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50 想いが重すぎ

「あの連中一体何者なんだよ?」

「え、知らないの?」

「知るか! また何か組織に組み込まれてるんじゃねーだろうな」


 う。まあ、組み込まれているといえば組み込まれた、のかな。

 フォグリフみたいな裏組織というわけでもなければ、命の危険はないし、むしろ助けてくれる方だから、そんなに気にしなくても大丈夫、な、はず?

 

「……魔法王国の無念を晴らす秘密組織なんだって」

「やべー組織だな」

 

 率直に私が思ったのと同じ感想を口にする奴には反論できない。


「だから女神を敵視しているし、魔法王国の王の一族の血脈を見守ってるみたいよ」

「滅んだ国によくもまあそんなに思い入れを持てるもんだな」


 奴の言葉には同意でしかなくて、頷いていれば何だか奇妙な気持ちになってきた。

 こうやってこいつに背負われるのって前にあったんだっけ? 何だかまたこの感覚か、みたいな感じがして――あ、そっか、リハト様に背負われた時と似た感じなんだ。

 目の前に見える髪の色が同じっていうのもあるけど、何となく。やっぱ兄弟なんだな。

 

「で、何であれと馴れ合ってんだよ?」


 私がリハト様のことを口にするよりも前に、それよりも先に奴がそんなことを尋ねてきた。

 あれって、変態のこと?

 正直、変態って罵れないぐらい借りを作っちゃってる気がする。

 借りは返さなきゃと思うけど、ミレイがとどめを刺すなら、それも考えなくてもいいのかも……?


「さっき一発殴ったから、もういいかなって」

「は? 殴った? もういいって本気かよ?」

「あとはミレイに任せる」

「お前、あいつをあんなに嫌がってたのに?」

「ユーシュレイが女神に反抗して一撃食らわしていたおかげで、女神から逃げることができたんだから、あんまり強く言えないのよ」


 ユーシュレイが女神を拒否したから、女神より私を選んだから、今私が私でいられるのは確か。


「――あいつは名前で呼ぶのに、俺は人でなし呼ばわりか」

「人でなしなんて今は呼んでないでしょ!」

 

 人聞きが悪い。

 ちゃんと名前を――あれ、呼んでたっけ?

 呼んでないな、そういえば。


「な、名前呼んだから私の居場所が分かったんでしょ!」


 責められてはたまらない、とすかさず話題を転換させておく。

 ちゃんと魔法は発動したから女神の魔法を防ぐことができたんだし……、そういう意味では生き延びられたのはこいつのおかげでもあるのか。


「あ――」

「だいたいなんで聖域になんて――気が付けばこんな田舎に移動してるし」


 口にしようとしたお礼は外に出る前に、そんな愚痴とも文句ともいえる言葉にかき消されてしまった。

 まあいっか。まとめてどこかで伝えればいいや。


「リハト様から聞いてないの?」


 弟のとこに行くって言ってたから事情はリハト様から伝わっていると思ったのに。


「誰があれと話なんて――ってなんでその名前が出てくる?」


 え、何か弟の方は兄の事あんまり好きじゃないっぽい? そしてまだ再会していないみたいなのはなんでなの?


「聖域でリハト様に会って、それで、一緒に転送ゲートで戻ってきたつもり、だったんだけど。ユー……変態が言うには私だけ女神にゲートの中に閉じ込められちゃったらしくって」

「……なるほど、女神ならあの空間を制御することぐらいたやすいだろうな。リハトは今王城の貴人牢に投獄されている。理由は知らん」

「投獄!? って、あー、聖域燃やしちゃったから」


 まあ、それはそうなるよね。


「燃やした!?」

「うん、たぶん威嚇的な魔法だと思うけど、火の海にしてた。あと、第三王子も脅してたし、不敬罪ってやつ?」


 あの筋肉王子様は王子様って感じしないけど、王族だから脅したりしちゃまずかった?


「何やってんだっ……! あいつ……!」

「リハト様を迎えに行ったほうがいいんじゃない?」


 人のことどうこう言えないぐらいこいつもやらかしているような気はするけど、絶対怒るから思うだけにしておく。

 偶然リハト様に会わなければ、詰みだったのは間違いないわけで。ご恩はちゃんと返したいと思った。

 というか、ほんと私、綱渡りだったんだな、あの状況。

 色々な人の助けがあったからこそ今がある。本当に感謝しないと。


「は? 何で?」

「え、だって、お兄さんなんでしょ?」

「はぁ」


 なんでそんな疲れたようなため息をつくのか。家族を助けるのって当たり前じゃないの?


「……じゃあ、私が王様に交渉してみる。リハト様を釈放? してくださいって」

「どうやって?」

「色々ばらすぞ、と」


 生き残った私には王様を脅すネタはいくつもあるのだ。

 こんな目に合わせてくれた王様を許すつもりは勿論ない。


「色々って、脅迫かよ」

「脅迫よ。とにかくリハト様にはお世話になったから、借りは返す。王様にも色々お世話になったから、そっちも返す」


 町の出入り口までたどり着いたらしい。奴――じゃなくてマレムはそこに待たせてあったであろう馬に足早に歩み寄ると私を馬に乗せ、自分の馬に乗った。


「じゃあ王城だな」

「協力してくれるの?」

「好きにしろ」

「――頼りにしてるから、番犬さん」

「誰が番犬だ!」


 冗談めかして言えば、怒鳴られてしまった。

 だって、王族の方々はみんなそういって恐れているんだもん。

 まあ、邪魔はしないって言ってくれるんだったら、思い切り有効利用させてもらうだけだ。


「狂犬女はどうする?」

「すぐ終わらせてかけつける。ミレイの方が手間取ると思う」

「……」


 怒り狂ったミレイを鎮めるのは骨が折れるのだ。上手く正気に戻せるかもちょっと不安。

 それも併せて思い知れ、王様!




「申し訳ございませんでしたーっ!」


 公爵家専用の待合室で、思ったよりも早くやってきた王様が、やってくるなり私の前にひれ伏した。


「いや、しかし、無事で――」

「国王様、私、まだあなたの番犬に事のあらましを何もお話ししてないんです」

「ひぇっ!? まだ、なにも?」


 頭を上げて立ち上がろうとした王様に冷たく言い放てば情けない悲鳴を上げる。

 そんなにこの一家を恐れるとは、過去に何かやらかしたりした?


「いずれにせよ説明はしなきゃいけないと思うんですけど――」


 と、そこまで言って、声を絞って続ける。


「は・ん・しょ・く・計画は」

「うわああああ! そ、それは!」


 慌てている王様の様子に、小さく肩をすくめて声量を戻してつづけた。


「失敗されたので、特に報告義務はないかな~って思うんですよね?」

「も、もちろん、もちろんだとも!」


 こんなにうろたえるなら最初から計画たてなければいいのに、と思うんだけど、やっぱりロマンってやつなのか。


「今こうやって、リハト様を弟君が迎えに来たのに、会えないってどういうことでしょう?」

「いや! 聖域を恐怖のどん底に突き落とした重罪人で――あ、いえ、今すぐ連れてくる! すぐにだ!」


 マレムをちらっと見て、そう吐き捨てると王様は部屋の外に走って行ってしまった。

 終わった、かな。


「何を交渉材料にしたんだよ?」


 国王の動揺が大きすぎるのが気になったのか、そう問いかけてきたが、「さあ?」ととぼけておいた。

 こいつ結構とぼけるが有効な気がしてきた。不都合な話は全部とぼけておくことにする。


 座ってお茶を飲んでいれば、何かがドアにぶつかるような勢いでこじあけて、誰かが部屋に飛び込んできた。

 まるで野生の動物のような俊敏な動きに立ち上がりかけて、突き刺すような痛みにそのままソファに座り込む。痛い、これ地味に煩わしい。


「マ、マレムくん!!!」


 あ、野生動物じゃない。リハト様だった。

 解放されたその足でこちらにやってきたのか、息はあがっているし、そのお奇麗な御髪も乱れている。額に玉のような汗を流しながらも、飛びつくように弟の体にぶつかっていった。


「会いたかった! 元気なのは風のうわさで聞いていたけど、病気とかしていない? ケガは? ああ!マレムくんが迎えにきてくれるなんて!! 神様! ありがとうございます! 修行の成果ですね!! 本当にありがとうございます!!」


 ……えっと。ものすごく暑苦しいっていうか。

 兄に腰の辺りにしがみつかれた弟の顔は凶悪の一言だ。隙あれば殺る! みたいな顔をしている。


「あ、い、かわらず、ですね、兄上……!」


 何とか絞り出した風の声は震えている。多分殺気で。

 なるほど、こういう兄弟なのか。温度差ありまくり。


「顔をよく見せて! 毛艶もいいし、肌も相変わらず綺麗だ! 健康そのものだね! よか――」


 怖い。

 リハト様めがけてものすごく大きな魔力が集まったのはわかった。

 笑顔のリハト様がそれを障壁っぽいので防いだのもわかった。


「やだな、マレムくん、僕が結界魔法の専門家って知っててそういうことする? 通じないよ? わかってるよね?」


 兄のほうも、なんかちょっと笑顔が怖いんですけど……。

 

「王城でこんな大規模破壊魔法を放ったら、父上がどう動くと思う? さすがに帰郷早々どやされるのはさけたいな?」

「……サラ」

「あ、はい」

 

 滅茶苦茶怒気の篭った声音で呼びかけられれば素直に返事するしかない。


「行くぞ、狂犬のとこだ」

「あ、はい」

「サラさん! 無事でよかった! マレムくんのところにたどり着けたんだ! びっくりしたよ、ゲートを抜けてたらいなくなってたから」

「ご心配をおかけして申し訳ございません、弟さんにたすけてもらったおかげで何とか」


 弟の方から早く行くぞという圧は感じていたが、リハト様に話しかければ応じるしかない。

 頭を下げてそんな風に受け答えしていれば、マレムの視線が痛いほど突き刺さっているのを感じる。

 仕方ないでしょ! リハト様は恩人なんだってば!

 

「そっか、マレムくん、聞いたよ! 婚約者を挿げ替えたそうだね。より若い女性を選ぶのは男の性ではあると思うけど、ちゃんと誠意をもって――」

「サラ!」

「はい!」


 なんかひどいことを宣っているリハト様の言葉にかぶせる様に名前を呼ばれ、反射的に返事をする。

 勢いよく返事をすることしかできないでしょこんなシチュエーション。

 

「行くっつってんだろ!」

「はい!!」


 わかってる! 移動すればいいんでしょ、移動すれば!

 とりあえず痛いのを我慢して立ち上がる。う、ん、たぶん行けそう、かな。


「女性に怒鳴るのはダメだって、何度も言ってきたつもりだけど」

「離せ! バカ兄!」


 何だかリハト様は冷たい口調で、抱き着いていた弟の腰回りを締め付けて動きを封じちゃったんだけど、えー……と、これはどうしたらいいの?


「サラさんケガしてるんだから、その辺を考慮してあげないと。女神と対峙したショックもまだ抜けきってないだろうし」

「……」


 リハト様、それは正論ですけど、弟君の怒りのバロメーターがぐんぐん上がっているだけな気がします。

 それを口にするとそろそろ爆発しそうなんで私は何も言いません。

 大人しく、退室しといた方がいいかな。

 左足を引きずりつつドアへと向かい、部屋から出ようとした途端に、勢いよく部屋に飛び込んできた人物に突き飛ばされた。

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