみ、いつしか、自分の意識すら蝕まれていたんだ。、
でも、その、いまもまだ消えている記憶の多くに、ほかの大切な人の記憶もある。
おそらく、君が死んだ後も、僕は色んな人に助けられて、死なずに力を強めてきた。
まぁ、その多くは、無駄も多くて、ルナから笑われてしまうかも知れないけどね笑
だけど、
"回り道"
その中で、ぼくと君は、であったんだ。
「あなたの感じたかけがえのない愛情は、あなたが、これから、守り抜く、一番の原動力なんだから。」
ルナがこっちをみて優しく微笑みかける。
「もうこれで、下みて折れたりしないね。」
迷ったときは、一度、ゆっくり、胸に手を当てて、喧騒から、抜け出せばいい。
あなたの愛した人達を忘れないで。
憎しみに飲まれてたいせつなことまで忘れないで。
なによりも胸の奥が熱くなる
ほんとうに熱くなって、涙が沢山溢れてくる。
こんな、誰かを愛おしいと思ったのは、たぶん、ずっと前だったと思う
でも、今、失われていたはずの感情が、ルナの言葉と共に舞い戻る感覚なんだ。
胸元を見ると、
紅く染まり、美しい陽光のように、その心の蔵の営みを賛助してくれるかのように、輝き出す。
右眼の心眼と、その瞳孔が、熱く奥に炎の熱を帯びて、。
燄《焰》に、靡くその心眼が、鉱鉄を創り出す。
赤い炎刀が胸から、まるで憎悪と慈愛を兼ね備えたかのように産み出されようとしている。
心央が燃え始め、辺りが陽光に包まれるように、、
まるで、その刀は、どんな苦難でも斬れてしまいそうなほど、洗練された剣で
言葉では形容しがたいほどの、慈愛と不屈に燃える魂の神火は、私の中に永く抑えていた、慈愛と博愛を、象る猛者の証し。
そこから産み出された憎しみと愛慕の鉱鉄は、何者にも折ることはできない
"焰の剣"
いずれその刀は、全ての悲楚を斬り
再び授かったこの生を
人を助けるために、必ず使うだろう。
その日、ルナとナヒが出会った 魂の領域
二人はこの刀を
"心結乃熾刀"
と名付けた。




