30、願いと決意
『何の話してたの?』
『べつに大した話じゃないから気にするな。・・・てか聞かれたくねえ』
『何か言った?まあいいや。おそばできたよ~』
さっきまで面と向かって言えないような話をしていたからびびったぜ・・・。あの様子なら聞かれてないよな?多分大丈夫だろうけど。くっそ直樹のやつ、何言わせるんだよ。
でも早百合じゃなかったのは幸いだ。あいつに聞かれたらほんとになに言われるかわからん。一日中いじられることはまず間違いないだろうな。なんであんなに性格悪いんだ、あいつ。それに比べてうちの嫁はよくできてる可愛くていい子だなあ!
『あんたそれ、全部聞こえてるわよ。てゆーか、よくも性格悪いなんていってくれたわね』
『はう?!』
なんてこった・・・。全て早百合に聞かれてしまった。思ったことが口に出る俺の悪い癖だ。よく言えば素直なのだが、今の状況では褒められたもんじゃない。
早百合に締め上げられた俺は晩飯前に土下座で謝ることになった。
『もう性格悪いなんて言うんじゃないわよ。わかった?』
『ハイ。スミマセンデシタ』
『これからは清らかな心の持ち主として崇めなさいよ!』
『ショウチイタシマシタ、ジョオウサマ』
・・・なんか趣旨がズレてるな。てかこんなこと言ってる時点で性格わりいよな。
ま、悪い癖のせいでこのあともう一度土下座することになったんだが。
―――――――――――――――
夜9時。
何はともあれ、無事に今年を終えることができそうだ。ただ、年越しそばが多すぎて、俺と直樹が少し苦しいことになっているだけだ。これは眠れない、いや、いっそ眠らなくていいか、大晦日だし。実央と早百合はピンピンしてるんだけどな・・・。
なんか大晦日の夜から元日の早朝にかけて特別な感じしないか?今日くらい公認でオールできる、みたいなさ。普段は眠いときはすぐに寝るんだけど、なんだか寝てしまうともったいないような。俺だけかな?
そんなこんなではちきれそうな腹を落ち着かせるために食休みしていると、実央が思わぬ提案をした。
『ねえねえ、11時くらいから神社まで出かけない?歩いていったら年越すちょっと前くらいには着けると思うんだけど』
『神社行ってどうするんだ?』
『そんなの、初詣に決まってるじゃない!』
年越し直後に初詣か、いいかもしれない。夜中だし人はいないだろうからゆっくり静かにできそうだ。全員賛成で夜中の初詣に行くことになった。
2時間後には少しくらい消化が進んでいるだろ。腹重い。
―――――――――――――――
神社につくと、辺りは真っ暗。近くに街灯などは無く、月の光だけが道を照らしていた。境内に人はいなく、雑音もなく静まり返っていて、俺たちの歩く音が鮮明に聴こえる。ここには、実央、早百合、直樹、そして俺しかいないのだ。
もともとさびれた神社の為、ほとんど来る人がいなく、お守りや絵馬などの販売も随分前からされていない。あるのは賽銭箱だけ。
『真っ暗ね・・・』
『そうだな。手、離すなよ』
直樹と早百合ははぐれないように手を繋いで歩いている。実央は少し寂しそうな顔をしているけど、どうしたんだろう。俺は寒いので手をコートのポケットに入れている。
『あ、あと2分くらいで0時だよ』
実央が腕時計を見てつぶやく。
『もう今年は終わっちゃうんだね』
『ああ。でも来年はもっといい年にしような』
『そうね。今年はほんと忙しかったしね』
『おかげで楽しい年だったけどな』
皆、それぞれ思うことを口にする。手には100円玉が握られている。そして時計の針は午前0時を迎える。
『3。2。1。・・・0時だよ』
『『明けましておめでとう!』』
その言葉と同時に一斉に賽銭を投げる。今年最初の願いだ。
『ね。ね。圭佑はどんなお願いしたの??』
『実央はどうなんだ?』
『あたし?あたしは・・・圭佑とずーっと一緒にいられますように。って。ねえ、圭佑は??』
『秘密。教えてやんね~』
『ああっ!ズルイ~~!あたしは教えたのに~!教えてよー!』
その後もしばらく神社で談笑して過ごした。俺の手には100円玉に替わって満面の笑みを浮かべた実央の小さな手が握られている。今までの俺の人生で一番楽しい初詣だったから、今年はきっと楽しくなるだろうな。
そのためにもこの願いはずっと忘れないでおこう。神様が叶えてくれなくても、自分で実現するために。
―――実央を悲しませない、強い男になれますように―――




