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心結乃熾刀  作者: 氣肚愛烙
第ニ章 絢煚の絆
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13/15

無主地《テラ・ヌリウス》


 眼前広がる龍炎を前に

 死の覚悟をした。

 

 (あの、お姉さんは大丈夫だっただろうか。。)


 

 ムニッ


 眼前に広がる巨乳を前に

 熾《し》の覚悟をした。



 っっ、な、なんだ。


 「おい、なにしてる」


 ふと顔を上にやると、赤い着物の谷間から、なんとも美しい猩々緋《しょうじょうひ》の瞳をしたお姉さんが、僕の顔を見つめている。



 


 「大丈夫か。怪我はしてないか」


 至福の声と甘き匂い

 灼熱のような緊迫感から解放され、安堵感が僕の心を満たす。、あの黒龍は一体、なんだったんだ。

 あの場に留まれば、今頃、僕は、焼死体となって、転生が秒速で、幕を閉じるところだった。

 


 「えぇ、っ、はい。どうにか大丈夫だそうです、」


 僕は突然、極悪な黒龍の鱗と、身体を満たす灼熱の流れ。その全てに畏怖と、己の成す術の無さに、、あのとき、ただ、驚嘆せざるを得なかった。

 しかし、彼女の救いの手により、間一髪

どうやら、死なずに、ここに残れたらしい。




 「助けてくれて、ありがとうございます。」


 

 ふと、口からその言葉が溢れた。


 生前、そのような口ぶりをしていたかは、わからないけれど、何故か、むず痒い気持ちになる。




 にしても、ここはどこなのだろうか。




 先程までとはちがい、辺りは森に囲まれ、

目の前の綺麗なお姉さんが、熱心な眼差しで見つめている。

 恐ろしい黒龍に見つめられたときは全身から悪寒が走ったが、いまは、周りに甘い雰囲気がほと走っている。僕に惚れているのかもしれない。


「師匠の子にしては、随分、礼儀正しいな、」


僕の腑抜けた面に、軽く眉をしかめ、

 「ただ当然のこと。」

「私は貴方の母から頼まれ、命にかけて守ると決めている。」



 真剣な眼差しで、彼女はそう応える。

 



 母、?

 

 この世界で母がいるのだろうか。僕は、母の記憶など無い上に、この世界で初めていま、人と話している。しかし、彼女の真摯な眼差し

何故か説得力と、母の威厳のようなものを微かに感じた。

 

 「母、、」



小さな声で呟いた。

覚束ない自身の輪郭に軽く、心象心理へ

窺いをかける。

彼女はそんな僕をみて、朧気に微笑み、

僕の首に、両手を繋ぎ、抱え込む。


「絢煚、御主の母を助けられなかった。」

「不甲斐ない私を赦してくれ。」


過去へ訝しむ僕を背に、彼女は初めて僕の前で弱みを見せた。

先程までの厳格な面影は、消え いまは、まるで、母を慈しむ娘のようで

しかし、偲ぶ恩師の逝去を悼む愛弟子の様にも見えて

彼女の瞳は、零れる光を帯び。潤み、遺恨に満ちた表情をする。


この矮躯を、抱える彼女の顔は、どこか悲痛で、寄る辺なき寂寥《せきりょう》をひた隠しているようにみえた。それは、私を不安にさせぬための繕いかのようで、



「母は、最期、貴方になんと伝えたのですか」



僕は、彼女の忠義心へ敬意を欠かじと、問う。なにも知らぬ余所者かもしれないけれど、彼女の哀愁に茫然自失(ぼうぜんじしつ)に振る舞うことなどできなかった。

すると彼女は、涙ぐみながら、続ける。

「師匠は、私に。」


"私が、命を落としたとき、、貴方へ私の息子を託したい。仮に息子が危険な状態なら、代わりに息子を救って、一人前に育てて欲しい。不躾なことは分かっている。でも、貴方にしか頼めない。"


「あの人は、私にそう頼んでいた。」

「なにがあるかわからないからって」


心の喪失を、帯びた語気で彼女は綴く


「最期に会った時、、

あなたの師匠になれたことを誇りだと。そう私に伝えてくださった。」



我慢していたのか、彼女は、忽然、右手で胸を抑え涙を流し、悔しげな顔で、僕の裾を強く掴んだ。

それは哀愁を含み、

想いを馳せるように

 裾が伸びて痛かったけれど、それ以上に彼女の無念は、今を恥じぬ強き在り方を保つようで。彼女の満身創痍な虚勢が僕の目に焼き付き

心がチクリと痛くなった。



「もし、母が生きていたのなら、母は、貴方へ感謝したと思います。」



 彼女にとってはいらぬ戯れ言かもしれない

しかし、これだけは間違いないだろう。母は、この女性のことを誇りに思い、大きなものを託したのだと

師匠と呼ぶのなら、母は、これほどまでに、涙し、想ってくれる弟子を持てた人だったんだ。


 彼女は、その言葉へ悲憤に胸を痛めながらも、涙を拭い、仕切り直すように、軽く咳払いをする。


 「、、すまん。名乗るのが遅れて。」

「私は、篝《かがり》」

「あんたの母の一番弟子で、絢煚《けんひ》、お前と会うのは初めてだ。」



刹那、

彼女の聲を聞いて、震える耳の鼓膜



"かがり"




その響きにナヒをなぞる、世界の意識



まるで、彼女に。

それにしても、赤い着物が本当に似合う。。燃える炎の様な立ち振舞いが、

出会うことを約束していたかのような



ん、、?




彼女は何度も、僕のことを絢煚《けんひ》とよぶ。いま気付いたが、、この世界で、私の名前は、絢煚という名なのか、、?

どんな字を、、?

無意識に流していた彼女の呼び声

私の心の中に、ふと生じた解離感に意識は迷走する。



「そして、ここは無主地《テラ・ヌリウス》」

「どの種族の領土にも属さない」


、、、


私の名前はナヒだ。ナヒ、ナヒ・ヴァレンチノ

 ルナが呼んでくれたその時、しっかりと思い出した。前世での名前はナヒだった。


自分の輪郭を確かめるための名前。

ナヒ、、、

僕は

縋る記憶が、曖昧で自分の名前が異なることに。

 その二つの名...、ナヒ、、けん、、ひ、 なら、ナヒは絢煚を否定できるのか ナヒって、


"刹那"、彼女の言葉が、馬耳東風のように流れ、記憶の廻廊が繋がっていないことに解離して

 その狭間に僕は僕自身に写る

無主地《テラ・ヌリウス》の、その中心で

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