闘気の色
修業して、闘気が見えると楽しくなりますね。
久しぶりに道場でお佐那と向き合ったとき、変な感じがしました。
身体全体からうっすらですが、光のようなものが出ているのが見えるのです。
「お佐那、お前光ってない」
「いまさら? あんただって光ってるわよ。闘気って言うのよ」
詳しく聞くと、ある程度剣を極めると、人の闘気が見えるようになると言うのです。
特に対戦する時など、相手の背後にうっすら青白い光が見えます。
相手の剣の腕前に比例して、光はつよくなるのです。殺気のようなものですね。
「あんたの闘気の色は変だけどね」自分では見えません。
「どういう風に変なの」
「色が薄い黄色。こんなの見たことない」
見回すと、乱取りしている門人の方々の闘気は、光が強かったり弱かったりするのですが、みな薄い青色です。お佐那も薄い青色の光が、他と比べてけっこう強く出ています。
「闘気が見えるようになったってことは、あんたも修業が身について来たのね。それにしても黄色い闘気って何だろう」
他人と違って目立つのは嫌だな、とは思うのですが、自分で色の調整は出来ないみたいです。
黄表紙(娯楽小説)などで剣豪が、お主できるな、などと戦う前から相手の強さを見極めたり、待ち伏せの気配を感じて逃げたり、建物の陰から切りかかられても避けることが出来るのも、みな闘気が見えるから。
お佐那の説明に納得です。それにしても黄色って。
「先生に闘気の色のこと聞いてくる」定吉先生の前に行きます。
「先生、私の闘気、見えますか」
「ああ、薄黄色に光っているな」
「なぜ他の人と違って、私だけ黄色なんでしょう」
「黄色い闘気の色については何故かはわからんが、お前も闘気が見えるようになったのは大変な進歩じゃ。闘気について少し話しをしよう」
人はある程度修行して武術をきわめると、他人の闘気が見えるようになる。
武人にとっては昔から常識じゃ。普段は戦う意思が無いから、闘気はほんのりとしか見えん。
「戦う意思を強くすると、闘気も強くでる。わしを見なさい」
先生を見ると、急に闘気の光が強くなりました。さらにどんどん強くなる。
気がつくと道場中のみんなが手を止めて、こちらを見ています。先生のご長男重太郎さんが心配そうに来て、
「父上、どうなさいました」
「何でもない、今半蔵に闘気の説明をしておった。戻す」すると、定吉先生の光は、とても弱くなりました。
「このようにな、闘気の強さは自分の意思で調整出来るのじゃ。ただし、弱くは出来ても闘気の光は止めることは出来ないんじゃ。
さて、半蔵の闘気の色だが、手裏剣修行が理由かもしれん。
刀剣、弓矢、柔術など、体全体を使った武術の鍛錬をする前に、手裏剣術をある程度きわめてしまったのではないかな。それで他にはない個性的な色が出るようになった」
定吉先生は私の闘気を、個性と言ってなぐさめてくれました。
練習に戻るとお佐那が来て、
「半蔵、あんたの闘気の色の理由が分かったわ。チビだからよ。ほかの門人さん達と半蔵との違いって、背丈だけじゃない」
「チビって言うな、デカ女。そのうちお前、おしりもおっぱいもデカくなって、竹刀なんて持てなくなるくせに」
「お兄ちゃん、半蔵が助平なこと言う」
妹大好き重太郎がすぐにやってきて、半蔵、そこに直れ、とゲンコツ。
千葉佐那はそんなに大きな体格ではありません。成長期の男女差で、半蔵の方が佐那より背が低かったという事です。
家に帰るとお勤めから帰った父がいました。ようやくお城の本丸工事が終わって、大奥や白書院も黒書院も再建されました。噂では百万両を費やしたとのことです。
天保の大飢饉からそんなに経っていないのに、百万両は贅沢だ。上様にはご不便お掛けするが、コメの値上がりで庶民は困っているぞ。
その金使って経済を安定させろ。庶民の意見はいつの世も変わりません。
さて、父ですが、半蔵がどんなに見ても闘気が見えません。
「父上、闘気って、ご存じですか」
「焼き物のことか」
あれ、ご書院番士は武闘係で、上様を命に代えても守るお役目、その為に日々鍛錬されているのでは?
半蔵が意識的に、闘気を強くしてみました。父はポカンとしているだけ。見えていないようです。
後ろから来た和香が、
「半蔵、なにが光ってるの」この人、見えるんだ。すぐに闘気を弱くして和香ねえを振り返ります。
「何が見えた」
「なんだか黄色いもやもやした光」
姉上、武道の経験は無いはずです。お日様が照り返したんだろ、外は曇りよ、じゃあ何だろうね、なんてごまかしました。
夕飯の時、父上に武道の修業の話を聞きました。
「わしは、先日亡くなったお爺様に、子供のころから鍛えられたぞ。
素振りは今でも毎朝やっているだろ。(夕方の素振りは辞めてしまいました)乗馬は好きで、気が向くと遠乗りもするし、目黒のお不動様の縁日には馬を走らせ、毎月ちゃんとお札を貰ってくるではないか。
「剣は型稽古、弓は自己流だ」
父が鳥を射落としたと記憶していたのは、どうやら佐竹さんの間違いだったようです。
「今更なんで武術の話が聞きたいの」和香ねえが突っ込んできます。
「父上から借りた『五輪の書読本』を読んでいて、兵法の境地について考えてしまって。千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす、なんて無理だし」
「宮本武蔵でしょ。飛んでるハエを箸で捕まえた人」
宮本さんの人生省略しすぎでしょ。お通さんや佐々木小次郎はどうした。
「半蔵、剣術習ってるんでしょ、ハエ、飛んでるから捕まえて見せてよ」
志乃ねえまで調子に乗って私をからかいます。
「そうやって俺をいじるんだ。普通、飛んでるハエを箸で捕ろうなんて思わないだろ。あ、出来た」
「きったない、そんなことしてないで、さっさと箸洗ってきなさい」
自分でビックリ、箸でハエを捕まえてしまった。鳥の動きを予測する訓練の成果でしょうか。
それにしても汚いですね。箸洗っても食欲無くなりました。
次回はお佐那と半蔵の対決です。




