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32、愛のお菓子は甘酸っぱい

2月13日。



世間の中学生が皆受験やらなんやらで焦っているという時にゆっくりできるというのはなかなか優雅なものだ。俺はお気に入りのブラックコーヒー・・・ではなく午後ティーを飲みながらゆっくりと時間が過ぎるのを待つ。

今日も実央は早百合とどこかへ行っている。ここ最近実央と一緒に帰っていない。まったく、お兄ちゃんは寂しいよ・・・。



そんな実央が帰ってきたのはいつもと違って夜遅くになってからだった。疲れて溜息をついていたが、その顔はまんざらでもなく嬉しそうだった。

俺はこの間直樹と話したことを思い出した。



(きっと実央ちゃんに好きな人が・・・)



そんなわけないよな、と思いつつやはり気になる。聞こうか聞くまいか悩んでいたところで俺の悪い癖が発動して考えが口に出てしまっていた。



『ちょっとちょっと・・・そんなわけないよ!あたしが好きなのは圭佑だけだよ?』



俺は一瞬、しまったと思ったが、せっかくだしこの際追求してみることにした。



『直樹も言ってるんだ。あいつは早百合だけどな。でもこんなに長い期間内緒の行動をされるとやっぱり気になるだろ』



『だから・・・そのことはまた話すっていってるでしょ?・・・あたし疲れたから寝るね。おやすみ。・・・・・・ほんと鈍感』



実央は逃げるように部屋へと言ってしまった。なにやら呟いた言葉は俺には聞こえなかった。


―――――――――――――――


翌日。



実央は相変わらず何食わぬ顔で起きてきて、いつものように朝飯を作って俺を起こしにくる。そして朝飯を食べ終わると学校に行く支度を始める。



『実央ー。学校いくぞー』


『うん、ちょっと待ってー』



いつもの時間に家を出て、いつもの速度で歩き、始業ギリギリのいつもの時間に学校へ到着。そんな俺の日常。



『寒い〜。えいっ、くっついちゃうもん!』


『しゃあねぇやつだな』



こんなラブラブですら、もう日常。

実央が転校してきて早々に公言してくれたおかげで、公認カップルということになって皆に疎まれたりすることがない。非リア充同盟も直樹が抜けて解散になったらしい。あいつらも諦めない心を学んだようだな。



休憩時間に交わされる会話、授業中のアイコンタクト、じゃれ合い、それら一日の全てがいつもとなんら変わりがなかった。ただ一点を除いて。


―――――――――――――――


放課後。



教室にて俺は用事があるからとどこかにいってしまった実央を待っている。かれこれもう1時間が過ぎ、教室内にいた生徒達はもう1人残らず帰ってしまった。ちなみに直樹は早百合に呼び出されたと言ってビクビクと彼女との待ち合わせ場所へ向かった。



さすがに探しに行ったほうがいいかと思った直後、教室の扉が開き、実央が入ってきた。



『お、やっときたか。長かったな。いつものやつじゃなかったみたいだけど』


『う、うん。今日は早百合ちゃんも用があったし、それに今日からその必要もないし』



実央はいつものような笑顔を見せず、なんだか緊張しているようだった。手を後ろで組むようにして、何やらモジモジしている。理由は解らないが。



『どうした?具合でも悪いのか』


『あ、いや、そんなことはないけど・・・』


『そうか?じゃあ帰ろうか。久々に嫁と帰れてうれしいよ』



俺が教室に置いていた実央の荷物を取りに行こうと立ち上がると、実央が呼び止める。



『あ、あ、あの!あのさ・・・!』


『?』



とりあえず荷物を後回しにして実央に近づく。少し実央の頬が赤く染まっている。夕日のせいだろうか?実央は伏し目がちに話す。



『その・・・ごめんね、ここ最近一緒にいられなくて。こ、これは、そのお詫び・・・!』



実央は顔を上げ、後ろ手に持っていた物を差し出す。俺はそれを受け取って初めて今日がなんの日であるかを思い出した。



『あ・・・今日、バレンタインだった』



すっかり忘れていた。なぜなら、いままでこの日に女の子から何か貰うなんてことが一切なかったから。それがこの日の日常だった。



『これ・・・作るために・・・・・・毎日・・・』


『別に、作れなかったわけじゃないからねっ!お菓子作りだけ苦手だなんてことないもん!』



その言葉自体が白状しているようなものだが、今はそんなことにツッコミをいれている場合ではない。俺の嫁が、毎日自分のためにお菓子作りの練習をしてくれていた。しかもその集大成がここにあるのだ。これで嬉しくないわけがない。



『ありがとな・・・実央』



実央の頭を撫でてやりたくなった。俺にはこのくらいしか、感謝の方法が思いつかなかった。だが実央も、それだけで十分だったようだ。実央の顔は恥ずかしがって下を向いていたが、明らかに夕日のせいなんかじゃなく真っ赤に染まっていた

可愛くて、優しくて、最高の嫁が、今俺の前にちゃんといる。ちゃんと触れられる。



俺と実央のストーリーで初めて、甘酸っぱいエピソードを体験した。


―――――――――――――――


『ちなみに内容量はカカオ99%だよ☆』


『めっちゃ苦えっ!!』


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