第五十八話 反省会
戦が終わって一晩明けた翌日。
俺たちが住む領主の館の食堂は、朝から重苦しい空気に満たされていた。
四人が使うには広すぎる食堂には、これまた四人が使うには大きすぎるテーブルがある。というか、この館の何もかもが俺たち四人では持て余すのだ。前の領主たちはきっと、この館に数人の召使いを置いていたのだろうが、冒険者から成り上がりたての新米領主の俺たちに、そんな余裕は無い。
有り余る空間を神妙な空気に埋め尽くされて俺がげんなりしていると、突然ルーンが咳払いをした。
「え~第一回反省か~い」
妙に気の抜けた声で宣言すると、ホーリーとコングが同じように脱力した声で「いえ~い」とか「わ~」とか適当な合いの手を入れて、心底やる気のなさそうな拍手をした。
いきなり始まった妙ちくりんな展開についていけず、俺は独り呆然と座っている。おかしいな。ここはホーリーの作った美味い食事をみんなで楽しく食う場所だったはずなんだが、どうしてこういたたまれない気分になるんだろう。
それはきっと、席がいつもの横並びじゃなく俺が上座に座らされて、まるで吊るし上げられているような状態になっているせいでもあると思う。いや、まるでもクソもなく、まさに吊るし上げられている。
その証拠に、おざなりな歓声と拍手が終わってルーンが「さて、」と前置きをすると同時に、みんなの視線が一瞬で俺に向く。視線が痛い。
「スレイ、何か言いたい事ある?」
「え? うん……あ、そうだな。みんな、昨日はお疲れ」
俺が労いの言葉をかけると、何故かみんなは盛大に溜息をついた。さすがに昨日の今日だから、まだみんな疲れが抜けていないのだろうか。
「お疲れって、お前それだけか?」
狂人でも見るような目でコングが訊く。確かに、お疲れの一言だけでは不足しているな。
「みんなのおかげで被害は最小限に留められた。コングは後半俺が抜けた穴を――」
「そうじゃねえだろ!」
どん、とコングが分厚いテーブルを拳で殴ると、乗っていた全ての食器が一斉に飛び上がった。
「違うのか?」
「お前、昨日の戦で敵将の手足全部斬り落としたんだって?」
俺は黙って頷く。
「んで、ホーリーにくっつけさせてから、国に帰らせたって? いったいどーいうつもりだよ? お前ならそこまでやらなくても、楽に勝てる相手だっただろ」
「どういうつもりって、」
それから俺は、自分の考えを話した。圧倒的な力の差だけでなく、肉体的な痛みによる恐怖を深層心理にまで植え付ければ、もう二度と俺たちに手を出そうとすら考えなくなるだろうと。
話が終わると、再び全員がそろって大きな溜息をついた。
沈黙が流れる。
「あんたさあ――」
最初に口を開いたのは、ルーンだった。
「そんなんで本当にもうあいつらが攻めて来なくなるって、本気で思ったの?」
「ああ」
「ばっかじゃない」
返ってきたのは、本気の罵倒だった。
「あんたの言ってる事は、ある意味間違いじゃないよ。けどそれは規模の小さな、それこそ街のチンピラ程度までだ。
だが今回の相手は違うでしょ? 軍だ。国という看板背負って喧嘩売って来た、人を殺しておまんま食ってるその道一筋の連中だ」
「どう違うんだ? どっちも頭を潰せば下の連中は無力化するだろ」
「だから、その頭の数がケタ違いなのよ。あんたが潰したのは、無数にある頭のうちのたった一つ。向こうさんにしたら、痛くも痒くもないの」
しかも、とルーンは俺に念を押すように人差し指を突きつける。
「あんたはせっかく潰した頭を、ご丁寧に元に戻して送り返しちゃったの。これ、どーいう意味かわかる? わからないでしょ? だからやっちゃったんだもんね。
あんたはね、あろうことか敵国に対して喧嘩を売っちゃったの。ここに、お前らの大将の一人をこてんぱんにしてやった奴がいるぞって、大声で知らしめちゃったの。そうしたら、次にどうなるか教えてあげようか?」
「お、おう……」
「そんなに強い奴がいるんだったら、どんな奴か見てやろうじゃないか、って腕に覚えのある連中がこぞって来るのよ。ここに!」
テーブルをばんばん叩きながら力説するルーンと、その音に合わせて頷くコングとホーリー。
どうやら俺は、とんでもない間違いをやっちまったようだ。




