第八十七話 採用!
ゼンの腕前は確かだが、さすがに俺たちだけでは雇うかどうかは決められない。なのでホーリーとルーンを交えてさらに詳しい話を訊くために、ゼンを屋敷に招いた。
「あんた、荷物はそれだけか?」
見れば、ゼンの荷物はそう大きくもない背負い袋一つだけだった。
「修行を兼ねていますので、荷物はこれで充分なのですよ。それに、元より男の一人旅。着の身着のままだとて、誰に気を使う必要がありましょうか」
「なるほど。違いない」
俺が頷くと、ゼンは「でしょ?」とにっこり笑う。
そうこうしているうちに屋敷に到着。まだ腹が痛そうなコングに馬を任せ、俺はゼンを案内して屋敷の中に入る。
「ゼンと申します。何の変哲もない旅の僧侶でございます」
「だから、そういうのは自分で言わないんだよ……」
応接室に全員集まると、改めてゼンは自己紹介をした。
「……で、自分を傭兵として雇えって? 僧侶なのに?」
俺から話を聞いて、ルーンがあからさまに怪しいという目つきでゼンを値踏みする。
「随分と自信満々だけど、あんたほんとに強いの?」
「拙僧の力量に関しては、既に証明済みかと思いますが」
「そうなの?」
そう言ってルーンがこっちを見ると、コングはバツが悪そうにその巨体を縮めた。
「素手の一撃でコングを沈めたのは見事だった。だがそれと戦での実力は別の問題だ」
「え!? コング負けたの? しかも素手の相手に一発で!?」
うひゃ、と最高のおもちゃを見つけたような顔と声でルーンに見られ、コングはさらに小さくなる。
「うるせえ。相手が素手だったから油断したんだよ……」
そう、所詮は素手だ。戦場で武器を持った相手に、果たしてどこまで通用するのやら。
「今さら言うのも遅いですが、別に貴方は武器を使っても良かったのですよ」
「どういう事だ?」カチン、と音がしそうなコング。
「徒手空拳なのは拙僧の都合。だが素手にて武器を持った相手を制圧する事こそ、拙僧の最も得意とする事です。恥ずかしながら、読経よりも」
「つまり、あんたは戦場でも素手で戦うってのか?」
「左様。お疑いなら、もう一度お試しになっても結構ですよ。勿論、今度は武器を使って」
ゼンの一言で、応接室の空気がきんと冷える。そして凍てついた空気を溶かす物凄い熱が、コングの身体から発せられていた。
いくら調度品の無い質素な応接室でも、ここでおっ始められると物が壊れる。どうにかこの場を諌めないと。そう俺が考えていると、
「じゃあ、見せてもらいましょうよ」
ホーリーの朗らかな声が響いた。そしてその一言だけで、室内の空気が一発で清浄化された。
「ゼンさんは傭兵さんもやってるんでしたよね? だったら今の言葉、今度の戦で証明してもらいましょうよ」
名案でしょ、とホーリーが胸の前でぽんと両手を合わせると、胸がゆさっと揺れた。
「では、雇っていただけると?」
俺は少し考え、コングたちのほうを見る。
コングは苦虫を一樽分噛み潰したような顔をしているが、首を横に振る事はしなかった。ルーンはにやにやしている。ホーリーは言わずもがなだ。
決まったな。どうせ戦力はひとりでも多いほうがいいんだ。
「わかった。あんたを雇おう」




