20、暖かいホワイトクリスマス
実央だ。
あれは絶対に実央だ――。
家の前に佇む人影はインターホンを押そうか迷っているようだった。
なにより、見慣れたポニーテールだった。
『実央!』
『!』
実央もこちらに気づいたようだ。
『戻ってきてたのか。ほら、ケーキ買ってきたんだ、中で食べようぜ』
懸命にいつものように振る舞う。しかし実央は、
『やっぱりダメだよ・・・』
俯いてそんなことを言う。
『・・・』
沈黙。今までの二人にはなかったもの。しかしそれはすぐに破られた。
『・・・実央、俺はお前が帰ってきてくれただけで十分なんだ。正直言ってお前がいなかった一ヶ月間は辛かった』
『でもあたし・・・あんなことしちゃって・・・手もいっぱい汚れて・・・いくら罪にならなくたって人をきずつけたから・・・。そんなあたしといたら圭佑まで変な目で見られちゃうよ・・・』
やはり実央は、事故とはいえ、人を刺してしまったという行為に少なからずショックを受けていたようだ。
だが、俺にはそんなことは関係ない。
『じゃあなんでここにいる?なんのためにここに帰って来たんだ?』
『っ!それは・・・』
『俺のことなんて気にするな。とにかく、俺にはお前が必要なんだ、だからさよならとかダメだとか言うな!』
『でもっ・・・でもやっぱりあたしは圭佑に相応しくない・・・!』
実央はそこで初めて顔を上げた。俺の目を見てくれた。それがきっかけで俺は勢いに任せて言葉を放っていた。
『あ〜〜もう!分からず屋だな!!いいか?!俺はお前がいないと寂しいんだよ!寂しすぎて死にそうだ!だからどこにも行かないでくれよ!!お前がどれだけ俺のことを考えてようが知ったこっちゃないんだ!誰が何と言おうが、実央は俺の嫁だ!!!文句あっか?!』
あまりの剣幕に実央は口をポカンと開けている。そして――
『ぷっ!あはははは!!』
笑った。実央は笑っていた。一ヶ月待ち望んだ実央の笑顔だった。
『フフ・・・圭佑、子供みたいだよ♪』
『・・・うっせぇ、お前のせいだ』
実央は俺に体重を預け、俺は実央をそっと抱き寄せる。実央がそっとささやく。
『ありがとね・・・圭佑』
『俺はなんにもしてねーよ。ただわがまま言っただけだろ?』
『へへへ♪・・・ね、圭佑?』
『どうした?』
『あたし、圭佑のお嫁さんになれてホントによかった。大好きだよ』
『俺も、実央が俺の嫁ですっげーうれしい』
しばらく抱き合っていると――
『・・・あっ!雪だ・・・!』
突然、天気予報にはなかった雪が降りだした。ホワイトクリスマスだ。まるで俺と実央を祝福しているようだった。
『寒いね・・・。でも、やっぱり圭佑ってあったかい・・・』
俺たちは沈黙し、見つめ合う。先程の沈黙とは少し意味が違う。
実央は、口の形だけで再び『ありがとう』と言った。
雪の中抱き合う俺達は、どちらともなく、吸い寄せられるように互いの唇を重ね合った。
実央の唇は、冷たかったけど、涙のような悲しい味ではなく、なんだか幸せな味がした。
俺達の、初めてのキスだった――。




