第五十七話 戦に勝って恨みを買った
「くっつけてって、そんな簡単に言わないでよ」
「無理なのか?」
俺の問いに、ホーリーは敵将の身体の切断面と斬り落とされたほうの手足の断面を丁寧に観察する。
「断面は綺麗だから一応くっつくと思うけど、一度切断された手足は完全には元通りにならないかもしれないのよ」
「それなら問題ない。別に元通りにしなくても、ただくっつけばそれでいい」
「いいの?」
「ああ。だいたい、元通りにするくらいなら最初から切断なんかしない。それより、血が足りなくなるから早くやってくれ」
「わかった」
ホーリーはまだ完全に納得がいかないという感じだったが、これ以上迷っていると敵将が失血死しそうだったので、治癒魔法で敵将の手足を治癒し始めた。
「とりあえずくっついたけど、元通り動くかどうかはわからないわよ」
「むしろ完全に治らないほうがいいんだよ。……お、そろそろ目を覚ましそうだ」
ホーリーの治癒魔法で手足がくっつき、血の気の戻った敵将が小さく唸る。やがてゆっくりと目を開くと、俺を見て激しく身体を震わせた。
「き、貴様!」
「おっと、まだ動かないほうがいいぞ。何しろさっき手足をくっつけたばかりだ。下手に動かすとまた取れちまうぞ」
俺が脅しをかけると、敵将はせっかくついた手足が取れるのを恐れたのか大人しくなった。
「……何が望みだ」
「お前を生かしておいたのは、お前の口が必要だからだ。殺してしまっては、次の誰かが大将になってまた攻めてくるだけだからな」
「俺にこのまま生き恥を晒せと」
「運が良ければ手足も少しは回復するだろう。いい術者に治癒してもらうんだな。だがお前がそうなった事実は、お前が身を持って自分の国で喧伝してもらう」
「つまり、お前たちの領地に手を出すとこうなる、という事か」
「そうだ。せいぜい派手に言いふらして、二度とお前みたいな奴を増やさない事だな」
俺の言葉を理解したのか、敵将は屈辱と生還の喜びの入り混じった複雑な表情をした。
そうしている間に、ホーリーが空いている馬を拾ってきてくれた。俺は手足の自由がきかない敵将をどうにか馬に押し上げる。その面倒さに、今さらながら片腕くらいは残したほうが良かったかもしれないと後悔する。
「さっさと手下を連れて帰れ」
そう言って馬の尻を叩こうとした俺の手を、敵将の言葉が止めた。
「これで勝ったと思うなよ。お前が俺をどれだけ貶めようと、この程度の事で怯む者など我が国には一人もおらぬわ。むしろ火に油を注いだだけだ。俺をこんな目に遭わせた奴はどんな奴だと、国中の猛将がお前の命を狙って駆けつけてくるだろう」
「……だったら、全員お前のように手足を斬り落として送り返すだけだ」
あれ? とことんまで痛めつければ二度と歯向かう気にはならないだろうと思っていたが、却って敵の恨みを買ったような気がする。
ともあれ、やってしまった事は今さらどうしようもない。俺はなるべく平静を装いながら、馬の尻を軽く叩いて歩かせた。
こうして、俺たちが領主になって最初の戦が終わった。
だがこれは始まりに過ぎなかったと、今の俺は知る由もなかった。




