41 お姫様ごっこ
とはいえミレイに怒ってもそれは八つ当たりでしかない。
やりたいことはただ一つ、王様に文句を言う。その目的のために時間をつぶす。
「やっぱりお城ってだけあるわね」
ずっしりとしたフルーツパウンドケーキを一口食べてミレイが正直な感想を口にしている。
私も並べられた焼き菓子を端から食べているが同じ気持ちだった。
様子を伺いにきた侍従さんに、お菓子が食べたい! と無茶ぶりをしたところ、テーブルの上にこれでもかというほどお菓子を並べられてしまった。
食べられるものなら食べてみろ、という意図を感じたので、じゃあ食べてやろうじゃない! という気持ちで食べている。もはや楽しいおやつというより戦いだ。
ちゃんとお茶も用意してくれるあたりはさすが、というべきか。
貴族の家っていうとあいつのところと、ファーナ様のところと、サディストお嬢様のところぐらいしか知らないけど、やっぱりどこもお菓子は美味しい気がする。
バターも砂糖も惜しげなく使っているのが美味しさの秘訣なんだろうか。おいしいけど、食べ続けていると感じるのはくどさだ。
ちなみに今の時間はお昼前だ。お昼ご飯はいらないな、この満腹感。
「こんなに食べきれるか! 勿体ない!」
「サラ、あんまりカリカリしないの」
食べ残したくないのに、限界は見えている。
これ残したら明日食べられるように保管してもらえるのだろうか。そんなこと考えてるってものすごく卑しいのか。
「じゃあさ、サラ! お姫様ごっこ! やってみない?」
お姫様ごっこ……? 初めて聞く単語なんだけど、なんだろそれ?
「なにそれ、どういう遊び?」
「ただ、お姫様になりきってそれっぽい会話するだけだけど……やったことないの?」
「ない」
それ楽しいの?
「せっかく衣装もあるんだし、ほらドレスっぽいのもあったから、リアルなお姫様ごっこになるわ!」
「えー……」
なんでそんなにやる気なの、ミレイは。
「コレ! 着てみて!」
楽しそうにクローゼットをあさるミレイに、これがやりたかったのか、とようやく理解した。
着せ替え人形か! というぐらい何度も脱着させられている。疲れるんだってばこれ。
ミレイもやれば? と言ったが用意されている服のサイズがジャストサイズだからミレイには着ることができないんだそうだ。こんなににぴったりなサイズの服が大量に置かれているのはやっぱり恐怖でしかないんだけど。
とはいえさっきからミレイに八つ当たりばっかりしている自覚はあるから、ミレイが満足するまで付き合うつもり。
「それもいいわね? あ、でも一回脱いで」
いう通りに脱いで下着姿になる――といってもドレス専用の下着でキャミソールワンピースみたいなものだから、下着感は少ない。
ちょっと待っててーとクローゼット内を漁り続けているミレイを見やって、ちょっと休憩しとこうかなーっとソファに座ってテーブルのお菓子を適当につまむ。
そしてお茶をティーポットからカップに適当に注ぎ――
「魔法王国の末裔とは貴様か!」
ったくどうしてどいつもこいつもノックもせずにドアを開けるだけならまだしも中にまでずかずか入りこんでくるんだろうなああ。
さすがにイラつく。貴様とか言っちゃうタイプとは絶対相いれない。
「って、なんだその恰好は! 色仕掛けか! きかんぞ!」
ああ、下着だった。
勝手に入ってきてこの言いぐさ!
こういうお色気的な展開は誰も求めてないと思う。
「おおっと、顔にでっかい蠅がとまっておりますわぁあああ!」
この侵入者をどう排除しようと考えていたら、クローゼットから出てきたミレイが助走をつけて侵入者の横っ面を思いきり殴りつけた。
さすがミレイ。やっぱりミレイだわ、綺麗にきまった。
思い切り後方に吹っ飛ぶその侵入者が床に落ちる前に、ミレイは首根っこを捕まえ開いたままになっている扉に向かって放り投げた。
「……むごい」
「乙女の部屋に侵入してくるような不埒な輩には人権はいらないって思っているの、私」
手を払いながらミレイはドアを思い切り閉めた。
「ちなみに今のが愚鈍な第四王子」
あれが王子!?
思い切り殴っていたけど、不敬罪とか――ミレイだから罪に問うのも無理でしょうけど。
っていうか今のが王子って、この国終わりすぎ。
「バカっぽかった」
「実物を見たのは初めてだけど、確かにバカっぽいわよね」
「誰が馬鹿だあああ!!!」
うわああ! なんかまた来た! ミレイに殴られたにしては復活早すぎる!! 勢いよくドアを開けて再度侵入してくる第四王子とやら。
口から血を流して、なんだかもうボロボロな様相なんだけど、確かにこれは王子様だ。絵本に出てくる系の奴。
碧眼金髪、ひょろっとした体。なんか白馬に乗っている系。
「さっさと服を着ろ! この痴女!!」
なんか懐かしい呼称だけど、嬉しくなんかない。
むしろ殺気だ。殺気を覚える。
「いやですわ、人が着替えている部屋に無断で侵入してきたのは、あなたですよ、王子殿下?」
むかつきもピークだし、殺意もピーク。
イメージはファーナ様だ。やわらかい口調で奴を痛めつける口撃。それで厭味をぶつける作戦で行こう。決定。
「淑女とは申しませんが、妙齢の娘に対する配慮もなく、暴言まで吐かれるとは、とても紳士――人の上に立つ者の所業とは思えませんわねえ」
「サラ、もうちょっと殺気抑えたほうがいいわよ」
こっそりとミレイが耳打ちしてくる。
殺気、漏れ出ているのか。でも結構色々とイライラもムカつきもピークなんだもん、仕方ないよね。
「この――雑種め! 庶民の血にまみれた貴様など誰が望むものか!」
もう何言ってんだろうな、この馬鹿王子様は。
「望まれたくなどありませんけれど?」
「普通にお断りよ」
ミレイと口々に拒否の意を示せば第四王子はその顔に怒りのせいか青筋が立つのがわかった。短気すぎ。
どうしようかな、こうやって煽って自爆するのを待つのも面倒だし、たぶん銃があれば撃ってたな。あいつ後始末はしてくれるって前に言ってたけどあれってまだ有効なのかな。
どっちにしろ今は銃を持ってないし、あるのは毒か。でもこれを使うにはこの馬鹿相手には勿体ない。
どうも普通の常識をもった人間に出会えないのはなぜなんだろうな、本当に。
ミレイなんて全然まともな方なんだけど。
「貴様!」
「きゃあああああ!!」
迫真の演技である。
頑張ればかわいい悲鳴ぐらいあげられる。
悲鳴を聞きつけてか、まずさっきも見かけた侍従さんが飛び込んできた。続けて侍女さん二名。
「な、なにをなさっているのです! 王子殿下!」
「た、助けてください! こ、この方が――」
は迫真の演技を続けるだけだ。
何をしたかは言わずに、ただ涙を流して泣きじゃくる。これであとはお察しくださいだ。
ちょうど下着姿だからできるウルトラ技だ。
幼い娘を好む変態という称号まで与えるというサブ効果もあり。まあこれも自爆技だよね。
「き、貴様! は、離せ! わたしを誰だと思っている」
「……変態」
どこからともなくやってきた兵士に拘束されている王子様にだけ聞こえるように小さく告げて、はミレイへと抱き着いた。
「ミレイ、怖かったよー」
「ああ、こんなに泣いて、かわいそうなサラ……」
ミレイ、演技が下手だわ。……問題にはならないとは思うけど。ミレイにも苦手なものがあるんだ。
「うああああ、あの女にはめられたんだ! はなせ!!」
雄たけびを上げながらひきずられていく第四王子様とやらに心の中だけで大きく手を振って別れを告げる。
これに懲りたらノックする習慣を身に着けてほしいわ、ホント。
畳んであったさっきまで身に着けていた服を広げ、素早く身に着ける。一応侍従さんがまだいる。さすがに恥ずかしい。
「大変申し訳ございませんでした!」
深々と頭を下げる侍従さんと侍女さんたちを見回して、助けてくださったことに感謝を述べると、彼らは再び頭を下げると全員部屋を出て行った。
「なかなかえげつない手段を使ったわね」
「誰の手も汚さない、最善手と言ってよ」
思いついたそのままに行動してみたけど、効果的すぎてがびっくりしている。
「さすが死神姉妹だなー。見事な手際で」
声にミレイと一緒に驚いて飛び跳ねてしまった。
いつの間にか、部屋の中にランドがいた。
「あの侍従のおっさんにちょうど案内してもらってたとこだったんだよ。完璧声かけるタイミング失ったわ」
「何しにきたのよ?」
「そんなに睨むなよ、ミレイ。おつかいだ」
ランドはそう言って私に黒い塊を放り投げた。
投げるの!? 慌てて落とさないようにキャッチしてみれば見慣れた銃だ。
「投げたら危ないでしょ」
「それ持っとけってさ。ちょっと遅かったか?」
確かに遅かった。さっき持ってたら間違いなく撃ってたし。
「中身は?」
「なんか黒くておどろおどろしい魔法を詰めてたな」
やめてほしい。絶対使えないでしょ、そんなの。
「最悪国王撃ってもなんとかフォローしてやるって」
「どんだけ!」
フォローできんの? それ。
何にせよ、あいつらしすぎて笑うしかない。
「文句を言う割にゃ嬉しそうじゃん?」
「そりゃ、身を守る手段ができれば嬉しいに決まってるでしょ」
何を当然のことを、という気持ちで言ってやれば、ランドは私の肩にぽんと手を置いて、意味深な笑みを銃へと向けた。
「頑張れ」
「この監禁生活をどう頑張れと?」
疑問をぶつければ、ランドはミレイと顔を見合わせてやれやれと同時に肩をすくませた。
二人して何、その反応は!
「じゃ、そんなわけで俺はいくぞ」
「どこに行くのよ?」
「色々調べもの。近くにいるから、何かあれば呼べよ」
ミレイの問いかけにそう答えるとランドは素早く部屋を出て行った。なるほど、昨日のあの命令か。あれこれと使われて大変だなランドは。
銃はポケットにしまっておく。
おどろおどろしい魔法がどういうものかわかんないけど、だいぶ使える範囲は狭そうだ。少なくともあのぼんくら王子に放ったらヤバイことは理解してる。




