16話
「さて、早速だが文化祭の企画を提出をしろ。」
始業式から数日。
担任から言われたのは秋に行われる文化祭の企画についてだった。
経営科としては一年を通して一番重要な本丸と言っても過言ではない行事だ。
私達の通っている王立学園には一年を通して様々な行事があるのだが、林間合宿のような学年行事もあれば、体育祭や文化祭など科ごとに区切られる行事もある。
私達は今年三年生のため、後輩達を指導する立場になった。
去年や一昨年、先輩達が後輩である私たちにそうしてくれたように。
「例年の他クラスの出し物傾向からまずは整理をしていこうか」
一般科は下町の流行りの食べ物を中心に売る屋台を展開することが多い。
去年のメインは果肉をそのまま使った果実水。
それ以外にも中庭全体を貸し切りチキンやポテトなどの軽食も売っており、城下町から訪れる外部客からの人気が高い傾向にあった。
「委員長、まさかとは思うけど全部のクラスの出店物と客層まで覚えているの?」
「勿論だ。昨年は全部の屋台を回ったからな。」
「やっぱりちょっと怖いかも…」
「気持ち悪いよりも傷ついた。」
「ルーカス!話を進めてちょうだい!」
サンドラの一声。
委員長はしょんぼりした様子で話を続けた。
侍従科は毎年お客様をお嬢様や旦那様などに見立てたお茶会を開く。
普段授業を受けている教室をいくつか使って、それぞれ希望するシチュエーションのお茶会に参加できるらしい。
「写真サービスなんかも行っているから全体的に女性人気がとても高い。」
貴族科はそれぞれの実家からの融資もあり、言い方は悪いが金に物を言わせて、有名なオペラやオーケストラを呼んだり、絵画展などを行うことが多い。
ターゲットは学園生徒達の保護者層になる。
「以上のことから狙うなら男性や男子生徒をターゲットにするのはどうだろうか?」
委員長の言葉に皆が頷いた。
確かにターゲット層を確実に確保するためにはそれがいいのかもしれない。
ある程度傾向が決まっている他クラスと比べて経営科は比較的自由に、毎年様々なことに取り組んでいる。
隣国から最新技術を取り寄せて体験会をしたり、商会出身の生徒達が中心となって疑似商会経営をしたこともあった。
きっと卒業してしまった先輩方もこうして情報を整理して企画していたんだろう。
「さて、今年は予算が増えたから、ある程度何でもできるぞ。」
委員長が続けて経営科の過去のデータと共に黒板に書き始めた。
過去十年分の売り上げとその利益、デメリットやメリットなどが事細かく記載されていった。
「委員長それどうやって集めたんだ?」
「夏休みにOBの家回ってきた。」
「…暇だったのか?」
「暇じゃない。
サンドラとたくさんデートをしていた。」
「ルーカス!」
「ラブラブでいいね!」
「ちょっと!フィオナも茶化さないで!!」
再び脱線してしまいそうになる話し合いは後ろで見守っていた担任の咳払い一つで修正された。
「このデータを見るにカジノ運営がいいんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?」
「ちょうど十年前の企画だな。
でも、この時だけ経営赤字みたいだけど?」
「…あぁ、それは当時の運営側生徒に壊滅的にカードが弱い生徒がいたらしい。」
「…まさかそいつ一人で?」
「恐ろしいだろう?」
「十年経ったその人は今?」
「ギャンブルとは無縁の世界で堅実に生きてらっしゃったよ。
今は財務大臣補佐になっていて、聞き取り調査に行ったら笑い話として教えてくれたんだ。」
他にもいくつか候補は出たが概ね最初に出たカジノ運営がいいんじゃないだろうかという話にまとまった。
仮想チップを制作し、チップの再換金はなし。
残りチップは景品と交換すると言ったルールにすれば確実に利益を出すことができる。
当時はチップの再換金制度があったから赤字になったらしい。
「じゃあ先生、今年の経営科はカジノ運営で行きます」
「わかった。
過去に実績もあるし問題はないだろう。
詳細も決まり次第報告してくれ。
俺は職員会議行ってくるから。」
担任の言葉に皆が行儀よく「はーい」と返事をするとカジノの詳細について話し始めた。
「カジノと言ったらカード?」
「カードならブラックジャック、ポーカー、ハイ&ローくらいじゃないか?
あとはルーレットとスロット、隣国じゃサイコロ降って偶数奇数を当てるゲームなんかもあるみたいだな。」
「流石に全部は無理だからわかりやすいものでいくつかの候補に絞るか。」
こういうのはやはり男子生徒達の方が好きみたいで夢中になって話を進めていってしまう。
ついていけずに取り残された女子達はゲームのルール作りは男子生徒達に任せることにしてさっさと内装や提供するドリンクや軽食の話で盛り上がり始めた。
「カジノと言ったら赤と黒ってイメージよね」
「トランプの柄をモチーフにした絨毯とか敷いてみますか?」
「素敵じゃない!」
「ドリンクの提供はどうする?」
「アルコールって許されるのかしら?」
そして時間の許す限り話し合いを重ね、企画が出来上がっていった。
勿論まだ細部を詰める必要はありそうだけど大体は形になったように思う。
「フィオナは何やるか決めた?担当」
「ユリウスがフロアはダメだって。」
「…あぁ、そうね。
確かにルーカスも私にダメって言っていたわ。」
「じゃあサンドラも一緒に裏方やろう」
「そうね。ちょっと着たかった気もするけど。」
「フロア担当のミニドレス絶対可愛いよね!」
「そう!隣国で流行ってるってやつね!
でも、足が出るからダメだとかって…
別に裸で歩くわけじゃないのにね?
本番は無理でも、後で一緒に着てみる?」
「賛成!」
男性をターゲットにするなら華やかな方がいい。
そのためフロアや宣伝は女子が担当することに決まった。
しかし、その衣装となるミニドレスのスカート丈が短いので、私達同様に婚約者のいる女子達はなるべく避ける形になり、それ以外で希望者を募ることになった。
隣国の流行りとはいえ、普段より短いスカートに抵抗する生徒も多いかと思ったのに意外にも希望者は多く…
聞いてみれば、可愛い格好をして恋人を作りたいのだとか。
その時の女子達の圧力は凄まじかった。
勿論、不埒な輩が出ないとも限らないのでディーラーや換金係、他にも男子生徒達は多数配置することも決まっている。
「ルーカスは景品交換と換金だって言ってたけどヴァーガスはなにやるの?」
「ユリウスはディーラーやるんだって。
絶対かっこいい。
ユリウスにならお小遣い全財産あげてもいい。」
「フィオナなら本当にやりそうね…」
私はユリウスになら喜んで搾り取られたいけど許されるはずもなく。
本番は貴族科の男子生徒達から特に搾り取るつもりらしい。
変に負けず嫌いでプライドも高い。
最初は勝たせて、調子に乗ったところで…なんて、悪い顔をしながら話し合っていた。
破産して泣く人が現れなければいいけど。
会場は二階の中央ホール。
カーテンや絨毯などは、実家で織物を中心に取り扱っている生徒の両親が届けてくれるらしい。
大人らしい雰囲気づくりのためにバーカウンターも設置してジュースやヴァーガス産のワイン、つまみにノースヴェイルのチーズを提供。
それぞれ予算とは別に提供できるものや宣伝したいものを取り入れながらどんどん形になっていくのは見ていてとても楽しかった。
「…はぁ」
「どうしたの委員長?」
「生徒会が書類に判をくれないんだよ。」
「え?なんで?先生達の許可も取れてるのに?」
「リリア男爵令嬢が、『お金儲けなんてダメです!皆で楽しむための文化祭ですよ!』って言って生徒会長の殿下がそれもそうだって。」
「はぁ?俺ら経営科なんですけど。」
「というか、リリア男爵令嬢って生徒会でもなんでもないよな?」
準備を進めているのに思わぬところから横槍を入れられて皆面白くなさそうな表情だった。
アーノルド殿下とリリア男爵令嬢とロザリー公爵令嬢で揉めるのは勝手にしたらいいと思う。
でもまさかこんなところまで口を挟んでくるとは思わなかった。
「委員長その書類ってなんの書類?」
「学園祭の案内パンフレットに載せる内容かな」
「ふーん?判は絶対貰えなさそう?」
「…あの様子じゃ無理だろうな…」
「ならパンフレットに載せなくてもいいんじゃない?」
「ノースヴェイル嬢?どういうことだ?」
「運営許可は先生方が出してくれているんだから問題ないでしょ?問題は宣伝方法。
学園祭パンフレットに載せることができないなら、予算内で私たちが独自にポスターとかチラシを作ったらいいんじゃない?」
「なるほど!!」
「そのチラシを持参してくれた人にはチップを追加するサービスをしたらどうかな?」
「採用だ!
早速印刷業をやっているやつに話をつけてくるよ!
ありがとうノースヴェイル嬢!」
「いえいえ」
別に学園のパンフレットのページに載らなくてもいい。
頼み込んでまで載せてもらうことでもない。
絵を描くのが得意な生徒にポスター制作を頼み、印刷業を行っている生徒がそれを大量に印刷する。
パンフレットはそれを綴じる工程も必要だが、印刷なら刷ったまま配ればいい。
生徒会のメンバーに何かを言われたとしてもパンフレットには載せていないし、運営の予算内でチラシも作るんだから文句は言えないはずだ。
「フィオナーこっち手伝ってー!」
「はーい!今行くよー!」
文化祭まで残すところあと二週間。
後輩達も真面目に取り組んでくれているようでトントンカンカンと何かを作る音は止まることがない。
それぞれが真剣に、でも楽しそうに取り組んでいる姿を見ていると、きっと最高の文化祭にできるだろうと期待が高まっていった。




