↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィオナ・ノースヴェイル伯爵令嬢の好きなもの  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/32

29話(ユリウスside)




「ユリウス・ヴァーガスだな。

噂には聞いている、かなり優秀な生徒だと。

どうだ?将来私の側に仕える気はないか?」


まだ復興は終わっていない中、当主様の計らいによって俺達は冬休み明けに学園に戻ってくることになった。


「ノースヴェイルは大丈夫か?」

「無理してないか?」


そんなクラスメイト達の温かい言葉や変わらない日常に触れると、学園で過ごす日々がどんなに尊いものだったのか身に染みてわかった。


学園に戻って数日、雪崩によって変わってしまったものもあるけど、フィオナはレイラー嬢やクラスメイト達に甘える天真爛漫な姿を少しずつ取り戻していた。


その油断のせいか、次の授業で使う予定の教科書を忘れたんだと。


なんでよりによってあの日だったのか。

今更言ったところで仕方ないことなんだけど。


変なやつに借りて来られても嫌だからその日もいつものようにフィオナには俺の教科書を貸して、騎士科へ教科書を借りに行ったんだ。


忘れもしない。

廊下で突然声をかけられたんだ。

話したことなど一度もないはずの相手、この国の第二王子、レオニード殿下本人から。


そしていきなりの勧誘。


「えぇ…」と声が出そうになるのをなんとか抑えて、その場では大人しく話を聞く姿勢をとった。


「王太子になる兄は男爵令嬢にうつつを抜かし、自分本位に権力を振りかざし、真の婚約者を蔑ろにしている。

そんなものに未来の国王が務まると思うか?」

「…はぁ、そうなんですね。」


レオニード殿下の側近の生徒達に誘導される形で空き教室へ引き込まれると、突如始まった芝居めいた演説。

いきなりのことになんと答えればいいのか分からず気の抜けた返事しか返せなかった。

周りにいた側近の生徒達から視線が刺さったが、レオニード殿下は気にした様子もなく続けた。


「ノースヴェイルに対する支援要請書を確認させてもらったよ。

聞けばあれをまとめたのは君らしいな?」

「そうですね。」


当主様から届いた情報や、考えられるリスクや今後の見通しをまとめた書類だ。

あの時のフィオナは指示や謁見の準備に追われて忙しそうにしていたし、俺にもできることをしただけだったけど。


「実によくできていた。

そこで、先程も言ったように私が王位についた先には仕えてもらえないだろうか?」

「え?」

「ノースヴェイルは先の災害で大打撃。

婿入りをする旨みもないだろう。

子爵家三男という立場なら気にしなくていい。

私に仕えてくれればそれ相応のポストは約束させてもらう。」


「何を言ってるんだろう、この人は」と本気で思った。

だってその時の王太子はまだ第一王子であるアーノルド殿下だったから。


確かにアーノルド殿下の問題行動は目に余る部分も多かったし、順当に行けば第二王子であるレオニード殿下が次の王太子に抜擢される可能性も大いにあったと思う。


でも決して確約されたものではないのに、レオニード殿下はあまりにも堂々と王位を口にしたんだ。


「殿下、そこから先は私が。」

「頼むぞロザリー」


そして一歩前に踏み出したのはアーノルド殿下の婚約者であるロザリー公爵令嬢だった。

少なくともあの時点では、まだ婚約者だったはずだ。

だが、レオニード殿下はロザリー公爵令嬢の腰を抱いていて、その距離はあまりにも近かったように思う。


「ノースヴェイル家のことならご心配なさらずに。

我が家からも支援いたしますし、フィオナ様はアルドベルド侯爵家の次男のカーライル様と婚約を結ばせていただきますから。」


淡々と告げられた言葉。

正直支援はありがたかったが、簡単に飲み込める話じゃなかった。


俺はフィオナの婚約者から外され、そのフィオナはカーライルとかいう男と婚約させられる?

本人の意思に関係なく?


咄嗟に「ふざけるな」と叫びそうになるのをなんとか堪えた。

実家やフィオナ達に迷惑をかけるわけにはいかないからと。


「どうだ?魅力的な話だと思わないか?」


俺たちの気持ちも知らずに勝手に盛り上がって決めつけて。

自分たちが正しいことをしていると疑いもしない。

ただ相手は王族と公爵家。

なんとか冷静を保ちながら俺は言葉を告げた。


「…少し考える時間を頂けますか。」

「もちろんだ。

確かに不安もあるだろう。

返事は卒業式で私が王太子に決定してからでも構わないさ。」

「…寛大なお言葉ありがとうございます。」


そうして、その場はなんとか切り抜けたが、長話のせいで授業には遅刻するし、騎士科のやつに教科書を借りに行く暇もなかったしで本当に散々だったんだよな。


「どうしたのユリウス?大丈夫?」

「フィオナ…」

「重っ、ちょっと、本当にどうしたの?」


俺が不機嫌そうに見えたのか、心配したフィオナに声をかけられてそのまま抱きしめた。

離れる未来なんて想像できない。

別に俺は身分が欲しいわけじゃない。

ただ、支援のこととかフィオナにとってカーライルという男と結ばれる方が幸せなら身を引いた方がいいのだろうか。


「…フィオナはカーライル・アルドベルドってやつ知ってる?」

「知ってるよ」

「え?」

「女好きで有名な貴族科の人でしょ?」

「女好き、なのか?」

「サンドラとも話してたけど、絶対に近づきたくないねって。

その人がどうかした?」


フィオナの話を聞いてすぐに決めた。

この話は絶対に断ると。

問題はなんと断るか、なんだけど。


結局どう断ればいいのかわからないまま卒業パーティーの日を迎えたんだ。


まさか本気でアーノルド殿下達が、フィオナと見た、いつかのオペラのような婚約破棄をするとは思わなかったけど。

そして、レオニード殿下もそれを公の場で断罪しようとするなんて。


結果、陛下が両者に王太子としての素質なしを告げ騒動は幕を閉じた。


それはそうだ。

アーノルド殿下達は自分達の気持ちを優先するがあまり周りを見ていなかったし、レオニード殿下達は正論を振り翳し、その先にある他者の気持ちを考えなかった。

このままでは両者共に碌な王にはなれないだろう。


第三王子はまだ幼いが婚約者と仲も良く、優秀な方らしいから少なくとも二人よりは安心できるに違いない。


「ユリウス、なんか嬉しそうだね?」

「めんどくさい宿題が今片付いたんだ。」

「え?卒業なのにまだ宿題してるの?」

「まぁ、そんなとこ。」


それより俺と合わせたドレスを身に纏う彼女はとても可愛かった。


「お手をどうぞ?」

「何よ、改まって?らしくないよ。」

「学園で踊るのは最後になるから、最後くらいはしっかりエスコートしてやろうと思ったのに。」

「嘘!嘘だからかっこよくエスコートして!」


そんな騒がしい卒業パーティーを終えて、ノースヴェイルへ戻った。

数ヶ月で少し進んだ復興。

中にはもうお店を開けている人もいた。

ジャスさんの肉屋台からはあの串焼きの匂いがしていた。





__________


そして、二年の月日が流れた。

仮住まいを提供していた最後の夫婦が先日新しく建てた家へと引っ越した。

雪崩対策のためのダムの建設も進んでいる。

勿論失われたもの全てが戻ったわけじゃないが、ノースヴェイルはすっかり昔のような雰囲気を取り戻しつつあった。


そして延長されていた結婚式が今日だ。

幼い頃からずっと好きだったフィオナとついに結婚するんだと思うと感慨深くて、つい物思いに耽ってしまった。

大変なことも多かったけれど、王都での学園生活は楽しかったと思う。

写真に映るフィオナはいつだって笑顔だから。


フィオナの隣で笑うレイラー嬢は委員長と卒業して少し経ってから結婚式を挙げて、今はよちよち歩く程度の赤ん坊を抱いている。


今回の結婚式にも参列してくれていて、前日に顔を合わせた際にはフィオナがはしゃぎすぎてて止めるのに一苦労だった。

本番にやられるよりはマシなんだけど。

あのまま放っておいたら無限にベビーグッズを買い与えそうだった。


「ユリウス様、フィオナ様のご準備が整いましたよ。」

「わかった。今行くよ。」


俺はよく知らないけれど、フィオナの花嫁衣装は王都で有名なデザイナーにかなり前から予約をしていたらしい。

かなりの出来らしく、楽しみにしておいて欲しいと今日まで見せてもらえてなかった。


一つわかるのは彼女は今日も…なんて言ったら怒られるので、いつも以上に綺麗なんだろう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。