無主地《テラ・ヌリウス》
眼前広がる龍炎を前に
死の覚悟をした。
(あの、お姉さんは大丈夫だっただろうか。。)
ムニッ
眼前に広がる巨乳を前に
熾の覚悟をした。
っっ、な、なんだ。
「おい、なにしてる」
ふと顔を上にやると、赤い着物の谷間から、なんとも美しい猩々緋の瞳をしたお姉さんが、僕の顔を見つめている。
「大丈夫か。怪我はしてないか」
至福の声と甘き匂い
灼熱のような緊迫感から解放され、安堵感が僕の心を満たす。、あの黒龍は一体、なんだったんだ。
あの場に留まれば、今頃、僕は、焼死体となって、転生が秒速で、幕を閉じるところだった。
「えぇ、っ、はい。どうにか大丈夫だそうです、」
僕は突然、極悪な黒龍の鱗と、身体を満たす灼熱の流れ。その全てに畏怖と、己の成す術の無さに、、あのとき、ただ、驚嘆せざるを得なかった。
しかし、彼女の救いの手により、間一髪
どうやら、死なずに、ここに残れたらしい。
「助けてくれて、ありがとうございます。」
ふと、口からその言葉が溢れた。
生前、そのような口ぶりをしていたかは、わからないけれど、何故か、むず痒い気持ちになる。
にしても、ここはどこなのだろうか。
先程までとはちがい、辺りは森に囲まれ、
目の前の綺麗なお姉さんが、熱心な眼差しで見つめている。
恐ろしい黒龍に見つめられたときは全身から悪寒が走ったが、いまは、周りに甘い雰囲気がほと走っている。僕に惚れているのかもしれない。
「師匠の子にしては、随分、礼儀正しいな、」
僕の腑抜けた面に、軽く眉をしかめ、
「ただ当然のこと。」
「私は貴方の母から頼まれ、命にかけて守ると決めている。」
真剣な眼差しで、彼女はそう応える。
母、?
この世界で母がいるのだろうか。僕は、母の記憶など無い上に、この世界で初めていま、人と話している。しかし、彼女の真摯な眼差し
何故か説得力と、母の威厳のようなものを微かに感じた。
「母、、」
小さな声で呟いた。
覚束ない自身の輪郭に軽く、心象心理へ
窺いをかける。
彼女はそんな僕をみて、朧気に微笑み、
僕の首に、両手を繋ぎ、抱え込む。
「絢煚、御主の母を助けられなかった。」
「不甲斐ない私を赦してくれ。」
過去へ訝しむ僕を背に、彼女は初めて僕の前で弱みを見せた。
先程までの厳格な面影は、消え いまは、まるで、母を慈しむ娘のようで
しかし、偲ぶ恩師の逝去を悼む愛弟子の様にも見えて
彼女の瞳は、零れる光を帯び。潤み、遺恨に満ちた表情をする。
この矮躯を、抱える彼女の顔は、どこか悲痛で、寄る辺なき寂寥をひた隠しているようにみえた。それは、私を不安にさせぬための繕いかのようで、
「母は、最期、貴方になんと伝えたのですか」
僕は、彼女の忠義心へ敬意を欠かじと、問う。なにも知らぬ余所者かもしれないけれど、彼女の哀愁に茫然自失に振る舞うことなどできなかった。
すると彼女は、涙ぐみながら、続ける。
「師匠は、私に。」
"私が、命を落としたとき、、貴方へ私の息子を託したい。仮に息子が危険な状態なら、代わりに息子を救って、一人前に育てて欲しい。不躾なことは分かっている。でも、貴方にしか頼めない。"
「あの人は、私にそう頼んでいた。」
「なにがあるかわからないからって」
心の喪失を、帯びた語気で彼女は綴く
「最期に会った時、、
あなたの師匠になれたことを誇りだと。そう私に伝えてくださった。」
我慢していたのか、彼女は、忽然、右手で胸を抑え涙を流し、悔しげな顔で、僕の裾を強く掴んだ。
それは哀愁を含み、
想いを馳せるように
裾が伸びて痛かったけれど、それ以上に彼女の無念は、今を恥じぬ強き在り方を保つようで。彼女の満身創痍な虚勢が僕の目に焼き付き
心がチクリと痛くなった。
「もし、母が生きていたのなら、母は、貴方へ感謝したと思います。」
彼女にとってはいらぬ戯れ言かもしれない
しかし、これだけは間違いないだろう。母は、この女性のことを誇りに思い、大きなものを託したのだと
師匠と呼ぶのなら、母は、これほどまでに、涙し、想ってくれる弟子を持てた人だったんだ。
彼女は、その言葉へ悲憤に胸を痛めながらも、涙を拭い、仕切り直すように、軽く咳払いをする。
「、、すまん。名乗るのが遅れて。」
「私は、篝」
「あんたの母の一番弟子で、絢煚、お前と会うのは初めてだ。」
刹那、
彼女の聲を聞いて、震える耳の鼓膜
"かがり"
その響きにナヒをなぞる、世界の意識
まるで、彼女に。
それにしても、赤い着物が本当に似合う。。燃える炎の様な立ち振舞いが、
出会うことを約束していたかのような
ん、、?
彼女は何度も、僕のことを絢煚とよぶ。いま気付いたが、、この世界で、私の名前は、絢煚という名なのか、、?
どんな字を、、?
無意識に流していた彼女の呼び声
私の心の中に、ふと生じた解離感に意識は迷走する。
「そして、ここは無主地」
「どの種族の領土にも属さない」
、、、
私の名前はナヒだ。ナヒ、ナヒ・ヴァレンチノ
ルナが呼んでくれたその時、しっかりと思い出した。前世での名前はナヒだった。
自分の輪郭を確かめるための名前。
ナヒ、、、
僕は
縋る記憶が、曖昧で自分の名前が異なることに。
その二つの名...、ナヒ、、けん、、ひ、 なら、ナヒは絢煚を否定できるのか ナヒって、
"刹那"、彼女の言葉が、馬耳東風のように流れ、記憶の廻廊が繋がっていないことに解離して
その狭間に僕は僕自身に写る
無主地の、その中心で




